医術における宗教の役割
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2021/06/06 09:11 UTC 版)
「古代エジプトの宗教」の記事における「医術における宗教の役割」の解説
「古代エジプト医学」および「古代エジプト#医学」を参照 病人の治療、看護もまたある程度、魔術や宗教原理に基づいていた。医療は、患者の観察や解剖学の知識、および病気に対する一般的な経験に基づく客観的で科学的な方法と、魔術に頼る方法との双方を総合したものであった。 人間は誰でも健康に生まれてくるものであり、それゆえ、全ての病気には原因があるとされていた。この原因は、外から目で見てわかるもの、すなわち薬の投与によって治せるものと、内側に隠れた原因を持つものとに二分され、後者の原因は、悪魔であると考えられていた。死者の悪意のためとか、神が下した罰、あるいは敵の呪いなどである。このような場合には、「悪魔」を追い出すために、呪文や祈りに加えて、祈蕎師が小さな人形の前でさまざまな行為や振りをする儀式が行なわれるなど、あらゆる手段が用いられた。初期には、部族の長が人々のためにこの魔術を行なった。 後世になると王もまた特別な魔法の力を有するものと考えられたが、次第にこうした魔力は神官に託されるようになり、彼らは試行錯誤の結果、治療を求める患者に対して合理的な治療の方法を用意する能力を備えていった。 医学の様々な領域に対しては、様々な神々が力を持っており、この中でも最も重要な神の一柱にセクメトがいた。この女神は、疫病をもたらすライオンの女神で、セクメトに祈ることによって病気を取り除くことができると考えられていた。トキの頭を持った書記と学問の神であるトートは、治癒の方法を考案する神として崇拝されていた。 また夫であるオシリスの体を元に戻したイシスは魔術師たちの守護神として崇められていた。ホルスとアメンは、眼科医の神。また地位は低いが人気があった家の女神タウレトは安産の神とされていた。サッカーラの階段ピラミッドの設計者で、ジセル王の医師でもあったと見られるイムホテプは、後世その病気を治す力により神格化され、ギリシャの医学の神アスクレピウスと同一視されていた。 神官であり医師でもあった人々は、最初は患者とセクメトとの間を仲介するだけで、純粋に宗教上の役割しか果たしていなかった。しかし、彼らの医療技術は、患者を観察することにより次第に発達し、患者を実際に治療できるまでになった。彼らはウアブ神官として知られ、神殿で働き、医師階級の頂点に位置していた。彼らの医学の訓練に関しては、ほとんどわかっていない。しかし、医療の中心機関としての名声を得るようになった神殿もいくつかある。 プトレマイオス朝時代には、ダンダーラやメンフィス、ディール・アル・バフリーなどの神殿が、病人の治療を行なうことで有名となり、特に精神的あるいは情緒的問題を抱える者の治療に優れているとされていた。 タンダーラにおいては、神殿付近の建物がサナトリウムの機能を果たしており、患者は、奇跡的ともいえる治療を待つ間、ここに滞在することができた。彼らは神に祈り、自らが抱えている問題を解決するために神託が下されるのを待っていた。
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