文化・宗教的な位置付け
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/02/25 22:52 UTC 版)
ベルノキはヒンドゥー教の神々に関する様々な逸話を持つ。とりわけシヴァ神とは太古の昔から結び付けられてきた。暗い色合いの3出の葉はシヴァ神の象徴とされ、シヴァ神の持つ創造・保存・破壊という3つの役割になぞらえられ、葉の形もシヴァ神の3つの目に似ているとされる。シヴァ神の寺院ではシヴァ神に捧げられた葉がプラサーダ(英語版)(神の祝福)として信奉者たちにも与えられる。『マハーバーラタ』第12巻「シャンティ・パルヴァ」(Śānti Parva)では出先で夜を明かす破目に陥った狩人がベルノキに登り、その葉を何枚もむしって地上に落としたところ、実はその日がシヴァラートリというシヴァ信仰にとって重要な祭日で、木の下にあったリンガ(英語版)の上に葉を乗せるなどといったシヴァ信仰における善行を知らず知らずのうちに行っていたためにシヴァ神の恩恵に与ることができたという内容の話が語られ、これと同じ類型の民話がタミル・ナードゥ州タンジャーヴール県のティルヴァイガーヴール寺院(Tiruvaikavur)やヴァーラーナシーにも伝わっている。 またベルノキはシヴァ神だけでなく、この木を棲み家にしたと信じられる幸運の女神ラクシュミーとも関連付けられる(Gupta (1991:14–5))。『スカンダ・プラーナ』(Skanda Purāṇa)によればヴィシュヌ神がシヴァ神を崇めていた時に供物を切らしてしまったが、ラクシュミー神はこの際にベルノキを創り出し、ヴィシュヌ神はその葉を用いてシヴァ神への奉仕を完遂したとされる。場合によってはラクシュミー神自身がシヴァ神の熱烈な信奉者として描かれることもある。オリヤーの民話では富と成功の女神であるラクシュミー神が蓮の蕾1000個をシヴァ神に捧げようと決心し、999個集めたところで残り1個がどうしても見つからなかったが、以前ある詩人が自身の胸を優しい蓮のようだと形容したことを思い出し、乳房の片方をリンガに捧げ、彼女の献身に胸を打たれたシヴァ神が彼女の乳房をベルノキの実に変え、今後はベルノキの若枝も添えない限りいかなる祈りも聞き入れはしないと宣言したと語られている。ベンガル語辞書 দাস (1916:1353) もベルノキを表す呼称の一つである শ্রীফল(/sɾipʰɔl/、スリポル)の語源解説として、幸運の女神(শ্রী /sɾi/ スリ。ラクシュミー神の別名)が自身の乳房を切り取ってシヴァ神に捧げた逸話を取り上げている。なお、ベンガル語のスリポルとサンスクリットの श्रीफल (śrīphala-) のいずれも共時的に श्री/শ্রী (śrī)〈聖〉+ फल/ফল (phala)〈果実〉と分析することも可能である。ラクシュミー神をシヴァ神の熱烈な信奉者として描いた伝説はほかにも存在し、それはたとえば以下のようなようなものである。ラクシュミー神はサラスヴァティー神と共にヴィシュヌ神の妻であったが、ヴィシュヌ神がサラスヴァティー神の方を偏愛したためにラクシュミー神は怒りに燃えてシヴァ神を崇拝しだし、長きにわたって瞑想を続けるも彼女の目の前に彼が顕現することはなく、その後彼女がベルノキに変身したところ彼がその木に棲まうようになった、というものである。タントラ教の伝承などによればラクシュミー神は牝牛として生まれ、その糞からベルノキが生じ、それ故にベルノキは聖なるものと考えられるようになった。なお、初期ヒンドゥー教の伝説によればベルノキは女神パールヴァティーの額から生じた汗が、創世神話である乳海攪拌の際に使われたマンダラ山(英語版)に滴り落ちて生じたものとされる。 ベルノキはまた複数のインドの名高い文献においても言及が見られる。たとえば祭祀に関する聖典『ヤジュル・ヴェーダ』(XX.1.8)ではベルノキから得られた材を生贄の柱に用いたとされ、ベルノキは太陽が再び現れた後に起き上がった、と歌われている。また呪法に関する聖典『アタルヴァ・ヴェーダ』(XX.136.13)においては、ベルノキは余りにも神聖であるがためにその材を薪として燃やしてはならないと記されている。そしてヴァールミーキがまとめた叙事詩『ラーマーヤナ』にも複数回登場し、それは以下のようなものである。 鬱蒼とした森に見られる(1.24.15)。 実を食べることができて、チトラクータ(Citrakūṭa)の森でベルノキに花が咲き、かつ実もなっている(2.94.8)。 シーターを誘拐されたラーマが狂乱状態になりながら行く先々で出会った植物、木、生き物に彼女の行方を尋ねる場面において、ラーマが「おおベルノキよ、黄土の絹をまとい、汝の小葉の如く絹めいた肌で、汝の果の如く丸々として絹めいた胸の者を見かけたらば余に伝えよ」と口走る(3.60.13)。 パンパー湖と森の様々な木々の描写の中で、ベルノキは若木が魅惑的であるとされている(4.1.78)。 ランカー島に渡るための橋を作る際に用いられた木々の一つがベルノキであった(6.22.55)。 なお、ベルノキは仏典においても「毘羅婆」の名で現れる。
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