批判と再批判
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/04/29 14:24 UTC 版)
「マーガレット・ミード」の記事における「批判と再批判」の解説
ミードの死の5年後の1983年に、ニュージーランドの人類学者であるデレク・フリーマン(英語版)は、『Margaret Mead and Samoa: The Making and Unmaking of an Anthropological Myth(邦題:マーガレット・ミードとサモア)』を出版し、ミードのサモア社会におけるセクシュアリティに関する主な発見に対し、異議を述べた。フリーマンは、サモアの文化においては、若者が性を探求することにつき多くの制限は課せられていないというミードの主張は、ミードのサモアの文化に対する誤解に基づくものだとした。ミードは機密保持のためにすべての被験者の身元を慎重に隠していたが、フリーマンはミードの調査の参加者の1人を発見してインタビューを行い、その参加者から、自分は友人とともに作り話をし、ミードを故意に誤解させたと聞き取った旨を報告した。 ついで、フリーマンの著書自体も論争の的となり、人類学界からの少なからぬ反発と厳しい批判にさらされた。1983年にはアメリカ人類学会はその著書を「分かりづらく、非科学的であり、無責任で、ミスリーディングである」と批判した。フリーマンの批判は、性道徳観は多かれ少なかれ文化横断的なものであると考えていた科学者らには熱狂的に受け入れられた。これに対し、フリーマンは、しばしば、ミードの研究および意見を誤って紹介しているという批判もなされた。 サモアの文化を研究した人類学者には、フリーマンの調査結果を支持しミードの調査結果に反対する者もいた。他方、サモアの文化はミードがフィールドワークを行ってからフリーマンがフィールドワークを行うまでの数十年間の間に、キリスト教との融合により変化しているため、フリーマンの研究はミードの研究結果を無効にするものではないとする人類学者もいた。ほか、ミードの結論はただ1人の人物との1度だけのインタビューの信頼性に依拠するものではなく、ミードのサモアでの滞在期間中の観察とインタビューの総和を基礎とするものであるため、上記の参加者が作り話をしていたとしても、それが直ちにミードの調査への反証とはならないと主張する人類学者もいる。 1996年、マーティン・オーランス(Martin Orans)はアメリカ議会図書館において保存されているミードのメモを調査し、ミードは上記参加者に騙されていたのだというフリーマンの批判は、いくつかの理由により不正確であると指摘した。第一に、ミードはサモア人の冗談の形式とその頻度をよく理解しており、第二に、ミードが「儀式の処女」への性的な制限について行った検討は、上記参加者がフリーマンに行った説明と合致しており、第三に、ミードが上記参加者へのインタビュー以前に既にサモアのセクシュアリティに関する結論に達していたことがそのメモから明らかであるというのが理由である。しかしながら、哲学者ピーター・シンガーや動物学者デイビッド・アッテンボローなど、ミードは騙されていたのだと主張する学者も多く、オーランスの主張もまた論争の的となっている。なお、実証主義的なスタンスからミードの調査を評して、オーランスは、フリーマンの批判の有効性いかんによらず、ミードの研究は科学的厳密性が不十分であり、「ミードの調査は、調査が『正しいか間違っているか以前の問題だ』という激しい科学的な批判により適切に否定されうる」とこの論争を分析している。 1999年に、フリーマンは、従前は入手していなかった資料も含めて、別の著書『The Fateful Hoaxing of Margaret Mead: A Historical Analysis of Her Samoan Research』を公表した。経験主義的な人類学者はミードの結論に同意する傾向があるが、フリーマンの意見に協調し、生得主義的なアプローチを取る、人類学者以外の学者もおり、ハーバード大学の心理学者スティーブン・ピンカー、生物学者のリチャード・ドーキンス、進化心理学者のデイビッド・バス、科学ライターのマット・リドレー、古典主義者メアリー・レフコヴィッツ、哲学者ピーター・シンガーが挙げられる。ニューヨーク・タイムズのフリーマンの死亡記事において、ジョン・ショーは、フリーマンの論文は多くの人を憤慨させはしたが、その死までには広く受け入れられるようになった、と述べた。しかしながら、人類学者のポール・シャンクマン(Paul Shankman)やアリス・ドレガー(英語版)によるものをはじめ、フリーマンはミードの調査を誤解している、根拠が薄弱で誤導的である、という批判もなお存在する。 保守系学術団体が発行するThe Intercollegiate Reviewの1999年秋号に掲載された「今世紀で最悪の(および最高の)50の書籍」という記事では、『Coming of Age in Samoa』が今世紀最悪の50の書籍の第1位にランクインしている。
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