発明の成立性と特許法第104条の3
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「ソフトウェア特許」の記事における「発明の成立性と特許法第104条の3」の解説
いわゆる「キルビー判決」債務不存在確認請求(平成10年(オ)第364号)最高裁平成12年4月11日第三小法廷判決において、「特許の無効審決が確定する以前であっても、特許権侵害訴訟を審理する裁判所は、特許に無効理由が存在することが明らかであるか否かについて判断することができると解すべきであり、審理の結果、当該特許に無効理由が存在することが明らかであるときは、その特許権に基づく差止め、損害賠償等の請求は、特段の事情がない限り、権利の濫用に当たり許されない」旨が判示され、従来の大審院判例(大正5年(オ)第1033号)が変更された。これにより、権利濫用の抗弁が、知財訴訟においても認められるようになった。 そして、この特許権などの侵害訴訟と特許無効審判等との関係を整理するために、平成16年の特許法改正(特許庁による改正ではなく、裁判所法等の一部を改正する法律(平成16年法律第120号)による一部改正)において、特許法第104条の3の規定が設けられた。これは、(特許権者等の権利行使の制限)として「特許権又は専用実施権の侵害に係る訴訟において、当該特許が特許無効審判により無効にされるべきものと認められるときは、特許権者又は専用実施権者は、相手方に対してその権利を行使することができない」旨が規定されたものである。 この特許法改正に関しては、過去の訴訟に係る特許権に無効理由が数多く存在したことも影響していると考えられる。たとえば、アルゼ株式会社の「スロットマシン」の特許権(特許第1855980号)に基づく損害賠償請求事件(平成11年(ワ)第23945号)東京地裁平成14年3月19日判決では、サミー株式会社に74億円余の支払いを命じたものの、その特許が無効審判で全部無効とされ、その後の審決取消請求行政訴訟(平成15年(行ケ)第36号)東京高裁平成17年2月21日判決により、当該特許の無効が確定した。このような事例が相次いだことにより、特許権などの侵害訴訟と特許無効審判等との関係を整理するために設けられた規定である。 上記のように、ビジネス形態を主眼とした「ソフトウェア特許」においては、多くの場合、取引の形態や、商取引の方法など、ビジネスの手法に主眼が置かれているため、コンピュータソフトウェアの構成部分については、各機能手段が、中身の空虚なブロックとして形式的に記載されるだけのものが多い。特許要件の根拠となる基本的な部分が全く記載されていない場合等には、基本的な意味で自然法則に基づく技術的思想そのものが構成されていないことになる。このような自然法則を利用した自然力を有しているとはいえない発明や、実施例において具体的なしくみが全く記載されていないような発明については、コンピュータ・ソフトウェアとしての特許要件を満たすことにはならないため、訂正によっても補正不能な、明らかに無効な特許権の行使である場合に該当し、権利濫用に該当すると判断される可能性がある。 たとえば、発明の成立性と権利濫用の例については、実用新案権侵害差止等請求事件(平成14年(ワ)第5502号)東京地裁平成15年1月20日判決 (控訴中)において、 『上記本件考案は、専ら、一定の経済法則ないし会計法則を利用した人間の精神活動そのものを対象とする創作であり、自然法則を利用した創作ということはできない』として、本質的な考案の特徴部分には自然法則に基づく技術的な構成が含まれていないから、権利は無効であり、権利行使はできないと判断された。 また、最近の例では、特許法第104条の3を用いた権利行使の制限の抗弁によって、「一太郎」特許権侵害差止請求控訴事件(平成17(ネ)10040)知的財産高等裁判所平成17年9月30日大合議判決では、株式会社ジャストシステムが松下電器産業株式会社に逆転勝訴することができた。この場合においては、株式会社ジャストシステムが松下電器産業株式会社の特許権に進歩性の欠如を有していることを証明したことで、松下電器産業株式会社(控訴人)の権利の行使が認められなかったものである。 参考文献 「“一太郎・花子”特許権侵害差止請求控訴事件」
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