【MiG-25】(みぐにじゅうご)
旧ソビエトのミコヤン・グレヴィチ設計局が開発した、高々度迎撃用の戦闘機。
NATOコードはFoxbat(フォックスバット)。
本機は当時、アメリカで開発が進められていた超高速爆撃機・XB-70「バルキリー」に危機感を抱いたソビエトがそれに対抗するため急遽、開発に着手されたものである。
XB-70の開発計画自体は後に中止されたものの、アメリカ軍はA-5「ビジランティ」やB-58「ハスラー」といった超音速爆撃機を実戦配備しており、そのような機体から自国を防衛するという目的で開発を続行、1972年に初配備された。
当時としては斬新な双垂直尾翼と大型双発のターボジェットエンジンを搭載し、高度6万フィートをマッハ3.2という戦闘機としては常識外れな速度で飛行する本機は西側諸国に大きな衝撃を与え、F-15などの戦闘機を開発させる契機ともなった。
配備以来秘密のベールに包まれていたが、1976年のベレンコ中尉亡命事件という意外な形でその詳細を知ることとなる。
本機が装備するツマンスキー「R-15BD-300」エンジンは高々度迎撃という任務のために上昇力・高々度性能のみを追求したため、ターボジェットというよりむしろラムジェットに近い低圧縮のエンジンで、高々度での燃焼効率に優れ、現在使用されている戦闘機用エンジンに引けはとらない。
しかし低空、低速域での燃焼効率は非常に劣悪で、航続距離も短く、エンジンの消耗も激しいため、頻繁にエンジンの交換が必要とされた。
機体材質にはマッハ3という高速時の摩擦熱のためアルミニウムは使えず、また当時高価で加工が難しく開発期間、生産数に支障の出るチタニウムも使えなかったためニッケル鋼を多用。そのため非常に機体が重くなっている。
それでも機体構造上マッハ3を出すのは困難であり、実用最大速度はマッハ2.83程度である。
高々度迎撃と言う目的からレーダーはRP-25「スメルシュ」(NATO名「フォックスファイヤー」)を装備。
80kmという最大探知距離を持ち、R-23/R-24(AA-7「エイペックス」)、R-40(AA-6「アクリッド」)などの中射程空対空ミサイルとセットで高い迎撃能力を誇った。
電子機器の構成部品に関しては、古典的な真空管を多用しているが、これには「半導体回路は、敵の爆撃機が核攻撃をおこなった場合に電磁パルスで焼損するおそれがあり、それを敬遠したため」という説がある。
また、真空管は故障の発見が極めて容易であり、前線における整備を期待しないソビエト式運用方法上の必要から採用されたという説もあった。
しかし実際のところ、開発に着手された1960年代当時、トランジスタの技術は世界的にまだ未熟で、大電流に耐えられるような製品は西側にもなく、レーダーに大出力を求めるにはこれしか選択肢がなかった、というのが実情である。
ところが、これによって本機の機載レーダーは600kwもの大出力を発揮でき、敵のジャミングを打ち破れる能力を得ることに成功し、電子戦においてきわめて有利になったという。
また本機は純粋な迎撃用のミサイリアーとして設計されており、ドッグファイトについては全く考慮されていないため、機関砲すら装備せず、運動性も皆無といって差し支えないほどであった。
これはまた、本機の設計コンセプトが「音速で展開可能な空飛ぶSAMサイト」を目指していた結果でもあり、本機とその後継であるMiG-31は西側の概念で言うところの「戦闘機」ではない。
本機はその高速性能を活かした偵察仕様などのバリエーションも生産され、ウクライナをはじめとする東側諸国にも相当数が輸出されたが、その燃費の悪さと航続距離の短さ、アビオニクスの旧式化などを理由にその役目を後継機のMiG-31に譲り、現在では大部分が一線を退いている。
1991年の湾岸戦争では、唯一F/A-18を撃墜し、2003年3月には、イラクでRQ-1「プレデター」無人偵察機と交戦し、これを撃墜する戦果を挙げた。
各国での保有数(2003年 推測)
スペックデータ
乗員 | 1名 |
全長 | 19.75m |
全高 | 6.10m |
翼幅 | 14.01m |
翼面積 | 61.40㎡ |
空虚重量 | 20,000kg |
最大離陸重量 | 41,000kg |
エンジン | ソユーズ・ツマンスキー R-15BD-300ターボジェット×2基 |
推力 | 73.5kN/7,500kg(通常)/110kN/11,200kg(A/B使用時) |
最高速度 | マッハ3.2 |
航続距離 | 940~1,280km(増槽使用、超音速巡航時) |
上昇率 | 50m/秒 |
海面上昇率 | 12,495m/min |
実用上昇限度 | 20,700m |
武装 | 固定武装なし、空対空ミサイルにR-40×4またはR-23/-24×2、R-60×2を搭載可能。 |
MiG-25の主な種類
- 原型機
- "フォックスバットA"
- "フォックスバットB"
- "フォックスバットC"
- "フォックスバットD"
- "フォックスバットE"
- "フォックスバットF"
MiG-25 (航空機)
(MiG25 から転送)
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2024/05/08 09:34 UTC 版)
- ^ E-155とも書かれる。
- ^ It cost far less than titanium and allowed for welding, along with heat resistant seals.The MiG-25 was constructed from 80% nickel steel alloy, 11% aluminium , and 9% titanium .The steel components were formed by a combination of spot-welding , automatic machine welding and hand arc welding methods.
