パブリックアートと政治
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2021/07/16 21:52 UTC 版)
「パブリックアート」の記事における「パブリックアートと政治」の解説
パブリックアートは政治目的で使われることもある。たとえばロシア革命とロシア内戦の時期、ボルシェヴィキによって公共空間への芸術作品設置が広範囲に行われた。ウラジーミル・レーニンはこの時期、ソ連の各地の芸術家に革命の英雄たちの像を作らせ設置する政策をすすめるようになった。彼は革命時の社会におけるこのような芸術は一時的なものであり英雄崇拝の発生は避けなければならないと主張したが、この時期の記念碑的彫像の氾濫は、しばしばヨシフ・スターリン時代の個人崇拝や社会主義リアリズムによる彫像の乱立と関連付けて語られている。 新進の芸術家たちは落書きや作品の無断設置などゲリラ的な「パブリックアート」制作を、彼らの芸術的アイデアの宣伝や、観客との検閲抜きの交流の確立のための機会と考える傾向がある。これらのうち、いくつかは永続しない素材で作られた一時的なインスタレーションやパフォーマンスの形態をとることもある。またグラフィティの場合、単なる器物破損行為とアートとの境界はあいまいである。キース・ヘリングのような美術家は、ニューヨーク市地下鉄や構内の広告ポスター出稿者の許可を得ることなく、ポスターの上に落書きすることで初期の作品制作を行った。無断で美術館などへのゲリラ展示をおこなったことで近年有名になったバンクシーは、各地の壁面にステンシルを使った落書きを続けている。都市ではこうした「パブリックアート」は自然発生的に現れるが、市民の支持を得る場合もあれば、環境を悪くすると市民の反発を受けることもある。また行政としては無許可の落書きは違法なことから厳しい対処をせざるを得ず、欧米では作者との間の政治的論争に発展する場合もある。 パブリックアートは政治的主張を訴えるにも効果的な道具である。権威主義的・全体主義的な国家では、政府が建てる彫刻や支持者に描かせる壁画は、大衆操縦とプロパガンダの手段として使われることもある。また北アイルランド・ベルファストの有名な壁画群やロサンゼルスの政治的落書きのように、公共空間である壁面に、自分たちの政治的意見を認めさせようとして自発的に絵画が増えてゆくこともある。紛争や深刻な社会問題があり、人種的・宗教的・社会的に人々が分断されたコミュニティでは、対立する人々同士の対話の手段としてはこれが唯一有効な方法であり、将来の紛争解決への第一歩とも期待できる。
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