コーデックスXI
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/05/17 04:13 UTC 版)
「ナグ・ハマディ写本」の記事における「コーデックスXI」の解説
コーデックスXIは、四世紀前半に筆写されたと推定されている。 コーデックス番号題名備考XI 1 グノーシスの解釈 本文の最初と最後の2回「グノーシスの解釈」という題名が書かれているが、本文の内容とは必ずしも合致していない。むしろ、様々な既存の文書がグノーシス(知識)によって正しく解明される、という意味で解するのが適当であるという。「グノーシスの解釈」は古代の文献に証言がなく、ナグ・ハマディ写本発見によって初めて知られた文書である。保存状況は本写本中最悪で、本来あるはずの約半分しか現存していない。原本がギリシア語であったことは確実である。原本の成立時期については推測の域を出ない。内容は、「グノーシスの解釈」の著者とその読者が属した教会が分裂状況にあり、それを何とか乗り越えるために作られた実際の説教である。グノーシス主義の文書であることは明瞭だが、その性格を「キリスト教的グノーシス主義」というべきか、それとも「グノーシス主義的キリスト教」と呼ぶべきかは微妙な問題であるという。 2 ヴァレンティノス派の解明 ヴァレンティノス派の宇宙論・救済論・終末論の重要なポイントが要約されている文書である。欠損が多く、平均して各ページの三分の一は完全に失われている。そのため、不明な部分も多い。ヴァレンティノス派の教義については、エイレナイオスの『異端反駁』第1巻冒頭に書かれているのと、本写本の「三部の教え」が参考になる。「ヴァレンティノス派の解明」というタイトルは本文の初め・終わりにも書かれていない。もともと無表題の文書だったと推測されている。「ヴァレンティノス派の解明」という名前は現代の研究者によって付けられた通称である。本文に無数のギリシア語の借用語が見られることから原本がギリシア語であることは確実である。成立年代の詳しいことはわからない。ヴァレンティノスが登場したのは2世紀半ばであるので、それ以降、コーデックスXI成立の4世紀前半までいうことしかわからない。ヴァレンティノス派と言っても更に分派が存在しているので、本文書がそのどの派のものなのかは議論があり確定していない。 3 アロゲネス アロゲネスとは、異人という意味である。エピファニオスが「薬籠」の中で、アルコーン派の人々が「アロゲネースたちと呼ばれる諸文書を持っている」と述べているので、古代にはアロゲネスの名を冠した諸文書が存在していたことがわかる。本文書は、その一連の文書の中の1つと考えられる。一方、エイレナイオスやヒッポリュトスの書物には「アロゲネースたち」に関する記述はないので、アロゲネスの名を冠した諸文書は、三世紀以後に展開されたものと推測される。題名は文書の末尾に書かれている。ギリシア原本をコプト語訳した文書だと考えられる。アロゲネスが啓示を受けそれを「わが子メッソス」のために記録するという体裁の文書で、経済的援助者か弟子のために作られた説話である。なお、「チャコス写本」に含まれている「アロゲネースの書」はナグ・ハマディ写本所収の「アロゲネス」とは内容が異なる。 4 ヒプシフロネー 「ヒプシフロネー」とはギリシア語で「高慢な」を意味する形容詞の女性単数形だという。古代の文献に記録はなく、ナグ・ハマディ写本発見によって初めて知られた文書である。保存状態は非常に悪く残っている四ページのパピルスのどのページの本文も半分以上欠落している。この他に、おそらく「ヒプシフロネー」の一部だろうと推測される断片が大小六つほど残っている。題名は本文の最初に書かれている。欠落部分が多すぎて推測以上のことは何もわからない。
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