『ベーオウルフ』における戦いの記述
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「フィンネスブルグ争乱断章」の記事における「『ベーオウルフ』における戦いの記述」の解説
詳細はフィンズブルグの戦い(英語版)を参照 前後関係は明らかではないが、この物語の異聞が叙事詩『ベーオウルフ』の一節に見られ、このエピソードは「フィンの挿話」(Finn Episode)といわれている。フネフのように、登場人物の幾人かは他のテキストにも名前が言及されている。『ベーオウルフ』では第1068行目から1158行目にかけて、およそ90行に渡る長さでこの挿話をフロースガールのスコプ(英語版)が、ベーオウルフが今しがた立てた功績を讃える最初の祝宴の場で歌う形で登場するが、内容は概ね以下の通りである。 デネの王フネフは妹ヒルデブルフをフリジアの王フィンに嫁がせていた。あるときフネフはフィンのもとに滞在したが、デネ側とフリジア側の間に争いが起こった。この戦いでデネ側はフネフをフリジア側はフィンの息子を失う。互いに消耗し戦いを続けることが難しくなったことで、両陣営は広間と宝を平等に分つことで和議を結び、フィンは今後デネ側を不当に扱わせないことを約束する。こうしてデネ側の一部は帰国の途につくが、ヘンギストは復讐を目論みフィンズブルグに留まった。デネに帰国したグースラーフとオースラーフが手勢を引き連れて戻って来るとヘンギストはフィンを含むフリジア勢を殺害して復讐を果たし、フィンの屋敷から財宝とヒルデブルフを奪ってデネへと帰国する。 この詩でフネフの最後の戦いは、フレスワール(Fres-wæl、フリジア人の虐殺)といわれる戦いの結果としている。この挿話は隠喩に富んでおり、明らかに物語を知っている聴衆を対象にしている。フリジア人がデネに不意打ちを仕掛けた後のヒルデブルフの悲しみが描写されている。ヒルデブルフはフネフの妹にあたり、フリジア人の首長フィンと結婚していたが、これは2つの部族が和平を取り結ぶための努力の一環であった。こんにち多くの学者はこれが悲劇の原因の一部とみなしている。彼女は兄フネフを失ったことを悲しむが、彼は火葬用の薪の山を彼女とフィンの息子と分かち合った。戦いの後、フィンとヘンギスト(ヘンジェスト、ヘンイェストとも)という人物が休戦の合意を結ぶ。ヘンギストはフネフの生き残った戦士らのリーダーである。状況ははっきりしないが、少なくともその冬の間フネフの部下たちはフィンネスブルグへ留まり、フリジア人たちは、主人の殺害以降はデネの生き残りを愚弄することはなかった。結局、ヘンギストは復讐に駆り立てられ、フィンと彼の部下たちを蜜酒の館(mead hall)で虐殺し、館で略奪を行うと、ヒルデブルフを「彼女の民の元へ」連れ帰った。 一読しただけで、『ベーオウルフ』の「フィンの挿話」とフィンネスブルグ断章との間に多くの違いがあるのが分かる。まず最も一般的に知られる違いは、フィンネスブルグ断章におけるヒルデブルフの不在である。「フィンの挿話」において、彼女は必要不可欠な登場人物で、全ての動きに影響を与えており、まさしくこうした理由から彼女も等しく悲劇の人物だろうとされる。物語の冒頭から、彼女は兄フネフと自分の息子を失い、自身の血縁関係にあるデネと婚姻関係にあるフリジア人と一緒に彼らの死を悼む。 ヒルデブルフの結婚は愛によるものではなく義務であって、彼女はフィンやフリジア人と強い結びつきはなかったとする研究者もいる。彼女の人物像はかなり美化されているか、あるいは過度に同情的に描かれているのではないかという激しい議論が批評家や学者によって成されている。ヒルデブルフの悲劇的で美化された人物像は、原文による裏付けの乏しさから研究者は「疑問の残る評価」としているが、これはアングロ・サクソン時代の聴衆と現代人との間に時間と文化の大きな違いがあることを考慮できないからでもある。「フィンの挿話」の存在が「フィンネスブルク争乱断章」におけるヒルデブルフの不在をより一層明確にするが、これはヘンギストにも言えることである。「フィンの挿話」では、ヘンギストは物語を展開する上で大変重要な役割を演じる。彼はリーダーであり、各所に見られる行動の多くを煽動する。ヘンギストは「自身の本拠地で殺害された」フィンやフリジア人との間に「誓約」と「一時的な休戦」を取り結ぶ人物なのである。ヒルデブルフと同様に、「フィンの挿話」におけるヘンギストの重要性は、フィンネスブルグ断章における彼に関する記述の欠落をより一層明らかにする。彼は断章では一度登場するだけで、その言及も彼の重要な役割を描写するものではない。そこに描かれる彼の振る舞いはリーダーのそれではなく、17行目で誰かのあとに続いて歩を進める("and Hengest sylf / hwearf him on laste")と描写されるにすぎない。ヘンギストの存在は戦いにおいては重んじられるものの、「フィンの挿話」に描かれているほど強い立場にはなかったのではないかと議論される可能性がある。
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