なまはげ
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名称
冬に囲炉裏(いろり)にあたっていると手足に「ナモミ」 「アマ」と呼ばれる低温火傷(温熱性紅斑)ができることがある。“それを剥いで”怠け者を懲らしめ、災いをはらい祝福を与えるという意味での「ナモミ剥ぎ」から「なまはげ」 「アマハゲ」 「アマメハギ」 「ナモミハギ」などと呼ばれるようになった。したがってナマに「生」の字を当て「生剥」とするのは誤り。
なまはげの仮面の形は地域によって様々異なるが、赤面と青面の1対に定型化もされており、この場合は赤面がジジナマハゲ、青面がババナマハゲと呼ばれる。
風習
なまはげ
「なまはげ」は怠惰や不和などの悪事を諌め、災いを祓いにやってくる来訪神である。かつては小正月(旧暦から新暦に)の行事だったが大晦日の行事となり(参照)、年の終わりに、大きな出刃包丁(あるいは鉈)を持ち、鬼の面、ケラやミノのような用具、ハバキをまとって、なまはげに扮した村人が家々を訪れ「泣ぐ子(ゴ)は居ねがー」「悪い子(ゴ)は居ねがー」と奇声を発しながら練り歩き、家に入って怠け者や子供、初嫁を探して暴れる。家人は正装をして丁重にこれを出迎え、主人が今年1年の家族のしでかした日常の悪事を釈明するなどした後に酒などをふるまって、送り帰すとされている。最後は「へばなー(津軽弁で「またね」「じゃぁね」の意)」「元気にしろよ〜」と言って出ていく。
面は、本来は丹色(赤)に塗ったが主で、木の皮や木製だったが[10]、近年ではこれにかわり竹ザルを台材にした張り子や、ボール紙製など様々である[11]。藁衣装はケラ・ミノの類と説明されることが多いが、厳密には現地でケデ(またはケンデ、ケダシ)と称する特有の衣装である[12]。
教育的機能
なまはげは伝統的民俗行事であるとともに、東北地方においては幼児に対する教育の手段として理解されている。親は幼児に対し予めなまはげによる強い恐怖体験を記憶させ、そのあと幼児に対し望ましくないとみなされる行為を行った場合、その恐怖体験が再現される可能性を言語的手段によって理解させる[13]。
同様の行事
本州北部の日本海沿岸部には、青森県西津軽のナゴメタクレ、秋田県能代市のナゴメハギ、秋田市のやまはげ、秋田県沿岸南部のナモミハギ、山形県遊佐町のアマハゲ等がある。主に新潟県村上市や石川県能登地方にはあまめはぎが伝えられ、福井県には語源は異なるがあっぽっしゃなどの呼び名でも分布する。
東北地方の太平洋沿岸部(三陸海岸)にも同様のものが存在する。岩手県では久慈市のナガミ、野田村・普代村・山田町のナモミ、釜石市のナナミタクリ、大船渡市三陸町吉浜のスネカ、弘前市のアブラダタキ、栗原市のモミダリ、 同市三陸町越喜来のタラジガネ、内陸に入って遠野市のナモミタクリやヒカタタクリ等がある。
四国の愛媛県宇和島地方では、前述の低温火傷を「あまぶら」といって、あまぶらができるような怠け者が便所に入ると、「あまぶらこさぎ」という者があまぶらを取り去るという[14]。
歴史
発祥
妖怪などと同様に民間伝承であるため、正確な発祥などはわかっていない。秋田には、「漢の武帝が男鹿を訪れ、5匹の鬼を毎日のように使役していたが、正月15日だけは鬼たちが解き放たれて里を荒らし回った」という伝説があり、これをなまはげの起源とする説がある[15][16]。
年表
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菅江真澄『牡鹿乃寒かぜ』に描かれた「ナモミハギ」 |
- 文政5年(1822年)、菅江真澄が記した『菅江真澄遊覧記』が秋田藩藩校・明徳館に献納された[17]。この中の「牡鹿乃寒かぜ」において、文化8年1月15日(グレゴリオ暦:1811年2月8日)に行われた秋田の小正月行事 「ナモミハギ」が記された[18]。この「ナモミハギ」を現行の「なまはげ」と同等とみなし、同書籍を以って現在分かっている文献的初出としている[18]。
- 1873年(明治6年)
- 1961年(昭和36年)、現代舞踏家・石井漠(現・秋田県山本郡三種町出身)が振り付けをし、息子の石井歓が曲を付けて「なまはげ踊り」が創作された[19]。
