法律の違憲審査
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/06/08 06:40 UTC 版)
1958年施行の第5共和国憲法は、憲法院 (Conseil constitutionnel) が法律 (Loi) の違憲審査を行う制度を採用している。 憲法院は9人からなり、そのうち3人は大統領から指名される。他3人は国民議会(Assemblée Nationale)議長が指名し、最後の3人は元老院(Sénat)議長の指名による(1958年憲法第56条)。 更に、元フランス大統領は職を退くと同時に憲法院のメンバーになる(1958年憲法第56条)。 憲法院職は、審査への参加件数や参加日数に関係なく毎月支給される給与があり、実際に元大統領の参加日数ないし件数が非常に少ないにもかかわらず一定の給与を受け取っている事実が風刺新聞で批判された(Canard Enchaîné)。 憲法院は、通常の裁判所とは異なる権限を有する特別裁判所である。違憲立法審査権を有し、それ以外にも大統領選挙、議会選挙に関する訴訟を扱う権限を有している(1958年憲法第58、59、60条)。 違憲審査に関しては以下の権限を有する。 法律所管事項を限定する(1958年憲法第34条および38条が議会と政府のそれぞれの権限を定めている)。 法律案が憲法により政府に授権された事項であると政府が判断した場合、政府は不受理によって対抗することができる。憲法院は政府又は議員の議長の請求により裁定をする。 共和国の根幹組織(議会、行政、司法など)に関係する法律(Loi organique)の合憲性を審査する。 当該法律については大統領の署名前(つまり、法律が施行される前)、議院規則については施行前に、必ず憲法院の審査に付され、合憲性について裁定する。 通常の法律(Loi ordinaire)の合憲性を審査する。 当該法律については、法律の施行前に合憲性を審査する。その場合、審査は大統領、首相、両議院の議長、又は60人の衆議院議員、60人の参議院議員の請求によってのみ発動される(1958年憲法第61条)。 以上のように、元来の憲法院の役割は国の基本機関に関する事案に集中していた。憲法院は議会と政府との関係を調整し、歴史的に強大になりがちな議会の権限を枠付ける役割を期待されていた。 これは、第一にフランス憲法が立法と行政の権限分割を明文化していることによる。憲法第34条は議会が制定する法律 (Loi) の対象事項を限定列挙しており、それ以外の事項は行政決定の管轄とされている。第二に、第5共和国憲法には人権保障に関する条文に乏しく、そのぶん統治機構に関する規定が中心になっていることが大きく影響している。 もっとも、1971年7月16日の判決によって、憲法院は憲法の前文の実行性を承認し、さらに、第5共和国憲法は第4共和国憲法前文および1789年の人権宣言を含むものであると明確に提示した。これにより以上のテキストが列挙するすべての自由および人権に対する抵触の有無も審査対象になる旨の判断を下した。 なお、2010年3月1日に施行された憲法改正法(2008年7月23日採択)により、第61条に定められる法律の施行前審査に加えて、すでに施行されている法律の違憲審査請求を、個別裁判の間に国務院(Conseil d'Etat、公法、おもに行政法での最高裁判所)および破毀院(Cour de cassation、私法での最高裁判所。民事、刑事、商法など幅広い権限を持つ)のフィルターを通して憲法院まで吸い上げる制度が施行された(1958年憲法第61-1条)。 第61-1条による違憲審査はQuestion Prioritaire de constitutionalité、略してQPCと呼ばれ、憲法改正法が施行された2010年3月1日から2011年9月1日の18ヶ月間におよそ3000から4000のQPCが法廷に提出された。 QPCは、個別の裁判において適応される可能性の高い法律が、憲法によって保障される自由および人権に抵触する条項を含んでいると裁判当事者がみなした場合に請求することが出来る。その場合、裁判はいったん中断され、判事が違憲審査請求の条件を満たしているか審査する。その後、下級裁判所判事が審査請求を認めた場合、案件は最高裁判所(国務院ないし破毀院)へ送られる。最高裁判所は憲法院に当該請求をするか否かを3ヶ月以内に決定する。最高裁判所から案件を受けた場合、憲法院は3ヶ月以内に当該法律の合憲・違憲性について裁定する(2008年7月23日法)。
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