行方不明
『浅茅が露』 中納言の胤を宿した姫君は、親代わりの兵衛大夫の邪恋から逃れるべく、太秦に参籠し、さらに西の京に身を隠す。中納言も兵衛大夫も、姫君の失踪に悲嘆する。
『失われた時を求めて』(プルースト)第5篇「囚われの女」~第6篇「逃げさる女」 「私」はアルベルチーヌとパリで同棲しつつ、「彼女は同性愛者ではないか」と疑い、嫉妬の感情に苦しむ。「私」はアルベルチーヌの行動を監視するが、ある朝、「私」が眠っている間に彼女は姿を消す。「私」はアルベルチーヌの行方を捜し、何とかして連絡を取ろうとする。しかし彼女の叔母から、「アルベルチーヌが落馬事故で死んだ」との電報が届く。
『源氏物語』「帚木」 頭中将の愛人(夕顔)は、頭中将の妻(右大臣の四の君)から脅迫じみたことを言われたなどのことがあって、幼い女児とともに突然姿を消し、行方知れずになる。五月雨の夜、頭中将は、行方不明の愛人のことを光源氏に語る〔*行方知れずの女・夕顔は、五条の陋屋に住み、光源氏と関係を持つが、まもなく死去する。遺された女児は乳母に連れられ、九州へ下る〕。
『源氏物語』「浮舟」 浮舟は、薫と匂宮の双方と関係を持ち、板ばさみになって苦悩する。彼女は入水を決意して宇治の山荘から姿を消す〔*後、浮舟が比叡坂本の小野に生存していることを薫は知るが、会えぬままに物語は終わる〕。
『狭衣物語』巻1 狭衣は、法師に誘拐される飛鳥井の女君を救い、以後、身分を隠して女君のもとへ通う。しかし式部大夫が女君に言い寄り、乳母と手を組んで女君を連れ出して、筑紫行きの船に乗せる。女君が突然行方知れずになったので、狭衣は嘆き悲しむ〔*3年後、狭衣は女君の兄僧に出会い、彼女の消息を聞く〕→〔入水〕3。
『小夜衣』中巻 按察使大納言の姫君が帝に恋慕され、これを憎む継母が乳母子民部少輔に命じて姫君を監禁させる。行方知れずの姫君を思って、帝も、姫君の愛人である兵部卿宮も、途方に暮れる〔*後、民部少輔の妻の援助で姫君は救い出され、兵部卿宮と結ばれる〕。
『嵐が丘』(E・ブロンテ) 浮浪児ヒースクリフは、アーンショー氏に拾われる。アーンショー家の長男ヒンドリーはヒースクリフを虐待するが、長女キャサリンはヒースクリフと心を通わせ合う。しかし年月を経て、キャサリンが近隣のエドガー・リントンと婚約したため、ヒースクリフは「裏切られた」と思い、家を出て姿を消す〔*3年後にヒースクリフは富裕な紳士として戻って来る。彼はヒンドリーに復讐し、キャサリンに言い寄る。しかしヒースクリフとキャサリンは、この世では結ばれない〕。
『苔の衣』 苔の衣の大将の妻は、若君・姫君を残して28歳で死去する。大将は悲嘆の余り比叡山の奥に籠もり出家して、行方知れずになる。24年後〔*年立を作って計算すると11年後〕、中宮となった姫君が病気で重態に陥り、それを知った大将は下山して加持し、姫君を救う。
『金色夜叉』(尾崎紅葉)中編第4章 1月17日の夜、間貫一は熱海の海岸で鴫沢宮に別れを告げ、鴫沢家を出て行方知れずになる。宮は富山唯継に嫁して、4年後に田鶴見子爵邸で思いがけず貫一と再会する。その時貫一は、高利貸鰐淵直行の手代となっていた。
『駅路』(松本清張) 銀行を定年退職した小塚貞一は、「しばらく1人旅をしたい」と妻に告げて家を出、そのまま行方不明になった。小塚には家へ帰る意志はなく、彼は残りの人生を、愛人の福村慶子と暮らすつもりであった。ところが、慶子は急病で死んでしまった。行き場を失った小塚は、持っていた多額の金をねらわれ、慶子の従妹よし子とその情夫によって殺された。
★4.行方不明の隠蔽。
『半七捕物帳』(岡本綺堂)「狐と僧」 某宗派で内紛が起こり、本山の僧たちが、対立する時光寺の住職を連れ去って本山派の寺に幽閉する。住職が行方不明になれば奉行が厳しく詮議するので、本山の僧たちは世間の目をごまかすために、古狐の死骸に住職の袈裟や法衣を着せて、溝(どぶ)の中に放置する。人々は、「時光寺の住職は古狐が化けていたもので、死んで正体をあらわしたのだ」と考える。
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