- 1964年(昭和39年)2月、男鹿温泉郷の星辻神社(北緯39度58分3.8秒 東経139度44分38.6秒 / 北緯39.967722度 東経139.744056度)において、大晦日に男鹿半島各地で行われるなまはげと、1月3日に行われる真山神社(北緯39度55分37.6秒 東経139度46分0.7秒 / 北緯39.927111度 東経139.766861度)の紫灯祭を組み合わせた観光イベント「なまはげ紫灯祭」が初開催された[20]。後年、会場は真山神社に移された[20]。
- 1978年(昭和53年)5月22日、「男鹿のナマハゲ」として、国の重要無形民俗文化財に指定された[21]。
- 1988年(昭和63年)、「なまはげ太鼓」が創作された[22]。
- 1995年(平成7年)、曲り家の目黒家住宅(1907年完成)を移転させ、現在地にて民俗資料を展示する「男鹿真山伝承館」として公開[23]。ナマハゲ習俗を体験できる場としても利用している[24]。
- 1997年(平成9年)、男鹿中央広域農道(通称:なまはげライン、Google マップ)[25]になまはげ大橋が架橋[26][27]。
- 1999年(平成11年)7月23日、男鹿真山伝承館の隣接地に「なまはげ館」(北緯39度55分45.1秒 東経139度45分59.7秒 / 北緯39.929194度 東経139.766583度)がオープン[28]。
- 2004年(平成16年)
- 2007年(平成19年)
- 5月、秋田県男鹿市の国道101号沿いに、体長15mと12mで顔が赤と青のなまはげ立像計2体が同市により設置された[30]。 強化プラスチック製で製作費は約4000万円であり、同市は「世界最大のなまはげ像」としている[30]。
- 6月1日、1対のなまはげ立像(体長15mと12m)の隣接地に男鹿総合観光案内所がオープン[31]。
- 12月31日、なまはげに扮した男が飲酒したことで酩酊し、温泉旅館の女性浴場に乱入する騒動が発生した[32]。これを受けて翌2008年1月に、男鹿市ではなまはげの暴れ方に関する指針、いわゆる行動指針の策定のため、同市副市長伊藤正孝ら行政側と地区代表らが協議したが、マニュアル作成は見送られ、「伝統の原点へ回帰する」ことで決着、その後行政による指導はないと報じられた[33]。
- 2013年(平成25年)3月30日、なまはげ館がリニューアルオープンした[34]。
- 2014年(平成26年)10月3日、国の重要無形民俗文化財に指定されている「来訪神行事」が所在する全国9市町により、それらが一括してユネスコ無形文化遺産に登録されることを目指す「来訪神行事保存・振興全国協議会」が設立された[35]。
- 2018年(平成30年)11月29日、「来訪神:仮面・仮装の神々」(なまはげを含む全国10の来訪神行事)が、ユネスコ無形文化遺産保護条約の「人類の無形文化遺産の代表的な一覧表(代表一覧表)」に、正式に登録されることが、モーリシャスのポートルイスにおいて開催されている同条約の第13回政府間委員会において決定された[36]。
注釈
- ^ 鬼が妖怪であるのに対し、なまはげは神の一種であるため、全く異なる存在である。
出典
- ^ a b c 【記者の目】ナマハゲ ユネスコ無形文化遺産/観光と伝統 両立モデルに/秋田支局 川口峡『毎日新聞』朝刊2019年2月21日(2019年2月25日閲覧)。
- ^ 真山神社 特異神事(2019年3月16日閲覧)。
- ^ 小正月から節分の風習と神仏(Sai-Jiki 彩時記)
- ^ a b c d e 男鹿「なまはげ」担い手いねがぁ~ 実施町内会5割強に減(『河北新報』 2017年12月29日)
- ^ a b c なまはげ伝承に「黄信号」 少子高齢化で担い手不足(『日本経済新聞』2013年4月18日)
- ^ 「ナマハゲの継承に尽力 大切な文化、後世に」日本経済新聞ニュースサイト、2018年11月30日掲載の共同通信配信記事、2019年3月16日閲覧。
- ^ 「女性のナマハゲ、実現せず/抵抗強く、雰囲気を察し辞退」朝日新聞DIGITAL(2018年12月31日)2019年2月13日閲覧。
- ^ 大湯卓二・嶋田忠一「秋田の鬼」『東北の鬼』岩手出版、1989年。 NCID BN04047704。
- ^ a b 小松和彦『妖怪文化入門』角川書店、2012年、150-152頁。ISBN 978-4-04-408303-8。
- ^ 稲 1985, p. 36.
- ^ 稲 1985, p. 42.
- ^ 稲 1985, p. 45.
