カムバック: 「世紀の決戦」
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「ジェームス・J・ジェフリーズ」の記事における「カムバック: 「世紀の決戦」」の解説
1908年12月26日、ジャック・ジョンソンがトミー・バーンズを14回TKOでやぶり、黒人初の世界ヘビー級王者となった。 白人の間では人種的な憎悪の念が広まり、彼らは「グレート・ホワイト・ホープ」(Great White Hope、白人の期待の星)の到来を切望した。作家のジャック・ロンドンは、引退して農園経営をしていたジェフリーズに対し「アルファルファ栽培の農園から出よ。そしてジョンソンの顔からゴールデン・スマイルを消し去るのだ」と要求した。ジェフリーズ自身はさして人種関係に興味を持っていなかったが、報酬の高額さもあり、結局の所ジョンソンとの試合に臨むこととなった。迎え撃つ王者ジョンソンは記者団の取材に対し、「ジェフは年をとりすぎており、誰を相手にしてもまともに戦える状態ではない。かつての彼の姿を取り戻すことなどできはしない」とコメントした。 実際、長らく試合から遠ざかったジェフリーズの体重は、全盛期の220ポンドから300ポンドにまで膨れあがっていたのである。トレーニングで減量を試みたジェフリーズだが、その過程で自身の身体能力が錆び付いている現実にも直面させられてしまう。彼は報道陣から自身の衰えた姿を隠蔽するため、スパーリングのスケジュールを変更し、またパートナーも若いボクサーでなく古くからの仲間を選んだ。このときジェフリーズのトレーナーを務めたジョー・チョインスキーは「彼は明らかに、精神的に苦しみもがいていた」と語っている。 1909年10月16日、スタンリー・ケッチェルがジャック・ジョンソンに挑戦するが、12回KOで敗北。ジェフリーズは「ケッチェルが勝てば、私はトレーニングを打ち切るつもりだ」と語っていたが、ジョンソンとの試合に臨まざるを得なくなった。 1910年1月7日付『ザ・ノーフォーク・ウィークリーニュースジャーナル』誌上では、プロレスリング世界王者フランク・ゴッチがジェフリーズの勝利を予言するコメントを発表した(ゴッチはジェフリーズの友人であった)。しかし一方、同じ誌面で「プロレスの父」ことウィリアム・マルドゥーンは、「引退後の6年で、ジェフリーズの身体は既に錆び付いている。ジョン・L・サリバンがコーベットに打ちのめされたのと同様の結果となるだろう」と冷静な評価を下していた。 1910年7月4日、ジャック・ジョンソンと対戦。両者とも握手を拒否する緊張感のなかで開始されたこの「世紀の決戦」であったが、試合は一方的なものとなった。ジェフリーズ優勢と言えたのは4回のみで、このときジョンソンの顔面をとらえ唇から出血させ観客を湧かせたほかは、終始劣勢にまわることとなった。そして15回、下あごに強打を受けたジェフリーズは、生涯最初のダウンを経験することとなった。なんとか膝を突いて立ち上がるも、待ち構えていたジョンソンの強打を受けロープ外にはじき出されてしまう。周囲の手を借りなんとかリング内に戻った彼だが、ジョンソンの攻勢を受けまたもダウンを喫し、見かねたマネージャーがタオルを手にリング内に入ったところで試合終了となった。15回TKOというかたちで、ジェフリーズは最初で最後の敗戦を経験することとなった。 初めての敗北を味わったジェフリーズは、頭を抱えながら「私はもはや優れたファイターではなかった。私はカムバックできなかった。みんな。私はカムバックできなかった」と呻いた。ジェフリーズ夫人は打ちのめされた夫の姿を見て卒倒し、また陣営の面々も涙を禁じ得なかったが、コーベットは泣きながら「君はやれるだけのことはやった」と慰め、またフランク・ゴッチは「元気を出せ。明日一緒に釣りに行こう」と励ました。またジェフリーズはコーベットに対し「ジム、私がかつて倒してきた相手にグローブを渡してきたのを知っているだろう。ジョンソンからグローブをもらえないか聞いてみてくれないか」と言った。ジョンソンはその頼みを聞き、「わかった。記念に喜んで私のグローブを渡そう」と応じた。 会場で観戦したジョン・L・サリバンは、勝者ジョンソンに誰よりも先に祝福の言葉をかけ、新聞社に対しては「哀れにして一方的な試合だった」とコメントした。またジェフリーズを「グレート・ホワイト・ホープ」として担ぎ出した張本人であるジャック・ロンドンは "It was not a great battle" (「偉大な戦いではなかった」)と手のひらを返して酷評した。「落ちた偶像」となったジェフリーズは、失意の中で彼の農場へと帰っていった。敗戦後、彼が新聞社に発表した公式コメントは「これで公衆は、私のことを放っておいてくれるだろう」と結ばれていた。
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