なまはげ
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2023/10/21 01:32 UTC 版)
概要
秋田県の男鹿半島(男鹿市)、および、その基部(山本郡三種町・潟上市)の一部において見られる伝統的な民俗行事。またはその行事を執り行う者の様相を指す。200年以上の歴史を有する。男鹿市などの調査によると、2012~2015年において市内148地区のうち約80地区でナマハゲ(なまはげ)行事がある[1]。「男鹿(おが)のナマハゲ」として、国の重要無形民俗文化財に指定されているほか、「来訪神:仮面・仮装の神々」の一つとしてユネスコの無形文化遺産に登録されている。異形の仮面をつけ、藁などで作った衣装をまとった「なまはげ」が、家々を巡って厄払いをしたり、怠け者を諭したりする。
男鹿市の真山神社では、なまはげが登場するなまはげ柴灯(せど)まつりを神事と位置付けている[2](#観光も参照)。
なまはげと同様の行事は日本各地に広く分布する。その中でも、特になまはげは、圧倒的な知名度を得て、秋田県の記号になるまでに至った。その訴求力の大きさから、秋田県の観光PRに用いられるのは勿論、秋田県に関連する私企業でもモチーフにされたり、秋田県関連の物販・飲食店でのオーナメントや余興の1つとされたりして、頻繁に用いられている。
開催時期の前倒し
江戸時代には太陰太陽暦:1月15日の小正月に開催されていたが、明治の改暦で、約1か月前倒しとなるグレゴリオ暦:1月15日の小正月に開催する例も見られるようになった。
第二次世界大戦後は更に2週間ほど前倒しされた、グレゴリオ暦の大晦日(12月31日)に行われている[3]。なお、太陰太陽暦の大晦日は、12月30日または12月29日である。
伝統的習俗の衰退と対応
家々を回る年中行事としてのなまはげを実施する集落は、かつては男鹿半島のほとんどだったが、少子高齢化の影響で、現在はほぼ半減している[4][5]。男鹿市の調査によると、2015年までの25年間に約35地区で行事が途絶えた[1]。
本来、地区の未婚の男性がなまはげを務めるのが習わしであるが、高齢化と地区の人口減により担い手の若者が減少、さらには帰省中の親族など地区外の者が務める例も見られるようになった[4][5]。男鹿市の双六地区では、なまはげ役を県内にある秋田大学や国際教養大学の外国人留学生も務めることがある[6]。また、なまはげの主な訪問先である子供がいる世帯が少子化により減少しているため、実施する動機の減退も見られる[4]。その他、年末年始に仕事があったり、旅行などで不在だったりと、住民の生活の変化もなまはげの衰退の要因になっている。なまはげは高校生でもできる。
対策として2012年度(平成24年度)より男鹿市は、なまはげを実施する町内会に補助金での助成を実施。同市内の148の町内会のうち同年度、6会はなまはげを再開したものの、半数近い71会は実施しなかった[5]。2015年度(平成27年度)も69会が実施しなかった[4]。
男鹿市の羽立駅前地区では2018年大晦日に、女性がなまはげに扮することが検討されたが、見送りとなった[7]。
「観光」化
男鹿半島には観光用に年中なまはげを体験できる施設「男鹿真山伝承館」がある。また、男鹿地区に限らず秋田県の観光・物産PR活動において歴史的な習わしを超えて活用されており、各地に常設・仮設を問わず立像も設置されるなど、秋田県を象徴する記号にもなっている。「なまはげは未婚男性」というしきたりがある地区出身の既婚男性が、観光行事でなまはげに扮するといった使い分けも行われている[1]。
観光客を楽しませる目的で、なまはげをモチーフとした新たな芸能も創作されている。昭和の高度経済成長期に見られた団体旅行を中心としたレジャーブーム期には「なまはげ踊り」が、平成初頭のバブル景気期にみられたリゾートブーム期には「なまはげ太鼓」が創作された。これらは季節性や地域性の枠を超え、秋田竿灯まつりや様々な物産展などへの参加に留まらず、単独公演も行っている。これらは旧来のなまはげとは異なり、「鬼」化した仮面を被っており、また、藁ではなく、破損しづらい毛糸や麻ひもで作った衣装を着て演舞を行う。
