微分商とは? わかりやすく解説

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微分

(微分商 から転送)

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2025/01/19 07:50 UTC 版)

函数のグラフ(黒線)と函数が描く曲線接線(赤線)。接線の傾きは接点上の函数の微分係数に等しい。

数学における実変数関数英語版微分係数微分商または(どうかんすう、: derivative)は、別の量(独立変数)に依存して決まる、ある量(関数の値あるいは従属変数)の変化の度合いを測るものであり、これらを求めることを(びぶん、: differentiationするという。微分演算の結果である微分係数や導関数も用語の濫用でしばしば微分と呼ばれる。

概要

微分は解析学分野(特に微分積分学分野)の基本的な道具である。例えば、動く物体の位置の時間に関する導関数はその物体の速度であり、これは時間が進んだときその物体の位置がどれほど早く変わるかを測る。

一変数関数の適当に選んだ入力値における微分係数は、その点におけるグラフ接線傾きである。これは導関数がその入力値の近くでその関数の最適線型近似を記述するものであることを意味する。そのような理由で、微分係数はしばしば「瞬間の変化率」として記述される。瞬間の変化率は独立変数に依存する従属変数である。

微分は実多変数関数英語版にも拡張できる。この一般化において、導関数はそのグラフが(適当な変換の後)もとの関数のグラフを最適線型近似する線型写像と解釈しなおされる。ヤコビ行列はこの線型変換を独立および従属変数を選ぶことで与えられる基底に関して表現する行列であり、独立変数に関する偏微分を用いて計算することができる。多変数実数値関数に対して、ヤコビ行列は勾配に簡約される。

導関数を求める過程を微分あるいは微分法、微分演算(: differentiation)と言い、その逆の過程(原始関数を求めること)を反微分という。微分積分学の基本定理は反微分が積分と同じであることを主張する。一変数の微分積分学において微分と積分は基本的な操作の二本柱である[1]

引数が変更されたときの関数のスイングのように、微分の直感的なアイデアを与えるアニメーション。

1変数関数の微分法

直観的な説明

初めに最も簡単な場合を扱う。すなわち、実数値の変数を1個もち、値も1個の実数であるような関数 f(x)(または単に f とも書く)を微分することを考える。「微分する」というのは、より正確には、微分係数英語版または導関数のいずれかを求めることを意味している。

説明を単純にするため、f(x) はすべての実数 x に対して定義されているとしよう。すると各々の実数 a に対して、fa における微分係数と呼ばれる数がある(定義されない場合もあるが、ここでは理想的な状況のみを想定して説明する)。これを f′(a) で表す。また、実数 a に対して微分係数 f′(a) を対応させる関数 f のことを f の導関数という。

微分係数 f′(a) とは何であるか直観的に説明するには、いくつかの方法がある。

  1. 微分係数 f′(a) とは、関数 fグラフx = a において(すなわち点 (a, f(a)) において)接線をひいたときの、その接線の傾きのことである。
  2. 微分係数 f′(a) とは、変数 x の値の変化に伴う f(x) の変化を考えたときの、x = a における f(x) の瞬間変化率のことである。
  3. 微分係数 f′(a) とは、関数 f のグラフの x = a 付近を(すなわち点 (a, f(a)) 付近を)限りなく拡大していったときに、グラフが直線に近づいて見える場合における、その直線の傾きのことである。

これらはいずれも、論理的に厳密な定義とはいえない。それは、「接線」や「瞬間変化率」について厳密な定義が与えられていないし、またグラフを「限りなく拡大する」ということの意味も定かではないからである。

ごく単純な関数については、上記の説明が微分係数の具体的な値について十分な示唆を与えるのは確かだ。たとえば一次関数 f(x) = Ax + B を考えると、そのグラフは直線なので、「x = a における接線」もその直線自身であると考えるのが妥当だろう。直線 y = Ax + B の傾きは A だから、微分係数 f′(a) の値も A とすべきだと考えられる。また、二次関数についても、グラフの接線の概念を微分とは無関係に定義して、その傾きを求めることはできる。だが、ほとんどの関数にはこのような手法は通用しないから、一般的な定義を与えるためには新しい考えが必要である。

極限としての変化率
Figure 1. (x, f(x)) における接線
Figure 2. 二点 (x, f(x)) および (x+h, f(x+h)) の定める、曲線 y= f(x)割線英語版
Figure 3. 割線の極限としての接線
Figure 4. 割線の極限としての接線(アニメーション)

厳密な定式化

一点における微分可能性と微分係数

関数 f(x) が開区間

絶対値関数は x = 0 において連続だが、割線の傾きが左側で −1、右側で 1 だから微分可能でない。

一方で、関数がある一点で連続だったとしても、そこで微分可能でないことがある。

  • 絶対値関数 f(x) = |x| x = 0 において連続だが、この点で微分可能でない。h > 0 のときは (0, 0), (h, f(h)) を通る割線の傾きは 1 だが、h < 0 のときは −1 である。この例では、グラフは x = 0 においてカスプ(尖点)をもつという言い方をする。
  • 関数 f(x) = x1/3x = 0 において連続だが、この点で微分可能でない。(0, 0), (h, f(h)) を通る割線の傾きは、h → 0 のとき正の無限大に発散するからである。この例は、グラフが滑らかにつながっているからといって微分可能とはかぎらないことを示している。

