国際化学オリンピック 大会組織とルール

国際化学オリンピック

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2024/04/18 00:38 UTC 版)

大会組織とルール

運営は、その年の主催国が議長を務める国際審議会や、運営委員会によって行われる。また、IChO国際情報センターは第一回大会が行われた、スロバキアブラティスラバにおかれている。

大会に初参加する場合には、本参加の前の2年間に、連続したオブザーバー参加が義務づけられている。

代表は1か国あたり、最大4人の選手と2人のオブザーバーが参加できる。各国ではそれぞれ選抜試験が行われ、選抜試験で優秀な成績を取ったものには優遇が与えられる場合もある。しかし、経済的な問題もあり1人のみを派遣することしかできない国もあるため、2008年大会から、そのような国に対し、毎年1万ドルずつ援助することになった。

開催には多額の費用がかかり、招致運動が活発ではなかったため、1999年大会から参加費を徴収するシステムに変わった[4]。また、参加費は年を追って100ドルずつ上昇し、その国で開催されると参加費は0ドルにリセットされるシステムとなっている(例として2011年のトルコ大会の各国の参加費リストでは、2010年に開催した日本はリセットされ100ドルに、2011年開催のトルコは0ドルになっている)。

試験

理論の部と実験の部がある。理論の部は5時間で5〜8問の大問を解く試験であり、実験の部は5時間で2〜3問の問題を解く試験である。

問題は事前に公開される運営委員会の定めたシラバス(理論・実験)の範囲から出題される。このシラバスは開催国の運営委員会が「国際レベルの高校化学教育」の内容とみなしたものである。試験問題は、試験前日に各国のメンターに配布され、翻訳作業が行われる。そのため、メンターと生徒は隔離され、連絡の取れないよう、生徒は携帯電話パーソナルコンピュータを持ち込んではならないことになっている。例として、2008年ハンガリー大会では、39の言語に翻訳されたが、ある国が生徒向けの印刷物に不正な書き込みをして、出場禁止1年間のペナルティとなった[5]

シラバスはレベル1、2、3に分かれており、レベル3の内容を出題する場合は、開催年の1月末に開催国により公開される準備問題(筆記問題25題以上、実験問題5題以上)に含まれている必要がある。

高校レベルの知識では全く太刀打ちできないが、過度な試験対策を防ぐため各国で選出された50人以下に対しては2週間以上の公式トレーニングを行ってはいけないとされている。

また、試験問題の中には、その国に関連した、いわゆる「ご当地問題」が出ることが多い。例として、2010年日本大会では、リチウムイオン電池や、フグのテトロドトキシンについての問題が出題され、2005年台湾大会ではアジア最大の鉱山があることから、の抽出に関する問題が、また2004年ドイツ大会では開催地のキールオットー・ディールス教授と弟子のクルト・アルダーが発見したディールス・アルダー反応に関する問題が出題された[6]

理論試験60 %、実験試験40 %の割合で計算した点数で順位がつき、上位から約1割に金メダル、次の約2割に銀メダル、その次の約3割に銅メダルが授与される。また、メダルのない者のうち、試験の大問を1つでも満点を取った者には敢闘賞が授与される。

開催歴

過去の開催

2010年現在、ヨーロッパで33回、アジアで6回、北米で2回、オセアニアで1回開催され、ヨーロッパ開催のうち21回が旧東欧諸国である[7]

開催次 開催国 都市 参加国 備考
1 1968年 チェコスロバキア プラハ 3か国
2 1969年 ポーランド カトヴィツェ 4か国
3 1970年 ハンガリー ブダペスト 7か国
- 1971年 - - - 開催国が決まらず、開催されなかった。
4 1972年 ソビエト連邦 モスクワ 7か国
5 1973年 ブルガリア ソフィア 7か国
6 1974年 ルーマニア ブカレスト 9か国 初めての西側諸国の参加
7 1975年 ハンガリー ヴェスプレーム 12か国
8 1976年 ドイツ民主共和国 ハレ 12か国
9 1977年 チェコスロバキア ブラティスラバ 12か国
10 1978年 ポーランド トルン 12か国
11 1979年 ソビエト連邦 レニングラード 11か国
12 1980年 オーストリア リンツ 13か国 初めての西側諸国での開催
13 1981年 ブルガリア ブルガス 14か国
14 1982年 スウェーデン ストックホルム 17か国
15 1983年 ルーマニア ティミショアラ 18か国
16 1984年 西ドイツ フランクフルト 21か国
17 1985年 チェコスロバキア ブラティスラバ 22か国
18 1986年 オランダ ライデン 23か国
19 1987年 ハンガリー ヴェスプレーム 26か国
20 1988年 フィンランド エスポー 29か国
21 1989年 ドイツ民主共和国 ハレ 26か国
22 1990年 フランス パリ 28か国
23 1991年 ポーランド ルージ 30か国
24 1992年 アメリカ合衆国 ピッツバーグ
ワシントンD.C.
33か国
25 1993年 イタリア ペルージャ 38か国
26 1994年 ノルウェー オスロ 39か国
27 1995年 中国 北京 42か国
28 1996年 ロシア連邦 モスクワ 45か国
29 1997年 カナダ モントリオール 47か国
30 1998年 オーストラリア メルボルン 47か国 日本第一次オブザーバー派遣
31 1999年 タイ バンコク 52か国 日本第二次オブザーバー派遣
第一回全国高校化学グランプリ開催
32 2000年 デンマーク コペンハーゲン 53か国
33 2001年 インド ムンバイ 54か国
34 2002年 オランダ フローニンゲン 57か国 日本第三次オブザーバー派遣
35 2003年 ギリシア アテネ 59か国 日本初参加
36 2004年 ドイツ キール 61か国
37 2005年 台湾 台北 59か国
38 2006年 韓国 慶山 67か国
39 2007年 ロシア連邦 モスクワ 66か国
40 2008年 ハンガリー ブダペスト 66か国
41 2009年 イギリス ケンブリッジ 64か国
42 2010年 日本 東京 68か国
43 2011年 トルコ アンカラ 70か国
44 2012年 アメリカ ワシントンD.C. 72か国
45 2013年 ロシア連邦 モスクワ 73か国
46 2014年 ベトナム ハノイ 75か国
47 2015年 アゼルバイジャン バクー 75か国
48 2016年 ジョージア トビリシ 67か国
49 2017年 タイ ナコーンパトム 76か国
50 2018年 チェコスロバキア ブラティスラヴァプラハ 76か国
51 2019年 フランス パリ 80か国
52 2020年 トルコ イスタンブール 60か国 オンライン開催
53 2021年 日本 大阪府 79か国 オンライン開催
54 2022年 中華人民共和国 天津市 84か国 オンライン開催
55 2023年 スイス チューリッヒ 90か国
56 2024年 サウジアラビア リヤド
57 2025年 アラブ首長国連邦
58 2026年 ウズベキスタン