田舎風の飲食店等において、民俗芸能の道具を店内装飾に用いたり、従業員が民俗芸能を実施したりして、誘客につなげたり、客の満足度を上げる例が様々見られる。このようなビジネスモデルを踏襲した秋田県のご当地グルメや特産品をメニューにしている店では、なまはげのお面を店内装飾に用いたり、男女の従業員が「なまはげショー」を店のスケジュールで年中実施したりする例が、男鹿地方以外の秋田県内外でしばしば見られる。
「鬼」化
なまはげには角があるため、鬼であると誤解されることがあるが、鬼ではない[注 1]。なまはげは本来、鬼とは無縁の来訪神であったが[8][9]、近代化の過程で鬼と混同され、誤解が解けないまま鬼の一種に組み込まれ、変容してしまったという説がある[9]。浜田広介の児童文学『泣いた赤鬼』(1933年)のような、赤(ジジナマハゲ)と青(ババナマハゲ)の一対となっていることがあるが、そのような設定がいつ頃からあるのかは不明である
注釈
- ^ 鬼が妖怪であるのに対し、なまはげは神の一種であるため、全く異なる存在である。
出典
- ^ a b c 【記者の目】ナマハゲ ユネスコ無形文化遺産/観光と伝統 両立モデルに/秋田支局 川口峡『毎日新聞』朝刊2019年2月21日(2019年2月25日閲覧)。
- ^ 真山神社 特異神事(2019年3月16日閲覧)。
- ^ 小正月から節分の風習と神仏(Sai-Jiki 彩時記)
- ^ a b c d e 男鹿「なまはげ」担い手いねがぁ~ 実施町内会5割強に減(『河北新報』 2017年12月29日)
- ^ a b c なまはげ伝承に「黄信号」 少子高齢化で担い手不足(『日本経済新聞』2013年4月18日)
- ^ 「ナマハゲの継承に尽力 大切な文化、後世に」日本経済新聞ニュースサイト、2018年11月30日掲載の共同通信配信記事、2019年3月16日閲覧。
- ^ 「女性のナマハゲ、実現せず/抵抗強く、雰囲気を察し辞退」朝日新聞DIGITAL(2018年12月31日)2019年2月13日閲覧。
- ^ 大湯卓二・嶋田忠一「秋田の鬼」『東北の鬼』岩手出版、1989年。 NCID BN04047704。
- ^ a b 小松和彦『妖怪文化入門』角川書店、2012年、150-152頁。ISBN 978-4-04-408303-8。
- ^ 稲 1985, p. 36.
- ^ 稲 1985, p. 42.
- ^ 稲 1985, p. 45.
- ^ 内藤俊史1987「こどもの内在的正義の観念としつけ態度との関係---農村地域におけるケーススタディ」『社会心理学研究』3(1):29-38
- ^ 水木しげる『水木しげるの続・妖怪事典』東京堂出版、1984年、136頁。ISBN 978-4-490-10179-9。
- ^ 万造寺竜『旅の伝説玩具』旅行界発行所、1936年、75-77頁 。
- ^ 野添憲治、野口達二『秋田の伝説』角川書店〈日本の伝説〉、1976年、23-24頁。 NCID BN03653538。
- ^ 菅江真澄遊覧記(秋田県立図書館)
- ^ a b 男鹿のナマハゲ 重要無形民俗文化財(男鹿市教育委員会)
- ^ なまはげ柴灯まつり(男鹿市教育委員会「男鹿のナマハゲ 重要無形民俗文化財」)
- ^ a b なまはげ紫灯祭 NAMAHAGE FIRE FESTIVAL in OGA(秋田県「美しき水の郷あきた」)
- ^ 男鹿のナマハゲ(男鹿市)
- ^ 地域芸能としての創作太鼓 ―《みやぎ龍神太鼓》を事例として― (PDF) (『宮城学院女子大学 研究論文集』120号 2015年6月)
- ^ 男鹿真山伝承館 文化庁、2022年2月19日閲覧
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- ^ 平成27年度(第2回)秋田県道路メンテナンス会議 (PDF) (国土交通省東北地方整備局 2015年8月27日)
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- ^ 議事日程第1号 平成24年8月8日(水) (PDF) (男鹿市)
- ^ なまはげPR任せて 初の「伝導士」認定試験 男鹿(『河北新報』2004年11月4日)