実用上現れる関数の大半は、ほとんど至るところで微分可能である。微分積分学の歴史英語版の初期には、多くの数学者は連続関数はほとんど至るところで微分可能であると考えていた。この仮定は緩やかな条件、たとえば単調写像リプシッツ連続などのもとでは確かに満たされる。しかし1872年にワイエルシュトラスは、至るところ連続だが、至るところ微分不可能な関数の例を与えた(ワイエルシュトラス関数)。1931年にステファン・バナフは、連続関数全体のなす空間において、少なくとも1点で微分可能な関数全体のなす集合が痩せている(meager)ことを示した[2]。くだけた言い方をすれば、ほとんどあらゆる連続関数がすべての点で微分不可能なのである。

高階微分

関数 f が区間 I導関数 f をもち、それがさらに I で微分可能なとき、f の導関数を f の2階導関数とよび f で表す。より一般に、関数 f が区間 In 回繰り返して微分できるとき、fIn 回微分可能であるといい、n 回微分して得られる関数を n 階導関数といって f (n) で表す。

fn 回微分可能であって、さらに n 階導関数 f (n) が連続であるとき、fn 回連続微分可能である(または C n 級である)という。何回でも微分可能な関数は無限回微分可能である(または C 級である)という。C 級関数のことを滑らかな関数ということもある(ただしこの語の用法は必ずしも一定していず、たとえば単に微分可能であることを指して滑らかであるという場合もある)。

微分と関数の増減・凹凸

導関数の符号と関数の増減

微分可能な関数 f(x) について、導関数 f′(x) が正の値をとる区間では、f(x) の値は単調増加する(より詳しくいえば、狭義単調増加する)。導関数 f′(x) が負の値をとる区間では f(x) の値は単調減少する。導関数 f′(x) の値がつねに 0 であるような区間では、関数 f(x) の値は一定である。

2階導関数の符号と関数の凹凸

2階微分可能な関数 f(x) について、2階導関数 f′′(x) が正の値をとる区間では、関数 f(x) は凸(下に凸)である。f′′(x) が負の値をとる区間では関数 f(x) は凹(上に凸)である。

関数 f(x)x = a の前後で凸から凹に、あるいは凹から凸に切り替わるとき、点 (a, f(a))f(x) のグラフの変曲点であるという[3]。2階微分可能な関数 f(x) については、これは2階導関数 f′′(x) の符号が切り替わる x の値に対応する点ということができる。

多項式近似への応用

関数 f が開区間 In − 1 階微分可能で、n − 1 階導関数 f(n − 1)x = a で微分可能なとき、f(n − 1)x = a における微分係数を f(n)(a) とすれば

脚注

注釈

  1. ^ ここでベクトル値関数の極限は、2乗ノルム、絶対値ノルムなど、どんなノルムを用いて定めても同じことである。
  2. ^ アーボガストが導入したのは変数記号を伴わない Df のような記法だった[4]。その後、多変数関数の微分を扱うために変数記号を付した Dxf のような記法がド・モルガンコーシーにより用いられるようになった[5][6]

出典

  1. ^ 本項に述べる微分法は多くの情報源を持つ非常によく確立された数学の分野である。本項に書かれているような内容の大半は Apostol 1967, Apostol 1969, Spivak 1994 に含まれる。
  2. ^ Banach 1931.
  3. ^ Apostol 1967, §4.18.
  4. ^ a b Cajori 1923.
  5. ^ de Morgan 1836, pp. 267–268.
  6. ^ Cauchy 1840, p. 5.
  7. ^ 上垣渉「明治期の数学辞書における数学訳語・記号の標準化について」『数学教育史研究』第14巻、2014年、1–12頁、doi:10.51012/jshsme.14.0_1 5頁目と11頁目の注(12)。

参考文献

関連文献

印刷物

  • Anton, Howard; Bivens, Irl; Davis, Stephen (February 2, 2005), Calculus: Early Transcendentals Single and Multivariable (8th ed.), New York: Wiley, ISBN 978-0-471-47244-5 
  • Courant, Richard; John, Fritz (December 22, 1998), Introduction to Calculus and Analysis, Vol. 1, Springer-Verlag, ISBN 978-3-540-65058-4 
  • Eves, Howard (January 2, 1990), An Introduction to the History of Mathematics (6th ed.), Brooks Cole, ISBN 978-0-03-029558-4 
  • Larson, Ron; Hostetler, Robert P.; Edwards, Bruce H. (February 28, 2006), Calculus: Early Transcendental Functions (4th ed.), Houghton Mifflin Company, ISBN 978-0-618-60624-5 
  • Stewart, James (December 24, 2002), Calculus (5th ed.), Brooks Cole, ISBN 978-0-534-39339-7 
  • Thompson, Silvanus P. (September 8, 1998), Calculus Made Easy (Revised, Updated, Expanded ed.), New York: St. Martin's Press, ISBN 978-0-312-18548-0 

オンライン本

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