オネスによるフーコーの振り子の研究
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「フーコーの振り子」の記事における「オネスによるフーコーの振り子の研究」の解説
オランダの物理学者、ヘイケ・カメルリング・オネスはヘリウムの液化や超伝導の発見など低温物理学の分野に業績があり、1913年にはノーベル物理学賞を受賞した人物である。オネスは、フローニンゲン大学で1879年に博士号を取得したが、博士論文のタイトルは「蘭: Nieuwe bewijzen voor de aswenteling der aarde(地球の自転の新たな証拠)」で、フーコーの振り子の現象の一般化(レオン・フーコーが示した地球の自転による振り子の振動面の回転は特殊な振り子であること)を示した研究であった。 オネスにフーコーの振り子の研究を勧めたのはグスタフ・キルヒホフであった。キルヒホフはフーコーの振り子について、数学モデルと実験結果が示す差異に不満を持っていた。オネスは、1872年の秋からフーコーの振り子の実験に取り組み、一時中断した後、1876年の春に博士論文のテーマとした。 オネスが実験に使用した振り子は、弦が1.2mの細い銅管で、錘が質量15kgの鉛の球を使った。支持装置は板バネ付きのダブルナイフエッジを使用した。また空気抵抗を無視できるようにするため、振り子全体を金属ケースで囲み、減圧して0.1気圧以下で実験を行った。 また錘の軌道は、振り子に取り付けられた鏡と、プリズムとレンズの組み合わせで光学的に観察するようになっていた。振り子の鏡で反射された光は、金属ケースのガラス窓を通して装置外部に出力され、これを拡大レンズを通して観察した。接眼レンズには目盛が刻まれており、振り子の振動面の角度と振幅を正確に記録できた。 このように外乱を可能な限り排除し、地球の自転が振り子の軌道に与える影響を観察したが、時間が経過すると錘の運動が楕円になる現象が生じた。オネスは装置の改良と実験を重ね、2年の歳月を費やしたが、振り子の軌道が楕円になる現象は解消されなかった。オネスは実験結果と理論面を見直し、振り子の楕円軌道によっても振動面の回転が起きると考え方を改めた。 理想的な振り子の弦の支点は、どの方向に錘を振動させても一点で固定されていると仮定する。しかし、現実には機械的制約により縦方向(便宜的に x {\displaystyle x} 軸方向)と横方向( y {\displaystyle y} 軸方向)の支点位置がわずかにずれ、 x {\displaystyle x} 軸方向で振動している時の弦長 l x {\displaystyle l_{x}} と y {\displaystyle y} 軸方向で振動している時の弦長 l y {\displaystyle l_{y}} が異なることになる。従って、振り子の運動方程式は F x ≃ − m g x l x {\displaystyle F_{x}\simeq -{\frac {mgx}{l_{x}}}} F y ≃ − m g y l y {\displaystyle F_{y}\simeq -{\frac {mgy}{l_{y}}}} x {\displaystyle x} 軸方向の振動周波数( ψ x {\displaystyle \psi _{x}} )と y {\displaystyle y} 軸方向の振動周波数( ψ y {\displaystyle \psi _{y}} )が異なる原因となる。 ψ x = g l x {\displaystyle \psi _{x}={\sqrt {\frac {g}{l_{x}}}}} ψ y = g l y {\displaystyle \psi _{y}={\sqrt {\frac {g}{l_{y}}}}} 弦の長い振り子では x {\displaystyle x} 軸と y {\displaystyle y} 軸の振動周波数の違いは無視できるが、弦の短いフーコーの振り子では深刻な問題となる。オネスの数学モデルと実験結果から、 x {\displaystyle x} 軸と y {\displaystyle y} 軸の振動周波数が違なる場合、地球の自転により振動面が回転すると、初動時に直線運動であっても、時間が経過すると楕円軌道となる。 x {\displaystyle x} 軸と y {\displaystyle y} 軸の振動周波数の違いにより、地球が自転していなくても振動面が徐々に回転する。この現象を球面振り子の楕円運動による面積効果と呼ぶ。つまり楕円軌道を描く錘の軌跡は、周波数 ψ x {\displaystyle \psi _{x}} と ψ y {\displaystyle \psi _{y}} のリサジュー図形になる(ハーモノグラフも参照)。 理想的なフーコーの振り子は、振動が直線のまま、長時間にわたり振動面の回転が観察できることである。これを満たすためには、 x {\displaystyle x} 軸と y {\displaystyle y} 軸の振動周波数が等しく、 x {\displaystyle x} 軸と y {\displaystyle y} 軸の慣性モーメントも等しい、「完全対称」な振り子が必要となる。
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