新潮社による実名報道
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「堺市通り魔事件」の記事における「新潮社による実名報道」の解説
1998年(平成10年)2月18日発売の、新潮社の月刊誌『新潮45』3月号は、ノンフィクション作家の高山文彦による全16頁に及ぶ「『幼稚園児』虐待犯人の起臥」のルポルタージュを掲載した。その中で、少年の生い立ちから犯行に至る経緯、家族関係に加え、中学校卒業時の顔写真並びに実名を掲載した。さらに記事の後には、実名報道と顔写真を掲載した、新潮45編集部の見解も記した。 少年の弁護団は「重大な人権侵害行為」であり、販売中止と回収を求める抗議声明を出した。東日本キヨスク、西日本キヨスク、一部書店では少年法に違反する、として販売を中止した。 2月20日の参院本会議の代表質問に対する答弁で、内閣総理大臣橋本龍太郎は「関係者の人権に好ましからざる影響を及ぼし、心の痛みを与える危険性がある。関係当局が必要な措置をとっている」と述べた。法務大臣下稲葉耕吉も「商業主義的な報道は憂うべきことだ。厳正に対処する」と述べた。 3月3日、東京法務局は発行元の新潮社に対し、佐藤隆信新潮社社長宛で「再び独自の見解に基づき同種の人権侵害行為をしたもので、人権尊重の精神の欠如、法無視の態度には甚だしいものがある」と指摘し、「少年法で保障されている人権を著しく侵害した」として、再発防止策の策定や少年に対する謝罪などの被害回復措置を行うよう勧告した。これに対し、同社は勧告に応じない方針を表明した。 4月30日、少年と弁護団は、少年法61条に抵触した記事で名誉を傷つけられたとして、新潮45の編集長と記事を書いた高山文彦を、名誉毀損の疑いで告訴状を大阪地方検察庁に提出した。また同日、2名と新潮社を相手取り、2,200万円の侵害賠償などを求めて大阪地方裁判所に提訴した。少年法61条違反をめぐる告訴・提訴は、日本で初めてとなった。 1999年(平成11年)6月9日、損害賠償訴訟について大阪地方裁判所は、実名を報道した新潮45の記事が少年法に違反し、記事に公益性がないと指摘。さらに新潮社の写真週刊誌『FOCUS』が神戸連続児童殺傷事件の犯人である少年の顔写真を掲載するなど、過去に法務局から再発防止の勧告を受けていたケースを挙げて実名報道したのは悪質であると判断。慰謝料に200万円、弁護士費用に50万円を算定し、計250万円の支払いを命じた。謝罪広告掲載の請求は棄却した。 2000年(平成12年)2月29日、大阪高等裁判所は少年法61条について、罰則を規定していないことなどから、表現の自由に優先するものではなく、社会の自主規制に委ねたものであり、表現が社会の正当な関心事で不当でなければ、プライバシーの侵害に当たらない、と条件付きながら実名報道を容認する判断を示した。そして今回の記事について違法性はなく、少年の権利侵害には当たらない、そして男性の更生の妨げになることを男性側は立証していないとして、賠償を命じた一審・大阪地裁判決を破棄し、男側の訴えを棄却した。加害者が未成年であっても、場合によっては実名報道出来る初めての判決となった。 少年側は、最高裁判所に上告するも「間違った行為を許す気になった」として、男性が12月に上告を取り下げ、新潮社側の勝訴が確定判決となった。 2001年(平成13年)1月9日、少年は新潮社編集長らへの刑事告訴を取り下げた。12日、大阪地方検察庁は2人を不起訴処分とした。
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