源流の探索
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/03/16 12:22 UTC 版)
ナイル川源流が一体どこなのかを探る調査は、古代より行われていた。しかし、スッドの沼沢地など、ナイル川上の航路の難所を越えられず、源流は長らく不明のままであった。古代の地理学者もナイルの源については知らず、推測によって地図を描くしかなかった。紀元前5世紀のヘロドトスは、ナイル川は西アフリカから東進した後に北上してエジプトに流れ込んでいるのだろうと考えていた。1世紀にはギリシアのディオゲネスと言う船乗りが、インド洋交易の帰途に東アフリカの海岸から内陸部に入り込み、25日間にわたってナイルの源流を求めて奥地へ旅をしたとされる。彼の報告に基づき、2世紀の地理学者のクラウディオス・プトレマイオスは、「月の山脈」とその麓の2つの湖がナイル川の水源であると考えた。 アラブ人もナイル川の源流の場所は知らず、1355年に出版されたイブン・バットゥータの著書『諸都市の新奇さと旅の驚異に関する観察者たちへの贈り物』でも、ニジェール川を「ナイル」と記し、ニジェール川はナイル川の支流だと考えていた記載が残る。 16世紀頃からエチオピアとヨーロッパとの交流が始まった結果、青ナイル周辺の地理は判明し始め、1615年にはポルトガルのイエズス会の修道士であったペドロ・パエスがタナ湖を発見した。1770年にはスコットランド人の探検家のジェームズ・ブルースが探検を行い、彼によって青ナイル川の源流がタナ湖であるとヨーロッパ人にも知られるようになった。 しかし、白ナイル川の源流については不明のままであった。 19世紀初頭には北のエジプトの総督がスーダン進出と同時にナイル川の源流探査を行い、1842年にはゴンドコロまで達したものの、その南までは進めなかった。19世紀中盤に入るとヨーロッパ人のアフリカ探検が盛ん行われ、ナイル源流の探索も、その主要なテーマの1つであった。1858年にイギリス人の探検家のジョン・ハニング・スピークが、ヴィクトリア湖を発見した。彼はリチャード・フランシス・バートンと共同でナイル川の水源を探す探検を行い、まず2人でタンガニーカ湖を発見した。その後、体調不良でタンガニーカ湖畔に残ったバートンを置いてスピークは探検を進め、1858年8月3日に、ムワンザでヴィクトリア湖を「発見」した。この湖をナイル川の水源だと信じたスピークは、時のイギリス女王ヴィクトリアの名を取り「ヴィクトリア湖」と命名した。しかし、スピークの探検では、ヴィクトリア湖がナイル川の水源だとは確認できなかったため、タンガニーカ湖がナイル川の源流だと考えたバートンと、ヴィクトリア湖がナイルの源流だと考えたスピークによる大論争が勃発した。この論争に決着を付けるべく、スピークは1860年9月よりジェームズ・オーガスタス・グラントと一緒にザンジバルを出発して再び探検を行い、1862年7月28日に、ヴィクトリア湖北岸のジンジャから大きな川が北へと流れ出していると確認した。スピークはこの流出地点にある滝をリポン滝と命名し、これで謎は解明されたと考えて帰路に着いた。ただ、この探検でも謎は残ったままで、論争はさらに続いた。1864年9月には両者の討論会が予定されていたが、その前日にスピークは銃の暴発事故で死亡した。この死には不明な部分が多く、さらに論争の一方の当事者が死去してしまったため、ナイル源流論争はさらに混乱した。その上、サミュエル・ベーカーとフローレンス・ベーカーのベーカー夫妻が1864年3月14日にアルバート湖を発見し、1866年にその結果を発表したため、混乱は頂点に達した。 これらの論争を受けて、デイヴィッド・リヴィングストンがこの地域を探検した。彼はベーカーよりもさらに南のルアラバ川と、その源流のザンビア領内のバングウェウル湖がナイルの源流であろうと考え、探査を行った。この探検の途中でリヴィングストンはヨーロッパとの連絡が一時途絶え、アメリカ合衆国の新聞社が派遣したヘンリー・モートン・スタンリーと、ウジジの村で邂逅するなど困難を重ねたが、源流の確定には至らず客死した。その跡を継いだヘンリー・モートン・スタンリーは1875年に、リポン滝を確認した後で湖を周遊し、これによってヴィクトリア湖がナイル川の源流であると確定された。 ただ、その後も、ヴィクトリア湖に流れ込む川の探検が続けられ、カゲラ川やその支流のルヴィロンザ川などが、ナイルの源流とされるようになってきた。 しかし、真の源流の探索は21世紀に入っても依然として続けられており、2006年にもブラジルとニュージーランドの探検家が新しい源流を発見した。
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