ロゼッタによる成果
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「チュリュモフ・ゲラシメンコ彗星」の記事における「ロゼッタによる成果」の解説
ロゼッタが2014年3月21日に撮影した最初の写真。へびつかい座のM107が中央やや左下に写っており、丸で囲まれているのがチュリュモフ・ゲラシメンコ彗星である。 2014年7月14日に撮影されたチュリュモフ・ゲラシメンコ彗星の加工写真。その特異な形が初めてあらわになった。 2015年4月15日にロゼッタにより撮影されたガスを放出するチュリュモフ・ゲラシメンコ彗星。色はフォールスカラー(光の波長ごとに色を後付け)によるものである。 水の存在と重水素 2014年6月6日、ロゼッタが36万kmまで接近したとき毎秒1Lの割合で水蒸気が放出されているのが検出された。このときの太陽からの距離は3.93 auであった。ロゼッタから観測されたチュリュモフ・ゲラシメンコ彗星上の水蒸気の組成は地球上にあるものとかなり異なっており、水に含まれる重水素と軽水素の比率が地球の3倍よりも大きいことが明らかになった。これにより、チュリュモフ・ゲラシメンコ彗星と似た彗星が地球に水をもたらした可能性は低くなった。また、水蒸気には水に対する存在比でホルムアルデヒドが0.32 %、メタノールが0.21 %含まれており、この割合は太陽系内の彗星では一般的な範囲に収まっている。2015年1月22日にNASAは2014年の6月から8月にかけて水蒸気を放出した量が10倍になったと公表した。 彗星上の磁場 核はフィラエの下降・着陸中に行われた測定によると磁場を持っていない。これが多くの彗星に適用されるならば太陽系の形成において磁性はあまり重要ではなかったことを示唆している。 分子の分解反応 彗星の核からコマに放出された水や二酸化炭素分子は分解されることが知られていたが、その原因は太陽からの光、すなわち光子によるものであると考えられていた。しかし、ロゼッタに搭載された分光器ALICEによりそうではなく、核の上空1 kmほどで太陽放射により水分子が光イオン化したときに生成される電子が分解を引き起こしていることが明らかになった。 有機化合物の存在 フィラエに搭載されたCOSAC、Ptolemyという装置によりチュリュモフ・ゲラシメンコ彗星からは16種類もの有機化合物が検出された。この中でもアセトアミド、アセトン、イソシアン酸メチル、プロピオンアルデヒドの4種類の物質は彗星からは初めて検出された。宇宙生物学者のChandra WickramasingheとMax Wallisはこのように彗星表面に有機物が含まれているという特性から微生物の地球外生命の存在を説明できると述べた。彼らは微生物の活動によって地下に高圧ガスを含んだ空洞が形成され、これが割れることで有機物質が表面に供給されているとしている。ただし、ロゼッタの研究者らはその意見については推測にすぎないと述べている。探査機ロゼッタも着陸機フィラエもどちらも生命を直接検出する装置は搭載していなかった。これまでに彗星上で見つかっているアミノ酸はグリシンのみでその前駆体であるメチルアミンやエチルアミンとともに発見されている。これらが発見されたのはチュリュモフ・ゲラシメンコ彗の他にもヴィルト第2彗星でも発見されている。 彗星から放出されたダスト中にも固体の有機化合物が確認された。そしてこの有機化合物は炭素質コンドライト中に含まれる不溶性の物質のように巨大分子の形で結合している。このことから彗星で観測された有機化合物は隕石中にある不溶性の物質と起源が同じで、彗星に取り込まれる前後でも変化していないと考えられている。 酸素原子の存在 ロゼッタのミッションの中で最も優れた発見は彗星付近で多量の遊離酸素分子を検出したことである。現在の太陽系形成モデルではチュリュモフ・ゲラシメンコ彗星が形成された46億年前には水素と酸素が反応して水になる激しく、高温の過程を経るため酸素分子は消滅していたはずであった。 彗星での測定から酸素・水の比(O2/H2O)がコマ内で等方的で太陽からの距離に左右されないということが分かった。このため、酸素分子は彗星が形成された際に核内に取り込まれたと考えられている。ただし、のちの研究で酸素を含む物質が表面にあるとき、水とそれが衝突して酸素分子が生じる可能性が示唆された。そのうえ、窒素分子が検出されたことから、30 Kよりも低温の状況下でこの彗星が形成されたことも示唆された。しかし、2018年7月3日にはそれだけでは十分に説明できないと指摘された。他にも過酸化水素の分解による説などが提唱されている。
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