アイツキ
読み方:あいつき
- 挨拶。
- 〔的〕挨拶のこと。仲間入りの為めの儀礼を云ふ。其の種類には初対面の挨拶、大勢寄つてゐるときの挨拶、弟子入披露の挨拶、喧嘩の仲直をするときの挨拶等があり、各々挨拶の異ることは一般の場合と同じであるが、此の社会では特に挨拶の言葉を云ひ直したり行き詰つたりすることが大禁物で、一端云ひ出したら最後迄淀みなく述べねばならぬのである。昔は博徒、侠客の間に行はれたもの、現今でも玄人の遊人、土工、坑夫等には此の儀礼あり、一種厳然たるものがある。近来に於ては不良少年仲間でも此の儀礼を採り入れられたと聞く。此の儀礼を「ジンギ」ともいふ。「契り」の意味もある。
- 之は挨拶のことで「ヅキサカ」(※「ずきさか」)「ジンギ」と同じ場合もある。即ち入団の挨拶、契約及其の儀式のことで、最近では不良者間にも彼の的屋仲間でやる名乗の「ジンギ」を採用するやうになつたと云はれてゐる。
- 仁義。福井。
- 的屋や犯罪者同志のつきあい、あいさつなど。〔一般犯罪〕
- つきあいのこと。やし仲間がお互いにとりかわす一種の儀礼、あいさつのこと。初対面のあいつきとか、弟子入り、おとしまえ、などいろいろの場合があるが、てきやだけでなく、遊び人、土方、職人、床屋などそれぞれそうした仁義のやりとりの習慣があったが、現在ではほとんど見ない。だんだん消失している。職人達のいわゆる仁義というのが、この、あいつきのことで、よく映画や芝居で見る変な恰好の中腰で睨み合ってするやりとりである。両方とも体を斜めにして、心もち頭を下げ、肩を、いからし、垂れた拳はいつまたけんかになってもいい様に固く握っている。が、くわしく記せば、道路上の、家屋内の、喧嘩の…と、いろいろ場合によって文句もちがい、姿勢にも変化があるのである。この場合に、もし自分が一本立ちの兄イならば、親指を四本の他の指の中に、つまり拳の中にかくし、もし、親分もち、即ち子分ならば、拳のそとにあらわしておく。そしてこの、体をななめにして坐ったり、中腰になったりすることは、喧嘩の体勢以外大いにわけがあるのである。それは、むかし、印袢天を着ていた時分、一目で相手にその背中のしるしを見せるためのものだったのだが、それが今、形だけのこっているのである。
こうして、じっと睨み合っているうちにだんだんと極度の緊張でふるえてくる。いつまた挨拶のしようで、ゴロ(けんか)になるかわからないからである。参考までに、そのやりとりの一節を香具師奥義書から転載してみる。
A 間違いましたら御免なさんせ、お友達さんじゃござんせんか。
B 御意にござんす、おひかえなさい。
A おひかえなさい。
B おひかえなさい。
A 手前旅中でござんす、おひかえなさい。
B 旅は同旅にてござんす、おひかえなさい。
と相手方が発言を中止して、いわゆるあいさつを控えた時、次のような言葉がはじまるのである。
A さっそくおひかえ下さって有難うさんにござんす。あげます言葉前後間違いましたら御免なさんせ。手前生国と申しやすと東京にて御座んす。東京と申しましてもいささか広うござんす。が、何区何町何番地に御座んす。稼業縁持ちましての親分旧××一家の××の××と申しやす。
姓名をあげますは失礼さんにござんすが、××と申しやす。稼業昨今かけ出しの若い者に御座んす。いず方に参りましても親分さんに御厄介相かけがちのものに御ざんす。面体お見知りおきの上、今日後万般御じっこんに願いやす。
B 申し遅れました。手前生国と申しやすと、
と、同じようなことをくりかえし終ってやっと同時に、
AB そろって、よろしく御願い申しやす。と、結ぶのだが、この場合、大ぜいのだち(仲間)が寄り集まっているときには、その冒頭語に一寸した変化があり、
「御一同さんにあげます言葉、前後間ちがいましたら御めんなさい……」
と云って、前述通り生国を名のり、ついで親分又は兄イの縁につながることをのべ、後段は前文のままでいいわけである。
この間右手方の大ぜいは、極めて静粛に又、極めて厳粛にあいつきを聞いている。そして言葉が終れば同時に頭を下げて、かんたんに一同「よろしくお願い申しやす」と云って形式は終るのである。
それから、これが親分で、下の者に対するアイツキとなれば、それは更に一そうかんたんで威張ったものである。即ち「手前何々一家(と家名を名のり)何の××……よろしく」と云ったようなことで万事OKである。なお今日ではやくざ仁義のようなものは、不良っ子たちが、好奇心と見栄でやるだけで、本職のやくざたちは、一切やらない。せいぜい「私は松戸の山春の××です。よろしく」というぐらいである。面白いことに、こうした仁義は、今日では昔のそれと趣きを異にして昔は儀礼だったのが、今ではむしろ、相互に反感を持ち合っている時にやる。ちょうど、ゴロの挑戦を意味するようなものである。〔香具師・不良〕 - 仲間でとりかわす儀礼。つきあい(交際)反転したもの。〔香〕
- 〔香〕〔犯〕あいさつ。的屋や犯罪者同志のつきあい。あいさつなど的屋仲間では、初対面の挨拶とか、弟子入り、おとしまえなど色々の場合があるが、的屋だけでなく、遊び人、土方、職人、床屋などそれぞれそうした仁義のやりとりの習慣があったが、現在ではほとんどみられなくなった。
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