生体における超酸化物
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2020/07/28 02:24 UTC 版)
生体中に発生したスーパーオキシドアニオンは、スーパーオキシドディスムターゼ (SOD) と呼ばれる酸化還元酵素で二段階の一電子酸化還元を経て過酸化水素に変化する。 2 O 2 − + 2 H + ⟶ O 2 + H 2 O 2 {\displaystyle {\ce {2O2^- + 2H^+ -> O2 + H2O2}}} この過酸化水素はさらにカタラーゼやペルオキシダーゼで無害化される。 また、生体における超酸化物は毒性を示し、免疫系では侵入した微生物を殺すのに採用されている。食細胞では、超酸化物は酵素のNADPHオキシダーゼにより大量に生成され、酸素依存性の侵入病原体の殺菌機構の一部として働いている[疑問点 – ノート]。NADPHオキシダーゼ遺伝子の突然変異は容易に感染する特徴をもつ慢性肉芽腫症と呼ばれる免疫不全症候群を引き起こす。一方、病原菌のSOD遺伝子をノックアウトすると病原性を失う。 超酸化物は、ミトコンドリア(Complex I および Complex III)をはじめ呼吸代謝に関与する多くの酵素から副生成物として生じており、代表としてはキサンチンオキシターゼが知られている。 超酸化物が毒性を示すので、酸素が存在する全ての細胞小器官の近傍には、超酸化物代謝酵素、スーパーオキシドディスムターゼなどさまざまなアイソザイムが含まれている。SOD は極めて効果的な酵素で、倍の速度で超酸化物を消失させ拡散させることができる[疑問点 – ノート]。他のタンパク質(例:ヘモグロビン)では超酸化物を生成あるいは作用させる両方の働きをする上に SOD 類似作用としては弱い。細菌からマウスまでに対して、SOD 遺伝子をノックアウトすると細胞組織の有害な遺伝形質となり、生体における超酸化物の毒性機構の重要な手掛かりが得られる。 ミトコンドリアおよび細胞質の両方で SOD を欠く酵母は、空気中では全く増殖しない。しかし、嫌気的条件下の培養では全く影響を受けない。細胞質の SOD を欠く場合は突然変異や遺伝子の不安定化が増大する。ミトコンドリアの SOD (MnSOD) を欠くマウスは、神経変性、心筋症、乳酸アシドーシスで生後21日で死亡した。細胞質の SOD (CuZnSOD) を欠くマウスは生存するが、複数の病変を示し、生存期間の短縮、肝癌、筋萎縮症、白内障、胸腺萎縮、溶血性貧血、メスの早期閉経などが増加した。 超酸化物は多くの疾病の原因に関与していると推定されている(放射線障害や酸素過剰症については強い根拠がある)。そして、恐らくは、酸化による細胞への障害を通じて加齢にも関与していると推定されている。 特定の環境条件下では超酸化物の作用による病変は強く現れる。実際、マウスやラットでは CuZnSOD あるいは MnSOD の過剰発現は脳卒中や心臓発作の抵抗性を増す。一方。超酸化物の加齢における役割は現在のところ未解明である。CuZnSOD を遺伝子ノックアウトしたモデル生物(酵母、ショウジョウバエ、マウス)では生存期間の短縮と老化の兆候(白内障、筋萎縮、黄斑変性症、胸腺萎縮)の加速が見られた。それに対して、CuZnSOD 量を増やした場合は(恐らくはショウジョウバエの場合を除き)一貫した生存期間の延長は見られなかった。最も一般的な見解によると、(超酸化物に起因して、導かれる様々な要因による)酸化による障害は寿命を制限するいくつかの要因の1つであると考えられている。 人体からスーパーオキシドアニオンを除去するにはビタミンC、ポリフェノールなどが有効とされている。
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