原型作品からの加筆内容
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/05/01 07:41 UTC 版)
『仮面劇場』あらため『旋風劇場』を『暗闇劇場』(のち再び『仮面劇場』)に改稿した際、虹之助の出生に関係する故人の氏名や属性は大きく変更しているが、実際に登場する人物については特に大きな変更は加えられていない。綾子の経歴出自を詳細に設定するなど、全体に細かく描写を加筆しているが、特に前半ではストーリーやトリックに影響を及ぼさないものが多い。なお、『旋風劇場』までは志賀恭三が諜報機関で働いている設定があったが、『暗闇劇場』では舞台が昭和8年になっている(ただし、「発端」の日付と曜日「6月11日の土曜日」は連載時の昭和13年の物)ので、戦争とは無関係の単なるアドベンチャラーに変更している。 甲野家は紀州の物持ち(医師)から小豆島の醤油醸造元に変更されたが、特に醤油醸造がストーリーに絡む変更点はなく、大幅に変更されているのは虹之助の経緯、ならびに両親であり、雑誌掲載時の『仮面劇場』、初刊単行本『旋風劇場』、ならびに長編化された『暗闇劇場』(改題後の長編『仮面劇場』は改題のみで内容同一)で、以下のように差異がある。 虹之助の設定に関する相違点仮面劇場(短編)旋風劇場暗闇劇場・仮面劇場(長編)両親 父=不明母=梨枝子 父=梁井家の当主の弟母=四方太の妹(後述) 父=志賀兄妹の父母=梨枝子 育った場所 紀州の片田舎→東京の萩窪(どちらも甲野家の屋敷内) 山窩に里子に出された。 静馬達との関係 義弟、弟 (父方の)従弟 (異父)弟 読唇術を教えた人 母親の梨枝子 (不明) 山窩の人(個人名は不詳) 琴江と似ている理由 従弟であるから 従弟であるから(?) 異母姉弟でなおかつ母同士(姉妹)が瓜二つ 連載時には虹之助は梨枝子が夫が1年以上病気療養中で家を空けていた際に生んだ浮気相手の子という設定で、「四方太はこの浮気を知って怒り、虹之助の存在を公にせず、監禁して育てることで梨枝子と虹之助に復讐するようになった。」というような経緯であった。これが単行本化される際、「かつて恋敵(元々家同士の対立もあった)である梁井家の当主を四方太は憎んでいたが、四方太の妹と梁井家当主の弟が恋に落ちてしまい、結果的にこの2人は若くして死亡、四方太は虹之助を『仇敵から送られた人間の疫癘』と復讐の対象にして、梁井家側では虹之助の存在を知らなかったことをいいことに監禁していた。」という設定に変更されたが、いずれにしても復讐のため存在を秘して育ててきたのが結局逆に虹之助によって甲野一家が破滅させられた設定である。それに対して、長編化された作品では「四方太の恋敵であった志賀兄妹の父が妻と四方太の不義を疑って復讐のために梨枝子と通じて産ませたのが虹之助」という設定になり、この設定により琴絵との容貌の相似に合理的説明をつけている。虹之助の出生経緯についての詳細な説明については、短編版ではラストの志賀恭三から由利への手紙によっていたところを、長編化では由利が自分の結論を語ったうえで恭三に語らせる場面に変更している。 また、連載時には梨枝子が母親という設定であったため、虹之助に読唇術を教えたのが彼女という説明がされていたが、単行本化された際に母親を別の故人にしたためこの経緯が不明瞭になり、長編化の際にこの部位を訂正し再度梨枝子を母親にして、「山窩に里子に出されて育てられたときに発声と読唇を修得し、甲野家に戻ってきたあと失明して梨枝子が触覚読唇を教えた。」という設定に変更している。また、触覚読唇ができるという事実は由利たちが最初に鈴木病院を訪れた時に判明する設定だったところを、由利が静馬殺害の報を受ける直前に鈴木院長が改めて思い当たった設定に変更している。 鵜藤は、琴絵の写真を隠そうとして口に含み塗られていた毒で死んだ設定を、虹之助が甲野家の誰に当たっても構わないという考えで匂いで見つけたコーヒーに仕込んだ毒で死んだ設定に変更している。また「(琴絵の写真を処分しようとして入った)厠で鵜藤の死体が発見された」展開を「ボート上で虹之助を絞殺しようとして毒が回って果たせなかった」に変更しており、海への連れ出しや絞殺未遂を虹之助の狂言で片付けてしまった短編作品よりも合理的な結論としている他、由利が虹之助を恐ろしい奴だという理由が「被害者のふりをする狡猾さ」ではなく「第三者を平気で巻き込む冷酷さ」というニュアンスに意味が変わっている。 また、由利たちの目前で琴絵を誘拐したのを静馬から綾子に変更しており、動機も単に琴絵に関する事実を隠そうとしたという設定から、恭三が甲野家との間の秘密を語ろうとしないことに苛立って秘密を聞き出そうとした設定に変えている。他にも綾子の言動に読者をミスリーディングする内容を増やしており、最後に恭三が虹之助の出生に関して語る場面の直前で由利が語らせている。なお、誘拐された琴絵が旧甲野家で井戸に投身したのを由利たちが救出した展開は削除されている。 他に、天神祭のとき虹之助が単に震えて伏していた設定にオールでなぐりかかろうとする設定を追加したことや、毒を盛られた由美が由利の準備により助かる設定としたなどの変更がある。これ以外には最後に琴絵と虹之助が乗っていたボートが横波で転覆して(偶然)溺死した最期を、追っ手の中に恭三もいると琴絵に聞かされた虹之助が義眼に隠していた毒薬を取り出して心中する設定に変更している。
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