プロテオミクスの研究
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2021/09/15 10:14 UTC 版)
「プロテオーム解析」の記事における「プロテオミクスの研究」の解説
多くのタンパク質は他のタンパク質と相互作用しており、プロテオミクス研究の目標の一つはこのタンパク質間相互作用を明らかにすることである。これは、新規に発見されたタンパク質の機能を推定する手がかりにもなる。これまでに多くの研究手法が考え出されてきた。伝統的な方法の一つには酵母を使ったTwo-hybrid 法があり、新しく開発された方法にはマイクロアレイ、アフィニティークロマトグラフィー、質量分析法などがある。 プロテオームを解析するためには、通常はまずタンパク質試料を個々のタンパク質に分離することになる。よく使われる手法の一つは二次元電気泳動である。これは、タンパク質をまずは等電点によって、次に分子量によって分類する方法である。ゲル上に現れたタンパク質のスポットは化学染色や蛍光染色によって可視化される。この時点で、染色の濃さによって定量できることもある。それぞれのスポットはゲルから切り出され、プロテアーゼによってペプチドに消化され、MALDI法などの質量分析法によってペプチドが同定される。この操作は、まずペプチドをマトリックスと混合してステージに置き、レーザーを照射してイオン化する。イオン化されたペプチドは電圧に沿って検出器の方向に飛行するが、検出器まで到達する時間と場所はペプチドの質量/電荷比によって異なる。質量が大きいと、到達により時間がかかる。質量は非常に高い精度で同定され、ここからペプチドの化学構造が分かり、ペプチドが同定できる。 タンパク質の混合物は分離をせずに直接同定することもできる。この方法ではタンパク質は混合物のまま消化され、ペプチドの混合物は高速液体クロマトグラフィー(HPLC)で疎水性に従って分離される。HPLCは質量分析装置に直接つながっている。カラムから溶出したペプチドはタンデム質量分析により同定される。1つ目の質量分析計でそれぞれのペプチドイオンが分離され、2つ目の質量分析計ではペプチドをフラグメントに分解して、そのパターンから配列を決定する。いくつかのサンプル間の量の比を決めるためには同位体でラベルされた試料が用いられる。 ヒトの遺伝子やタンパク質を研究することによって期待される成果のひとつは、新しい病気の治療薬が見つかる可能性があることである。ゲノムやプロテオーム解析の情報によって病気と関連するタンパク質を見出し、その三次元構造からタンパク質の活動を阻害するような物質をデザインするなどして新しい薬の候補を選定することが可能となる。これは新しい薬剤を探索する基本的な戦術といえる。たとえば酵素の活性部位にピッタリ当てはまり、しかも酵素から離れないような分子は、酵素を不活性化させることができる。また、個体により遺伝子に差異がある場合には、個人にとってより効率的に働く薬剤をデザインすることもできる。 数百万に及ぶ低分子から、タンパク質の三次元構造に当てはまるものをコンピュータによって探す作業は、「バーチャルリガンドスクリーニング」と呼ばれる。このよい例は、HIV-1プロテアーゼを不活性化する薬剤の探索である。HIV-1プロテアーゼはHIVの持つ巨大なタンパク質を切断して、機能を持った小さな酵素を作る。この酵素がなければウイルスは生存することができず、この薬剤はHIVを殺す効率のよい薬になりうる。 最近はWorld Community Gridのような、多くの分散コンピューティングプログラムがあり、世界中の人々が科学者の計算を手助けすることができる。このソフトは、数百万の世界中の家庭用コンピュータの処理能力をスーパーコンピュータに加算することができる。World Community GridではHIV、癌、タンパク質の折り畳み、デング熱等について計算を行っている。これら3つのプロジェクトはどれもタンパク質モデリングやタンパク質修飾モデルを中心にしている。分散コンピューティングによって得られたデータから、より特異的で効率的な治療法の手がかりを探すことができる。
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