クロムスキット式
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/06/02 01:18 UTC 版)
アメリカ軍により開発された方式。“クロムスキット(Kromuskit)”は、開発を担当した2人の設計者、クローガー(Kroger)とマッサー(Musser)の名を合わせた合成語である。 クルップ式と同様に反動の相殺には燃焼ガスの後方噴射を利用するが、薬室は尾栓にノズルを持たず、薬室全体が装填する砲弾の薬莢直径よりも一回り大きい構造になっている。反動相殺用のガスは底板ではなく薬莢側面に開けられた多数の孔から噴出させ、ガスは薬室内の空間に一時的に溜められて初速を得るのに必要な砲腔圧力を発生させた後、尾栓に同心円状に設けられた噴出孔から後方へ排出される。この構造であれば燃焼ガスが一時的に閉じこめられるため、他の方式より砲弾の初速を得やすく、重い複雑な構造の閉鎖機構を持たなくても、噴射ガスに反動を相殺するのに充分な速度を与えることができた。また、薬莢の小孔から薬室へガスを導く際、砲のライフリングから生じるカウンタートルクと逆向きに孔を設けることで、トルクを相殺することもできる。更に、迫撃砲弾の設計を応用した「既成導子」と呼ばれる軟金属製の帯を砲弾に巻きつけ、弾頭自体ではなく既成導子が砲身の施条に食い込み回転を生むことでジャイロ効果による砲弾の直進安定性を得る改良も施された。既製導子が施条に噛み合うことで発射ガスの密閉性が増し、適切な砲腔圧力を確保しつつ、砲身肉厚をより薄くすることが可能になり、砲の更なる軽量化にも成功している。このため、アメリカが最初に開発した一連のものは専用の砲架も必要とせず、機関銃用の三脚架にそのまま搭載できた。 クロムスキット式も、クルップ式と同じく原理上通常の砲弾より大量の発射薬が必要となる。また、従来の火砲より大幅に軽量かつ簡易な構造とできるが、それ故、構造上薬室部分が太くなるため砲尾が重くなり、砲のバランスが後方に偏るという点があった。特に後者は砲の全体的な軽量・簡便化に成功できた利点を損なうものとして問題となった。 アメリカでは当初はドイツ軍の10.5cm無反動砲LG40を鹵獲したものを分析し、1942年にはこれを基にして自国の105mm榴弾砲の弾頭を流用した弾薬を用いるT9(HOWITZER,105mm,T9)を開発し、続いてT9の口径を155mmに拡大したT4(HOWITZER,155mm,T4)の開発に入ったが、イギリスから後述の“バーニー砲”の技術情報が伝えられ、これの特徴である「薬莢に設けた噴出孔から燃焼ガスを薬室内に噴出させ、ガス噴出を二段階にして適切な砲腔圧力を得る」方式を独自に改良し、クルップ式とは異なるクロムスキット式として完成させた。 クロムスキット式の無反動砲は構造を同一として使用弾薬を57mm、75mm、そして105mmとした設計としたものがそれぞれM18/20/27として開発されて第二次世界大戦末の1945年から実戦に投入され(105mm口径のM27は第二次大戦には間に合わず、戦後に完成して朝鮮戦争に投入され、後に改良されてM40 106mm無反動砲となる)、開発元のアメリカにおける無反動砲の主流となった。第二次世界大戦後には多くの国で模倣され、アメリカが各種口径のものを同盟国を始め西側諸国に広く供与したこともあり、無反動砲の形式として広く使われた。 朝鮮戦争で用いられるM18A1 57mm無反動砲M18は「大砲」でありながら兵士が個人で携行・肩担して運用可能な重量に抑えることに成功した M20 75mm無反動砲砲架はM1919機関銃の三脚式銃架の流用である M40無反動砲用の106mm砲弾。薬莢側面にクロムスキット式の特徴である多数の小孔が確認できるこの弾薬自体は2006年にイスラエル国防軍がレバノン南部に侵攻した際に、ヒズボラから鹵獲したもので、イランの製造したコピー生産品であると見られる 後方より見る、M40無反動砲の装填作業隔螺式の尾栓構造と、尾栓周囲の噴出孔がわかる
※この「クロムスキット式」の解説は、「無反動砲」の解説の一部です。
「クロムスキット式」を含む「無反動砲」の記事については、「無反動砲」の概要を参照ください。
- クロムスキット式のページへのリンク