ワイドレシオとクロスレシオ
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2020/11/20 07:52 UTC 版)
「歯車比」の記事における「ワイドレシオとクロスレシオ」の解説
詳細は「クロスレシオトランスミッション」を参照 各速度段での歯車比の差が小さいトランスミッションをクロスレシオ・トランスミッション(またはクローズレシオ、クロスミッション)、その逆に差が大きいものをワイドレシオ・トランスミッションと呼ぶ。例えば、トランスミッションへの入力とタイヤへの出力への間の歯車比が1速で4:1、2速で2:1の場合は1速4:1、2速3:1のものとの比較でワイドレシオとなる。ワイドレシオの場合、1速と2速の歯車比の比は4/2 = 2(= 200%)、クロスレシオの場合同じ比が4/3 = 1.33(= 133%)となり、133% < 200%なので133%の方がクロスレシオとなる。車により各速度段の歯車比は異なるため、この計算はより複雑なものとなる。 クロスレシオ・トランスミッションは一般に出力帯が狭いエンジンを使用し、高回転を維持しながら頻繁に変速操作を行うスポーツカーや積載時にエンジンの一定の回転数を維持しながら頻繁に変速操作を行う小型トラック、およびライトバン(特に軽トラック、および軽キャブオーバーバン)に多く用いられる。 4速または5速トランスミッションは市街地走行と高速域走行を両立させるため、速度段が上がるにつれ各速度段間の歯車比差が小さくなる。これは、最終速度段の歯車比は空気抵抗の大きい高速域での再加速を容易にするようエンジンの高トルク域に入るようにするためである。各速度段での歯車比差が大きいと1速での牽引力を強くすることができるが、変速時にエンジン回転数が大きく低下する。歯車比差を小さくすると特定の条件での最高速を速くすることができる半面、起動時の加速が悪くなる。 4速トランスミッションの場合、1速の歯車比は2.50:1程度、4速はほぼすべての場合1:1である。2速と3速の歯車比はこの間で車重、使用方法、車速、エンジンの特性などを勘案して決められる。 レンジとは1速と4速の間の歯車比(トルク増幅率)の違いで、ワイドレシオの場合はこれが大きく2.8から3.2の間である。この値が発進加速を決める最も重要な要素になる。 プログレッションはこの次に重要な要素であり、変速時のエンジン回転数変化を指す。ほとんどのトランスミッションでは1速-2速間のプログレッションが最大で、高速段になるにつれこれが小さくなる。プログレッションは歯車の入手性、特定の速度で特定のエンジン回転に達する必要性などさまざまな条件により線形に減少するとは限らない。 これら二つの要素は背反するものではないが、一方は他者の選択肢を限定することになる。小出力エンジン、重い車体、差動装置の低歯車比などの理由で低速時に高い減速比が必要な場合は広いレンジをとることが多い。この場合、レンジが狭いものに比べ変速する都度にエンジンの回転数が大幅に減少する。1速の歯車比が小さい場合は発進加速は低くなるが、プログレッションの選択肢が広くなる。 すべての速度域で最高性能を発揮するトランスミッション歯車比や差動装置歯車比の組み合わせは存在せず、何らかの妥協が存在する。 クロスレシオの利点は高速域でのエンジン回転低下が無く、160 km/hなどの高速域からの加速に余力をもてる点にあるが、その反面低速度段での歯車比が小さくなり、低速域での性能が悪化する問題がある。多くのレースではグリッドに停止した状態からスタートが切られ、発進加速も重要であることから、レース用の場合でも歯車比差を小さくすることが最良の方法とは限らない。隊列を組んで走行しながらスタートが切られるローリングスタートの場合は発進加速は重要ではなく、より小さな歯車比差が好まれる。 一般に、低排気量、長カム、ヘッド吸排気、大型キャブレターのエンジンは低回転からの立ち上がりが遅く、3速から4速への変速はクロスレシオの方が有利である。空気抵抗が大きい高速域で変速する場合、クロスレシオが適している。レース用でエンジンが特定の回転数で高トルクが出るように設定されている場合、歯車比はコース上の必要な場所でトルクが出るように調整される必要が、別の言い方ではシフトアップした時にエンジンが低トルクの回転域に落ち込まないように設計する必要がある。 エンジンが7,000回転で、エンジンが5,000回転からトルクが立ち上がる設定の場合を考える。変速により25%回転数が低下する場合は変速後のエンジン回転数は5,250回転で問題なく再加速できるが、30%低下する場合はこれが4,900回転となり、5,000回転に達するまでの再加速に問題を抱えることになり、改善が必要である。 車両やコースにもよるが、この対策は一般に低速側を調整することで行う。つまり、2-3速の変速で問題がある場合は1-2速の歯車比を調整するが、結果は条件により一定ではない。 各サーキットごとに最高速とコーナースピードが異なるため、中間速度段の歯車比はコーナーリング中のシフトダウンの必要性などを勘案して決められる。この場合、特定のコーナーの立ち上がりで加速に問題があるか、が分析のカギとなる。クロスレシオは2つの速度段間のエンジン回転数差を小さくできるが、どこか別の段間の回転数差を大きくする必要があることを考慮する必要がある。 クロスレシオは大型車にも採用例が見られる。効率の良い回転域を維持して走行する目的でクロスレシオを採用する点はスポーツカーやレーシングカーと共通しているが、大型車の多くはガソリンエンジンに比べて有効回転域が狭いディーゼルエンジンを搭載していること、乗用車に比べて車両重量や貨物が重いことから、エンジンの最大トルク領域や低燃費領域を維持して走行するためにクロスレシオが用いられる。特に牽引自動車ではトラクター(牽引車)よりはるかに重い貨物を積む被牽引車を牽引するため、副変速機を併用した10段以上の多段変速機を搭載する例も現れている。
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