特別養子縁組が広がらない背景
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/05/05 03:08 UTC 版)
「特別養子縁組」の記事における「特別養子縁組が広がらない背景」の解説
2014年度において513件の特別養子縁組が成立し、統計上は養子縁組を望む妊婦よりも養親希望者の方が多いにもかかわらず、家庭養護の下に置かれる子どもの数は依然として増えていない。その背景としては以下の5点が挙げられている。 認知度が低い 例えばアメリカでは養子縁組が国の児童福祉政策の一環と位置づけられ、養子縁組に関する認知度も9割近くととても高く、アメリカ人の約3人に1人が養子縁組を考えたこともあるとアンケート調査に回答している。行政の支援もあり、年間12万件を超える養子縁組が成立しているとされ、Apple Computer創業者のスティーブ・ジョブズ、映画監督のマイケル・ベイ、俳優のレイ・リオッタなど養子出身の有名人も多い。人口が日本の約半分のイギリスやフランスでも毎年5千件程度が成立している。 一方日本ではまだ養子縁組の認知度が低く、活性化のための議論も近年になって始まったため、実際には養子縁組が可能なのにもかかわらず、そういった事実が妊娠した女性に認識されないままに中絶などの悲しい結果に至っている可能性がある。 養親からも、日本では「(産んでも)子供が幸せになれない」といったような理由で赤ちゃんが中絶されてしまうことがあるとし、「生まれる子供が幸せになれるかどうか。それは、必ずしも大人が判断することではないと思う。世の中には、子供をほしがっている人もたくさんいる。もっと特別養子縁組が円滑に進むシステムや、社会の理解を深めてほしい」 といった声がある。 日本財団は、2014年に(4と4でようしであることから)4月4日を養子の日と制定。毎年養子縁組への理解と深めてもらう周知啓発イベントを行うほか、「養子縁組推進法」の制定へ向けた政策提言などを国などに行うとしている。 実親の同意要件のハードル 厚生労働省の平成28年調査によると、特別養子縁組を選択肢として検討すべきであるものの、特別養子縁組に関する障壁により特別養子 縁組が行えていない事案は、298件であり、障壁となっている事由としては、「実親の同意要件」が205件(68.8%)で最も多く、次いで「年齢要件」が46 件(15.4%)であった。成立までの困難理由にも子どもが無戸籍状態であり手続きに時間を要した、実親が行方不明のため家庭裁判所の実親の同意を得るのに時間を要した、実親が同意を翻したなどが挙げられている 促進させる法律の不整備 1987年の法改正により特別養子縁組は民法や児童福祉法で定義されたものの、そこからさらに促進させる法律まではまだ存在しない。 行政からの補助金がない 民間事業者のあっせんに必要な実費を、養親が全額負担しているため、経済的負担から養親の数が増えにくいと指摘されている。 愛知方式が全国の児童相談所に浸透していない 児童相談所の対応としては、親元で育つことのできない乳児を特別養子縁組に組むのではなく、乳児院に措置することが一般的となっている。その背景として、主に以下の3点が挙げられている。 1点目は、児童相談所はその仕事に対してマンパワーが足りてない所が多いこと。2点目は、いまだに特別養子縁組のあっせんは2歳以上であるべきいう考えが存在する場合がある。3点目は、児童相談所は地方公務員であることが指摘される。各都道府県の管轄下に置かれているため、愛知方式は他県に広がりにくい要因となっている。 また里親委託や養子縁組を担当する専任の常勤職員がいる児相は56カ所で、148カ所が他の業務と兼任する常勤職員、99カ所が専任の非常勤職員の配置となっており、養子縁組の活発化のために児童相談所に専門職を配置する必要性を指摘する声もある。 養親に課される条件によって、養親の数が増えない 厚生労働省のガイドラインでは「子どもが成人したときに概ね 65 歳以下となるような年齢が望ましい」とされており、これに従って多くの民間あっせん事業者が養親に対して年齢制限を設けている。しかし特別養子縁組を希望するのは多くの場合不妊治療を長らく続けた夫婦であり、養親を希望した時には年齢の上限を超えている夫婦が少なくない。 また配偶者のうち一方が養子の養育に専念すべきとの観点から、養親の共働きを規制する事業者も存在する。しかしながら、夫婦共働きが浸透してきている今日において、養親に事実上専業主婦となることを強制するのは非現実的であるという指摘も挙がっている。 その他 養子縁組を望む夫婦に関する情報を全国の児童相談所、民間機関、産科婦人科医院など関係機関で共有し、赤ちゃんに最も恵まれたマッチングを模索するシステムを構築する必要性を指摘する声もある。
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