- ^ 内藤俊史1987「こどもの内在的正義の観念としつけ態度との関係---農村地域におけるケーススタディ」『社会心理学研究』3(1):29-38
- ^ 水木しげる『水木しげるの続・妖怪事典』東京堂出版、1984年、136頁。ISBN 978-4-490-10179-9。
- ^ 万造寺竜『旅の伝説玩具』旅行界発行所、1936年、75-77頁 。
- ^ 野添憲治、野口達二『秋田の伝説』角川書店〈日本の伝説〉、1976年、23-24頁。 NCID BN03653538。
- ^ 菅江真澄遊覧記(秋田県立図書館)
- ^ a b 男鹿のナマハゲ 重要無形民俗文化財(男鹿市教育委員会)
- ^ なまはげ柴灯まつり(男鹿市教育委員会「男鹿のナマハゲ 重要無形民俗文化財」)
- ^ a b なまはげ紫灯祭 NAMAHAGE FIRE FESTIVAL in OGA(秋田県「美しき水の郷あきた」)
- ^ 男鹿のナマハゲ(男鹿市)
- ^ 地域芸能としての創作太鼓 ―《みやぎ龍神太鼓》を事例として― (PDF) (『宮城学院女子大学 研究論文集』120号 2015年6月)
- ^ 男鹿真山伝承館 文化庁、2022年2月19日閲覧
- ^ 男鹿真山伝承館 おが地域振興公社、2022年2月19日閲覧
- ^ 男鹿中央 Archived 2016年8月22日, at the Wayback Machine.(秋田県「秋田県の農道 ☆広域農道Map Archived 2017年1月18日, at the Wayback Machine.」)
- ^ 平成27年度(第2回)秋田県道路メンテナンス会議 (PDF) (国土交通省東北地方整備局 2015年8月27日)
- ^ これぞ秋田観光! 雄大な自然となまはげに会う! 男鹿半島ドライブ 日産自動車、2022年2月19日閲覧
- ^ 議事日程第1号 平成24年8月8日(水) (PDF) (男鹿市)
- ^ なまはげPR任せて 初の「伝導士」認定試験 男鹿(『河北新報』2004年11月4日)
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- ^ 巨大なまはげ出迎え 観光案内所がオープン(『秋田魁新報』2007年6月2日)
- ^ “男鹿温泉エロなまはげ、女湯に乱入お触り”. 『日刊スポーツ新聞』 (日刊スポーツ新聞社). (2008年1月13日). オリジナルの2008年7月1日時点におけるアーカイブ。 2010年2月16日閲覧。
- ^ “なまはげ「原点回帰を」 秋田・男鹿市、セクハラで協議”. MSN産経ニュース (産経新聞). (2008年1月30日). オリジナルの2010年2月16日時点におけるアーカイブ。 2010年2月16日閲覧。
- ^ 百十体百十色。なまはげ館リニューアルオープンしました!(男鹿市観光協会 2013年3月31日)
- ^ 「来訪神行事保存・振興全国協議会」の設立について (PDF) (文化庁)
- ^ 「来訪神:仮面・仮装の神々」のユネスコ無形文化遺産代表一覧表への記載決定について(外務大臣談話)(外務省 2018年11月29日)
- ^ 「あなたもナマハゲ 男鹿市観光協会がツアー参加者募集」日本経済新聞ニュースサイト(2019年11月7日)2020年1月20日閲覧。
- ^ 「男鹿のなまはげ」秋田県公式サイト内
- ^ なまはげに関する基礎知識 Archived 2014年8月24日, at the Wayback Machine.
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- ^ 鹿島まつり(秋田県「美しき水の郷あきた」)
- ^ 若畑の鹿島様(秋田県「秋田県のがんばる農山漁村応援サイト」 2011年4月)
- ^ なまはげ立像(【男鹿市公認】秋田県男鹿の観光サイト「男鹿なび」)
- ^ おススメ観光コース (PDF) (男鹿市観光協会 2013年3月)
- ^ 男鹿駅前に男鹿のシンボル「なまはげ」の像を設置いたします (PDF) (東日本旅客鉄道 2012年10月9日)
- ^ "視覚と聴覚の衝撃「なまはげ太鼓」その音で伝えたいこと". 朝日新聞DIGITAL. 2 March 2023. 2023年10月21日閲覧。
- ^ 恩荷(おんが) なまはげ太鼓 秋田県男鹿
- ^ ONGA・恩荷 (@ONGA_ogaonsen) - Twitter
- ^ 五風なまはげ太鼓 秋田県 男鹿温泉郷
- ^ "若者引き留める「なまはげ太鼓」 秋田・男鹿温泉郷". 日本経済新聞. 26 October 2017. 2023年10月21日閲覧。
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- ^ 【公式】NAMAHAGE郷神楽 (@namahage_stkgr) - Twitter
- ^ "エビ中、アイドル初の「あきた美の国ガールズ」に就任". BARKS. ジャパンミュージックネットワーク株式会社. 20 October 2019. 2023年10月21日閲覧。
- ^ "なまはげ太鼓豪快に". 読売新聞オンライン. 31 December 2022. 2023年10月21日閲覧。
- ^ 音打屋-OTODAYA- 和太鼓ユニット (@otodaya) - Instagram
- ^ "いま「秋田の伝統芸能」が感動を呼んでいる…地域を盛り上げる「わっかフェス」が大反響になったワケ". 朝日新聞DIGITAL. 29 March 2023. 2023年10月21日閲覧。
- ^ a b 郷土芸能部 秋田県立男鹿海洋高等学校
- ^ 男鹿海洋 郷土芸能部 (@oga_kyougei) - Twitter
- ^ "「卒業後も続けたい」 男鹿海洋高生「なまはげ太鼓」披露 秋田". 毎日新聞. 27 November 2020. 2023年10月21日閲覧。
- ^ ONRFアーカイブ OGA NAMAHAGE ROCK FESTIVAL VOL.8
- ^ ラインナップ |ARABAKI ROCK FEST.20
- ^ 「大地」2018年7月号 p.12秋田なまはげ農業協同組合(2021年1月30日閲覧)
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