Kar98k Kar98kの概要

Kar98k

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2023/05/05 02:09 UTC 版)

Karabiner 98 kurz (K98k)
Kar98k
Karabiner 98 kurz (K98k)
種類 軍用小銃
製造国  ナチス・ドイツ
(チェコスロバキアやポーランドなど、一部占領国でも生産)
設計・製造 マウザー(モーゼル)社他、総計8社10工場
年代 1935-1945
仕様
口径 7.92mm
銃身長 600mm
ライフリング 4条、右回り
使用弾薬 7.92x57mmモーゼル弾[1]
装弾数 5発
作動方式 ボルトアクション方式[1]
全長 1,100mm
重量 3.9kg(単材銃床
4.2kg(積層材銃床)[1]
銃口初速 760m/s
射程 500m
最大射程 1,000m(照準器装備の場合)
コストユニット 55ライヒスマルク
歴史 
製造数 14,600,000丁[2][3]
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ドイツ以外の国でも広く使用されたほか、第二次大戦後もドイツ(西ドイツ東ドイツ)を始め、各国で使用され続けた。現在でも儀仗銃として使われている。

概要

1943年にアメリカ陸軍が作成した鹵獲火器の取り扱いに関する教育映画の抜粋。Kar98kの基本的な取り扱いを実演している。

Kar98kは通称であり、当時の軍マニュアル等によれば正式名称はKarabiner98kで、略称はK98kである[5]Karabiner(カラビナー)は騎兵銃を意味し、98は母体のGew98が制式採用された1898年を示す。末尾のkはkurz(クルツ)、「短い」を意味し、全体として「1898年式の短型騎兵銃」たるを示している。アメリカカービン銃のカービンは、このカラビナーと同意である。騎兵は馬上射撃が求められるので、取回しのしやすさから短めの全長、また、背負った場合の安定性から負革が銃側面に存在すること等が、騎兵銃の形状の特徴となっている。これが転じて、後のドイツでは負革が銃側面に付く小銃をKarabinerと呼ぶことにもなっている。

 口径7.92mm、装弾数5発のボルトアクション式ライフルである。制式採用時点で、アメリカソビエト連邦等では半自動小銃の実用化が進められており、既に旧式化しつつあったが、命中精度や安全装置の設計に優れ、高い信頼性や生産性から1945年終戦まで生産が続けられた。生産は、開発者モーゼル社の二つの工場の他、国内複数の銃器メーカーと占領下の国外銃器工場まで動員して行われ、総生産数は1,100万丁を超える[6]

精度の高い個体は4~6倍程度の望遠照準鏡との組合せで狙撃銃としても威力を発揮し、戦争末期におけるドイツ狙撃兵は前進する連合国兵士の脅威となった[7]

系譜

Karabiner98a

Kar98a

Gew98の文字通りの騎兵銃型Kar98(Karabiner98)は、1900年頃から開発が開始された。当初の銃身長は435mmで反動や銃口炎などが不適であった[注釈 1]ため、1907年に完成した最終モデルの銃身長は590mmとなった。これはKar98AZ(Karabiner98 mit Aufpflanz- und Zusammensetzvorrichtung, 着剣・叉銃金具付き98年式騎兵銃)と呼ばれたが、後のヴァイマル時代に後述のKar98bと区別するためKar98a(Karabiner98a)と呼ばれるようになり[8]、今日に至っている。Kar98aの全長は、銃身長600mmであるKar98kとほぼ同じであり、側面の負革や曲げられたボルトハンドル等、似た特徴もある一方、銃口近くから機関部薬室付近まで覆う木被(銃身覆い)や特徴的な叉銃用金具等、異なる点も多く有していた[9][10][11]

Karabiner98b

Kar98kのボルトアクション部分

第一次世界大戦の敗戦と共にドイツにはヴェルサイユ条約により軍事的にも厳しい規制が課されることとなった。その下で新生ヴァイマル共和国陸軍(Reichsheer)は当初第一次世界大戦より残されたGew98やKar98を使用したが、銃器の経年劣化によるメンテナンス増に際して規格の統一化を図るため、1920年代初頭にGew98にいくつかの改良を加えてKar98b(Karabiner98b)として採用した。

Kar98bは銃身長がGew98と同じ740mmであったが、負革が側面に付けられたことからKarabinerと呼ばれた。またほとんどのKar98bは既存のGew98を改造したものであった[12][13][14]

モーゼル・スタンダードモデル1924

第一次世界大戦後、世界の主力小銃の中心はそれまでの長銃身から短銃身へと移りつつあった。1920年代前半にはチェコスロバキアやベルギーでは短銃身のモーゼル式小銃[注釈 2]を開発、多数を輸出するようになっていた。モーゼル社は、これに対抗すべく銃身長600mmのモーゼル・スタンダードモデル1924(Mauser Standard-Modell 1924)を開発した[注釈 3]。本銃は、まさにGew98の短銃身版というもので、銃身長や改良された照門を除き、銃下側の負革や直線状のボルトハンドル等はGew98と同様であった。