2010年の日本大会

国際化学オリンピックは、2010年に初めて、日本で開催された。前年の国際生物学オリンピック大会に続き、2年連続で国際科学オリンピックが同国で開催されるのは初めてのことである。開催期間は2010年7月19日~28日で、過去最高の68の国と地域が参加し、選手は267名、メンター等を併せると約500人が参加した。

準備問題では、火山ガス組成の定量分析やウルシオールの構造研究など、いわゆる「ご当地問題」が出題された。本試験の理論問題では、日本で発達したリチウムイオン電池や、フグのテトロドトキシンについての「ご当地問題」が出題された。

大会テーマは Chemistry:the key to our future で、ロゴマークは、化学のイメージを丸底フラスコで表し、桜の花で日本を象徴した上で、五輪と同じ配色でオリンピックを表し、一筆書きで繋がる造形で平和の大会を表したものとなっている[8]。大会の周知のため、前年から「化学実験カー」や「公式グッズ販売」など多くのプレイベントが行われた。

大会会場は早稲田大学東京大学で、実験試験と閉会式は早稲田大学西早稲田キャンパスで、筆記試験は東京大学駒場キャンパスで行われた。選手は代々木の国立オリンピック記念青少年総合センターに宿泊し、引率者は選手村と隔離された幕張の海外職業訓練の研修施設に宿泊した[9]

エクスカーションでは、東京タワー浅草鎌倉日光への訪問や、茶道、折り紙、書道、着付けなどの日本文化の体験などが行われた。以下がスケジュール表である[10]

日本代表の結果は、金メダル4個というもので、日本としては過去最高の記録をだした。


  1. ^ エクスカーションとは? - 国土交通省中部地方整備局”. 2020年1月8日閲覧。
  2. ^ 渡辺正監修 『化学オリンピック完全ガイド』 化学オリンピック日本委員会編、化学同人、2008年、15頁
  3. ^ 上野幸彦・菅原義之・本間敬之・森敦紀、米澤宣行著『完全攻略 化学オリンピック』化学オリンピック日本委員会+渡辺正編、日本評論社、2009年、202頁
  4. ^ 渡辺正監修 『化学オリンピック完全ガイド』 化学オリンピック日本委員会編、化学同人、2008年、18-19頁
  5. ^ 上野幸彦・菅原義之・本間敬之・森敦紀、米澤宣行著『完全攻略 化学オリンピック』化学オリンピック日本委員会+渡辺正編、日本評論社、2009年、4頁
  6. ^ 渡辺正監修 『化学オリンピック完全ガイド』 化学オリンピック日本委員会編、化学同人、2008年、36頁
  7. ^ 上野幸彦・菅原義之・本間敬之・森敦紀、米澤宣行著『完全攻略 化学オリンピック』化学オリンピック日本委員会+渡辺正編、日本評論社、2009年、198頁
  8. ^ IChO日本大会 ロゴマーク
  9. ^ 伊藤雄二・沼田治・渡辺正 「座談会 現場が語る 科学のオリンピック」『化学』65号、化学同人、2010年、13頁
  10. ^ IChO日本大会 スケジュール
  11. ^ 渡辺正監修 『化学オリンピック完全ガイド』 化学オリンピック日本委員会編、化学同人、2008年、13-14頁
  12. ^ 『化学』編集部「特集 まもなく開催!!国際化学オリンピック 歴代の日本代表メンバー」『化学』65号、化学同人、2010年、19頁


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