しゅうへん‐しょうじょう〔シウヘンシヤウジヤウ〕【周辺症状】
周辺症状(BPSD)
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/06/16 09:13 UTC 版)
全ての患者に普遍的に表れる中核症状に対し、患者によって出たり出なかったり、発現する種類に差が生じる症状を「周辺症状」、近年では特に症状の発生の要因に注目した表現として「BPSD(Behavioral and Psychological Symptoms of Dementia:行動・心理症状)」、「non-cognitive symptoms」と呼ぶ。 主な症状としては幻覚(20-30%)、妄想(30-40%)、徘徊、異常な食行動(異食症)、睡眠障害、抑うつと不安(40-50%)、焦燥、暴言・暴力(噛み付く)、性的羞恥心の低下(異性に対する卑猥な発言の頻出など)などがある。 発生の原因としては中核症状の進行に伴って低下する記憶力・見当識・判断力の中で、不安な状況の打開を図るために第三者からは異常と思える行動におよび、それが周囲との軋轢を生むことで不安状態が進行し、さらに症状のエスカレートが発生することが挙げられる。前述の通り、中核症状と違い一定の割合の患者に見られ、必ずしも全ての患者に同一の症状が見られるとも限らない。またその症状は上記のもの以外にも非常に多岐にわたり、多数の周辺症状が同時に見られることも珍しくない。中核症状が認知症の初期・軽度・中等度・重度と段階を踏んで進行していくのに対し、周辺症状は初期と中等度では症状が急変することも大きな特徴である。初期では不安や気分の沈みといった精神症状が多く、中等度になると幻覚や妄想などが発現する。 かつては中等度になると激しい症状が現れ、患者は日常生活を行う能力を急速に喪失してゆき、周辺症状の発現と深刻化によって家族などの介護負担は増大の一途を辿るため、「周辺症状=中等度」との固定観念が存在したが、現在では軽度でも一定の症状が発生することが分かってきたため、その固定観念の払拭と、より原因に着目した表現としてBPSDが用いられるようになった。 オーストラリアにおけるBPSD管理指針Tier診断有病率症状管理1 認知症なし - - 予防に努める 2 BPSDのない認知症 40% - 予防・進行を遅らせる処置をする 3 軽程度BPSDの認知症 30% 夜間騒乱、徘徊、軽い抑うつ、無気力、反復質問、シャドーイング(人に付きまとう) プライマリケア管理 4 中程度BPSDの認知症 20% 大うつ病、攻撃的言動、精神病、性的脱抑制、放浪 専門医受診のうえプライマリケア管理 5 重いBPSDの認知症 10% 深刻な抑うつ、叫び、激しい錯乱 専門の認知症ケアが提供される施設 6 非常に重いBPSDの認知症 1%以下 物理的攻撃、深刻な抑うつ、自殺傾向 老年精神施設にて管理 7 激しいBPSDの認知症 まれ 物理的暴力 集約された特別治療施設 激しすぎる周辺症状が発生した場合、向精神薬等を用いて鎮静化させることもあるが第一選択としては推奨されず、前述の通り不安状態、および認知能力が低下した状態での不安の打開方法としての行動が原因であるため、まずその不安の原因となっている要素を取り除くことが対処の基本となる。中核症状の進行を阻止する有効な方法は確立されていないが、適切な介護・ケア方法によって周辺症状の発生を抑え、明確な症状が見られないままターミナル期を迎えることも可能である。初期の状態での適切なケアが重要となる。
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