- ^ 雑誌『航空情報』出典。
- ^ 『ミグ戦闘機―ソ連戦闘機の最新テクノロジー メカニックブックス』原書房から。
- ^ 機体を本格調査 防衛庁 部外者を排除『朝日新聞』1976年(昭和51年)9月25日夕刊、3版、11面
- ^ 自爆装置を一部外す『朝日新聞』1976年(昭和51年)9月21日朝刊、13版、3面
- ^ ニッケル鋼の比重はアルミニウム合金の3倍だが、強度も3倍なので使う鋼材の量は3分の1で済み、注意深く設計すればそこまで重い機体にはならない。また、機体をニッケル鋼にしたことでジュラルミンでは困難な溶接構造を用いることができた。そのため、リベット留のジュラルミン機体では機体の内側にシール材を手作業で塗布しなくてはならないのに対し、その作業が不要になり、手の入らない機体細部まで燃料タンクにすることができ、17,660 Lもの燃料搭載が可能となった。更なる溶接機体のメリットは、燃料タンクに亀裂が入って燃料漏れを起こしても、すぐさま破損箇所がわかる事。この機体の隅々まで収納された燃料が機体の熱を吸う事で空力加熱も抑えられた。弱点はニッケル鋼はアルミニウム合金に比べて弾性係数(ヤング率)が2.5倍から3倍高いので、機体が強度不足に陥る点。
- ^ F-15C Eagle vs MiG-23/25: Iraq 1991. Doug Dildy, Tom Cooper, Bloomsbury Publishing, 2016. P.35
- ^ Steve Davies. F-15C Eagle Units in Combat, с. 53.
- ^ 『週刊ワールドエアクラフト』2001/6/12号、P11より。
- ^ ラケーシュ・クリシュナン・シンハ (2016年9月29日). “ソ連中尉の日本亡命でMiGに恩恵”. ロシア・ビヨンド日本語版. 2021年7月23日閲覧。
- ^ Syria's MiG-25s fly again
- ^ Azerbaijan to modernize MiG-25 foxbats included in Air Forces’s inventory
- ^ “МАПО МиГ МиГ-25РБВ”. www.airwar.ru. 2023年5月27日閲覧。
- ^ Спирт (spirt: アルコール), Воз (Voz: 荷馬車) 。「エアコンバット DVD コレクション 超高速迎撃機フォックスバットのすべて」に、この愛称について言及している場面がある。ただし、このDVDは日本語音声と英語音声で収録されており、日本語音声では「スピルトヴォース」ではなく「スピオトフォズ」と発音している。一方、英語音声では「スピートフォーズ」と聞こえる。しかし本項では「ロシア語綴りに基づく日本語表記」を用いることとし、「スピルトヴォース」とした。
- ^ ラケーシュ・クリシュナン・シンハ (2016年9月29日). “How a Soviet pilot's defection showed West the secret MiG”. UPI通信社. 2021年8月11日閲覧。
- ^ 世界の傑作機『No..83』出典。
MiG-25
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2021/10/08 08:54 UTC 版)
旧ソ連の開発した迎撃戦闘機・偵察機。スチールを使用。マッハ3.4での飛行事例が確認されているが、機体の限界を超えたものであり、実際の運用上の最高速度はマッハ2.83。発展型のMiG-31については今のところ確認されていない。
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