歴史研究と研究素材
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2021/09/03 14:32 UTC 版)
『英国社会史』の著者で戦後は登呂遺跡調査会委員長も務めた今井登志喜(1886年-1950年)東京大学教授は、『歴史学研究法』のなかで、歴史資料ないし史料の概念に含まれる総体の資料は非常に多く、また内容的にもきわめて複雑であるとしており、「すべての文献口碑伝説、碑銘、遺物遺跡、風俗習慣等、一般に過去の人間のいちじるしい事実に証明を与えうるものは、皆史料の中に入るのである」と述べている。 最近では、2003年(平成15年)改訂の『高等学校学習指導要領・日本史B』では「資料をよむ」という単元が新設され、『学習指導要領解説』における当該単元の解説として「雑誌・新聞等も含めた文献、絵画や地図、写真等の画像、映画や録音などの映像・音声資料、日常の生活用品も含めた遺物や遺跡、景観、地名、習俗、伝承、言語など様々なものが歴史的資料となり得る」として、歴史資料にはさまざまなものがあり、生徒にはその多様性を理解させるとともに、なるべく多くの種類の資料にふれさせ、それぞれの資料特性を考えさせることを学習活動とするよう規定している。 このように、古くから最近まで歴史資料の多様性については指摘されてきたが、こうした異種雑多な歴史資料の性質については、さまざまな分類の試みもおこなわれている。 たとえば、プロイセン学派に属するヨハン・グスタフ・ドロイゼン(1808年 - 1884年)は「遺物」「史料」「記念物」という分類原理を提示している。 ドイツの歴史学者エルンスト・ベルンハイム(1850年 - 1942年)は、ドロイゼンの示したカテゴリーの基本線に沿って、以下のような歴史資料の分類を試み、その特質を説いている。 A)直接の観察と思い出 B)報告・伝承 口碑(口頭による伝承) 歌謡、物語、伝説、俚諺、逸話など。 記録(文字による伝承) 金石文、系譜的記録、官吏表、年代記、伝記、回想録、公開状、新聞、私翰など。 画像・地図(形像による伝承) 地図、事件を示す絵画、彫刻など。 C)遺物 残留物、狭義の遺物—人骨、発掘物、建築物、言語、風俗習慣、儀式、制度など。事務的性質をもつ文書類。 記念物—記念のための造形物、ある種の文書など。 もちろん、ドロイゼンやベルンハイムの分類もまた相対的なものであり、実際上もその適用区分は曖昧なものである。しかしながら、この「遺物」と「報告・伝承」という両分原理は、遺物と証明、物的史料と陳述史料あるいは文字的史料というふうに、さまざまな用語が使われながらも、その後の多くの歴史研究の方法論においてひろく採用されてきた。
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