アリストテレス形而上学の破綻と再構築
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「弁証法」の記事における「アリストテレス形而上学の破綻と再構築」の解説
ただし、中世までと、近世・近代では、アリストテレスの思想を取り巻く状況、その位置付けは大きく変化した。 というのも、アリストテレスの思想・学問体系は、「純粋形相・純粋現実態である不動の動者によって動かされている、地球を中心に円運動する宇宙・世界」といった地球中心説(天動説)的宇宙観・世界観から始まり、「万物がヒュレー(質料)・デュナミス(可能態)から、エイドス(形相)・エネルゲイア(現実態)の実現へと向けて運動する」といった共通法則を、自然学・形而上学(第一哲学)→倫理学→政治学と、人間の実践的領域にまで敷衍・適用するように組み立てられた、緻密かつ壮大なグランドセオリーだったが、コペルニクス等によって太陽中心説(地動説)が解明・普及された16世紀以降、その枠組みが破綻してしまったためである。 したがって、近代哲学においては、アリストテレスのそれに代わる、新しい形而上学(第一哲学)、ひいてはグランドセオリーの再構築が、1つの大きな課題となった。(ヘーゲル等の段階では、これは「Wissenschaft」(ヴィッセンシャフト、学・学知)と呼ばれるようになるが、念頭に置かれているものは同じである。) 英国ではそうした「拙速な枠組みの先決」を避け、経験的・漸進的な学習・解明を重視する経験論・感覚論が主流になったが、ヒュームによって、それを突き詰めると懐疑論へと行き着くことが示されてしまった。他方で欧州大陸では、古典力学の勃興期であった当時の状況を背景に、合理主義的に形而上学・グランドセオリーの再構築が試みられたが(大陸合理論)、独断論の域を出なかった。 イマヌエル・カントは、大陸合理論の理性主義的基調を引き継ぎつつ、他方で「経験によって認識が始まる」という経験論的発想も加味しながら、認識の共通の基盤・土台となっている(とカント等が考えた)「理性」自体を吟味するという逆転の発想(コペルニクス的転回、批判哲学)によって、経験的領域と、非経験的・実践的・形而上学的領域を、(「理性」を共通の基盤・土台としつつ)区別・共存させるという方法で、形而上学やグランドセオリー的枠組みの適正な再生・回復の試みを示そうとした。 このカントの二元論(経験・感覚的「現象」と非経験・非感覚的「物自体」)的な批判哲学的枠組みの再編・乗り越えを、「弁証法」(dialectic)の賞揚と共に志向したのが、フィヒテ、シェリング、ヘーゲル等、ドイツ観念論に分類される人々である。
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