パーソンズとNCの発明
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一般に数値制御の発明者はジョン・T・パーソンズとされている。パーソンズは父の経営する機械工作会社 Parsons Corp で働く機械工兼セールスマンだった。1942年、パーソンズは以前 フォード トライモータ の製造を指揮していたビル・スタウトから「次のでかいこと」はヘリコプターの開発だと聞かされた。そこで彼はシコルスキー・エアクラフトに何か仕事の注文はないか問い合わせ、すぐにローターのブレード内の木製縦通材を作る契約を獲得した。稼動していない家具工場で生産できるよう設定し、実際に製造してみたところ、その縦通材を使ったブレードは故障した。問題は、縦通材の金属カラーと金属製翼桁の溶接部分にあった。そこでパーソンズは縦通材と翼桁の接合に接着剤を使ってみてはどうかと提案した。これは航空機の設計では誰も試したことのない方法だった。 この開発の過程でパーソンズは、縦通材に木ではなく打ち抜き加工した金属を使った方が作るのも簡単だし強度も増すのではないかと考えるようになった。ローター用縦通材はシコルスキーが提供する設計図に従って製造しており、その設計図は外形を17の点で表していた。パーソンズはそれらの点を通る曲線を雲形定規を使って描き、木製縦通材を作る際の固定器具のテンプレートに使っていた。しかし、金属をその形状に切り抜ける工作機械をどう作ったらいいのかは難しい問題だった。パーソンズはライト・フィールドのプロペラ研究所で回転輪部門を指揮していたフランク・スチューレンを訪ねた。スチューレンはパーソンズが自分が何を言っているのか実際には分かっていないと断定し、それを実現するためパーソンズは彼をその場で雇った。スチューレンは1946年4月1日に作業を開始し、3人の技術者を新たに雇った。 スチューレンにはCurtis Wright Propellerで働く兄弟がいて、技術計算にパンチカードシステムを使っていると聞いていた。スチューレンはローターの応力計算にそのアイデアを採用し、ヘリコプターのローターについて世界初の詳細な自動計算を行おうとした。パーソンズはスチューレンがパンチカードシステムを使って作業しているのを見て、それを使って17点の代わりに200点で外形を生成し、各点で使う切削工具の半径を考慮して切削の中心点を求めることができないかとたずねた。そうすれば従来よりも正確に切り出すことができ、硬い鉄鋼でも縦通材に使うことができるし、それをやすりで滑らかにするのも簡単だと考えたのである。スチューレンは何の問題もないと請け合い、必要な膨大な数値を求めた。1人が数値を読み上げ、それにしたがって別の2人の作業員がX軸とY軸を設定し、切削工具をその点に移動させて切削を行った。これを "by-the-numbers method"(数値による方式)と呼んだ。 そこでパーソンズは完全自動化した工作機械を想像した。十分な数の切削点が与えられれば、手動の作業は全く不要になる。しかしその時点では数値にしたがって工具を所定の位置に移動させるのは手動だったため、作業時間の節約にはならなかった。工作機械にパンチカードシステムの数値を直接入力できれば、そういった遅延も人的誤差もなくなり、切削点数を劇的に増やすことができると考えた。そのような機械があれば、指示を打ち込むだけで正確なテンプレートで切り出しを繰り返すことができる。しかし、パーソンズにはそのアイデアを開発に移すだけの資金がなかった。 パーソンズの会社のセールスマンがライト・フィールドを訪れたとき、新たに創設されたアメリカ空軍がジェットエンジンについて問題を抱えていると聞きつけた。そこでパーソンズはロッキード社に赴き自動工作機械のアイデアを説明したが、興味を持ってはくれなかった。ロッキードは既に5軸のテンプレートコピー機を使うと決めており、高価な切削機械を注文済みだった。パーソンズはこれについて次のように述べている。 その状況をちょっと描いてみよう。ロッキードは翼を製作する機械の設計という契約をしていた。その機械はカッターの動きを5軸で制御し、各軸はテンプレートを使ってトレーサー制御される。誰も私のテンプレート製作法を使ったことがない。不正確なテンプレートからどうして正確な翼形状を作れるだろうか。 パーソンズの懸念は現実となった。1949年、アメリカ空軍はパーソンズがその自動機械を製作するための資金を提供することにした。Snyder Machine & Tool Corpと共同で行った初期の試みは、モーターを直接駆動して制御する方式だったが、完全に平滑な切断が可能となる精度を達成できなかった。機械制御は線形に応答することはないため、同じ量の力を与えても常に同じ動きをするとは限らず、結果としてどれだけ切削点を与えても正確な外形を切り出すことはできなかった。
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