コウノメソッドの実際
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/02/21 02:50 UTC 版)
「コウノメソッド」の記事における「コウノメソッドの実際」の解説
進行する神経変性性疾患を病理的に治療することではなく、専ら認知症の周辺症状を抑える対症療法であることから、病理学的完治ではなく臨床的完治または寛解をもって「認知症は治せる」と主張する[2]。コウノメソッドで推奨する向精神薬の多くがBPSDに有効であることが、プラセボ群との比較対象試験の結果に基づくエビデンスとして認められていることは多くない。ひとつには、認知症高齢者を対象とする臨床データを採りにくい現実的側面があるからである。また、認知症のBPSDへの対応としては、非薬物療法を第一とすることが一般に推奨されている[3]。 抗認知症薬として上市されたドネペジル(1999年)、ガランタミン、リバスチグミン、メマンチン(2011年)は何れも用法用量規定により規定量まで増量することになっている。これらの抗認知症薬には興奮作用があり、BPSDを憎悪させることが報告されている[4][5]。 コウノメソッドで推奨する薬剤のすべてが河野によって見出された訳ではない。前頭側頭型認知症のBPSDにクロルプロマジンが有効であることは精神科医による助言による。レビー小体型認知症の幻覚・妄想に抑肝散が有効であることは荒井(東北大学)の報告[6]による。歩行障害を有する認知症で用いるグルタチオン点滴療法は柳澤厚生(元杏林大学教授)による[7]。いずれの薬剤も認知症患者の症状を診て、副作用を生じさせないことを最優先に各々の認知症症状に最適な用法用量を決めるテーラーメイド処方であるが、その処方量を医師が一律に決めるのではなく、認知症患者家族が様子を見て調整することに有用性があるとして河野が臨床経験から最適な処方量を導き出した。患者と介護者の一方しか救えないときは介護者を救う(介護者保護主義)としているが、コウノメソッドでは介護者との治療連携を重視している。そのためDBC(Dementia balance check)シートを考案し、主治医と介護者が双方で情報提供して治療効果を確認しやすいようにした。このDBCシートは尾道市医師会で多角的に活用されている[8]。 2007年、それまでに纏め上げた一連の診断と処方は「コウノメソッド」と命名してインターネットで公開された。命名においては、医師として責任を持つとの姿勢から自分の名を冠した。 また同時に、コウノメソッドに準拠した治療をする医師を募るため「コウノメソッド実践医」という制度を設けた。その第1号は岩田明(開業医、脳神経外科医)である。岩田は認知症専門外来と認知症専門往診を連携させた日本初の試みを始め、クリニック開業5年で認知症初診者数約3,200名を記録した[9]。さらにドクターイワタの認知症ブログにおいて症例報告も行っている。コウノメソッド実践医は全国で約100名が登録され(2022年2月現在)、実践医はコウノメソッドに準拠した認知症治療を行っており、その治療方法に賛同する医師の数は年々増加している。 ドネペジル(1999年)、ガランタミン、リパスチグミン、メマンチン(2011年)が抗認知症薬(中核症状薬)として上市されたが、認知症の根治薬は現在のところ存在しない。これらの抗認知症薬にはいずれも興奮作用があるため、認知症患者の病型と症状に合わせた適量の抗認知症薬の処方、並びに少量の向精神薬の併用が必要な場合もあると河野は指摘する。薬剤への感受性が強い高齢者においては、このような配慮を欠く治療が全国的に多く存在する[4][10]。また、確立された治療手法もなく、認知症診療に積極的ではない(あるいは、不慣れな)医師も多いことから、認知症患者と介護者が被る、いわば薬害とも言える実態についてのレポートもある[10]。典型的事例では、用法用量規定通りの抗認知症薬の処方や向精神薬の不適切な投与で症状が悪化した認知症患者が、コウノメソッド実践医による治療の変更で穏やかに生活できるようになった実例などがレポートされている[9]。 上述の現状、並びに認知症診療に携わる医師の数は不足しているのが実情であり、今まで認知症を専門にしていなかった医師にも積極的に認知症を診る必要に迫られていることから、堀智勝(脳神経外科医、元東京女子医科大学主任教授)を代表とする認知症の治療に特化した認知症治療研究会(2014年設立)を立ち上げたが、そのベースとなっているのはコウノメソッドである。
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