- ^ a b 「わりぃ子はいねぇがー」巨大なまはげ現る(『朝日新聞』2007年5月24日)
- ^ 巨大なまはげ出迎え 観光案内所がオープン(『秋田魁新報』2007年6月2日)
- ^ “男鹿温泉エロなまはげ、女湯に乱入お触り”. 『日刊スポーツ新聞』 (日刊スポーツ新聞社). (2008年1月13日). オリジナルの2008年7月1日時点におけるアーカイブ。 2010年2月16日閲覧。
- ^ “なまはげ「原点回帰を」 秋田・男鹿市、セクハラで協議”. MSN産経ニュース (産経新聞). (2008年1月30日). オリジナルの2010年2月16日時点におけるアーカイブ。 2010年2月16日閲覧。
- ^ 百十体百十色。なまはげ館リニューアルオープンしました!(男鹿市観光協会 2013年3月31日)
- ^ 「来訪神行事保存・振興全国協議会」の設立について (PDF) (文化庁)
- ^ 「来訪神:仮面・仮装の神々」のユネスコ無形文化遺産代表一覧表への記載決定について(外務大臣談話)(外務省 2018年11月29日)
- ^ 「あなたもナマハゲ 男鹿市観光協会がツアー参加者募集」日本経済新聞ニュースサイト(2019年11月7日)2020年1月20日閲覧。
- ^ 「男鹿のなまはげ」秋田県公式サイト内
- ^ なまはげに関する基礎知識 Archived 2014年8月24日, at the Wayback Machine.
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- ^ 鹿島まつり(秋田県「美しき水の郷あきた」)
- ^ 若畑の鹿島様(秋田県「秋田県のがんばる農山漁村応援サイト」 2011年4月)
- ^ なまはげ立像(【男鹿市公認】秋田県男鹿の観光サイト「男鹿なび」)
- ^ おススメ観光コース (PDF) (男鹿市観光協会 2013年3月)
- ^ 男鹿駅前に男鹿のシンボル「なまはげ」の像を設置いたします (PDF) (東日本旅客鉄道 2012年10月9日)
- ^ "視覚と聴覚の衝撃「なまはげ太鼓」その音で伝えたいこと". 朝日新聞DIGITAL. 2 March 2023. 2023年10月21日閲覧。
- ^ 恩荷(おんが) なまはげ太鼓 秋田県男鹿
- ^ ONGA・恩荷 (@ONGA_ogaonsen) - Twitter
- ^ 五風なまはげ太鼓 秋田県 男鹿温泉郷
- ^ "若者引き留める「なまはげ太鼓」 秋田・男鹿温泉郷". 日本経済新聞. 26 October 2017. 2023年10月21日閲覧。
- ^ なまはげ郷神楽
- ^ 【公式】NAMAHAGE郷神楽 (@namahage_stkgr) - Twitter
- ^ "エビ中、アイドル初の「あきた美の国ガールズ」に就任". BARKS. ジャパンミュージックネットワーク株式会社. 20 October 2019. 2023年10月21日閲覧。
- ^ "なまはげ太鼓豪快に". 読売新聞オンライン. 31 December 2022. 2023年10月21日閲覧。
- ^ 音打屋-OTODAYA- 和太鼓ユニット (@otodaya) - Instagram
- ^ "いま「秋田の伝統芸能」が感動を呼んでいる…地域を盛り上げる「わっかフェス」が大反響になったワケ". 朝日新聞DIGITAL. 29 March 2023. 2023年10月21日閲覧。
- ^ a b 郷土芸能部 秋田県立男鹿海洋高等学校
- ^ 男鹿海洋 郷土芸能部 (@oga_kyougei) - Twitter
- ^ "「卒業後も続けたい」 男鹿海洋高生「なまはげ太鼓」披露 秋田". 毎日新聞. 27 November 2020. 2023年10月21日閲覧。
- ^ ONRFアーカイブ OGA NAMAHAGE ROCK FESTIVAL VOL.8
- ^ ラインナップ |ARABAKI ROCK FEST.20
- ^ 「大地」2018年7月号 p.12秋田なまはげ農業協同組合(2021年1月30日閲覧)
固有名詞の分類
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