ヴェルサイユ条約の制約により、モーゼル社は本銃を未完成の部品として輸出し、スイスで組み立てを行った[15][16]

モーゼル・ドイツ郵政省用小銃

1933年、モーゼル社ではスタンダードモデルに更なる改良を施した。これが、社内記録に「ドイツ郵政省用小銃」(Gewehr für Deutsche Reichspost)として残るものである[注釈 4]。本銃は、郵政省の財産を強盗や暴動から守るという名目で発注された[注釈 5]が、実質的にはドイツ再軍備への下準備に他ならなかった。その外見は、木製ストックに指掛け用の溝があることや、リアバンドの固定金具の形状、機関部等の刻印が異なる以外はKar98kとほぼ同一であり、まさにその前身と言えるものであった[17][18]


注釈

  1. ^ この銃身長は、88年式実包(Patrone88)を使用する先行モデルのKar88と同じで、Gew98からより強力な7.92x57mmモーゼル弾を使用することとなったためこの問題が生じた(Götz (1990) pp.146-147)。
  2. ^ チェコではブルノ社製Vz24、ベルギーではFN社製M1924など
  3. ^ 実際に開発されたのは、1930年以降であるにも関わらず形式名に「1924」が用いられているのは、チェコやベルギーの製品を意識してのことと言われている(Karem & Steves (2012 I) p.151、Law (1993) p.6)。
  4. ^ このタイプは、コレクター間では通称「Mauser Banner」(Law(1993)p.8)または「Banner K」(Karem & Steves (2012 I) p.166)と呼ばれている。
  5. ^ 同タイプは郵政省の他、ドイツ国営鉄道ナチス突撃隊(SA)に関連する合計4つの警察・準軍事組織への供給が確認されている。(Karem & Steves (2012 I) p.166)
  6. ^ 初期のザウエル製Kar98kは、バンド固定金具がGew98同様に2部品に分かれており、1部品である制式型と異なることが特徴となっている。(Karem & Steves (2012 I) p.350)
  7. ^ エルマ社(Law (1993) p.179)やベルリン・リューベッカー社(Law (1993) p.197)など
  8. ^ ZF39マニュアルD134(Law (1996) pp.41-51)
  9. ^ マニュアルD136/2など(Law (1996) p.97)
  10. ^ 1944年12月7日付け(Law (1996) p.158)

出典

  1. ^ a b c German Infantry Weapons. United States War Department. (May 25, 1943). p. 23. https://archive.org/stream/GermanInfantryWeapons#page/n35/mode/2up 
  2. ^ a b K98k Mauser Page Archived 2007-03-29 at the Wayback Machine. Retrieved 28 March 2007.
  3. ^ French K98k and G40k Page—go to "sommaire" at the bottom of the page to use the index (フランス語) Archived 2008-02-02 at the Wayback Machine.
  4. ^ Klein, Christopher. “What and when did WWII end”. History.Com. 2020年11月26日閲覧。
  5. ^ Law (1993) pp.14-15
  6. ^ a b c Karem & Steves (2017 IIb) pp.902-910
  7. ^ Senich (1982) p.151,p.153に例示
  8. ^ Walter (1979) p.124
  9. ^ Götz (1990) pp.144-150
  10. ^ Karem & Steves (2012 I) pp.32-37
  11. ^ Walter (1979) pp.120-125
  12. ^ Götz (1990) pp.159-160
  13. ^ Karem & Steves (2012 I) pp.63-102
  14. ^ Walter (1979) pp.126-127
  15. ^ Karem & Steves (2012) pp.138-165
  16. ^ Law (1993) pp.5-7
  17. ^ Karem & Steves (2012 I) pp.166-191
  18. ^ Law (1993) pp.8-9
  19. ^ Karem & Steves (2012 I) p.199
  20. ^ Law (1993) p.14
  21. ^ Law (1993) pp.23-28
  22. ^ Karem & Steves (2017 IIb) p.825
  23. ^ Karem & Steves (2012 III) pp.42-55
  24. ^ Law (1993) pp.197-200
  25. ^ Karem & Steves (2012 III) p.65
  26. ^ Law (1993) p.228
  27. ^ Law (1996) pp.1-2
  28. ^ Law (1996) pp.69-72
  29. ^ Weaver (2001) p.221
  30. ^ Weaver (2001) p.106
  31. ^ Law (1996) pp.189-193
  32. ^ Karem & Steves (2017 IIb) p.654, p.691
  33. ^ Law (1993) pp.179-180
  34. ^ Law (1993) p.155
  35. ^ Karem & Steves (2017 IIa) pp.190-196
  36. ^ Law (1993) pp.185-186






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