比較制度分析
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2024/05/02 22:52 UTC 版)
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比較制度分析(ひかくせいどぶんせき、英: Comparative Institutional Analysis、CIA)とは、同じ資本主義の経済体制であっても、どのような制度配置がその中で成立しているかによって、多様な資本主義があり得るという現実を認め、そうした現実が生成する過程と変化する過程とを、ゲーム理論などのミクロ経済学の手法によって説明する経済学の手法と領域である。
日本とアメリカの企業組織の比較制度分析
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20世紀後半の日本的企業組織とアメリカ的企業組織とは、非常に異なるといわれる[誰?]。日本の企業では、すべての従業員が、企業全体に関する情報をかなりの程度共有しており、そうした知識に基づいて、違う部署に直接影響するような意思決定をも従業員が行ったり、他の部署の仕事を援助したりするが、アメリカの企業では、従業員は自分が属する部署についての専門的知識だけを持ち、他の部署に影響するような意思決定は許されず、企業全体に関する意思決定は、階層組織の上部の部門が行うといった特徴があるといわれる[誰?]。
比較制度分析の創始者の一人である青木昌彦は、こうした企業内コーディネーションの型の違いを捉えて、前者を情報共有型、後者を情報分散型と呼んだ[要出典]そして、企業内のコーディネーションが重要で、個別部門に関わる情報の不確実性が小さい組立型機械産業などでは情報共有型が有利であるのに対し、企業内の資源の競合が重要で、個別部門に関わる情報の不確実性が大きいマルチメディア産業などでは情報分散型が有利であると位置づけた。
コーディネーションの型の違いに対応して、それに適した労働者の技能の型も異なる。情報共有型には、企業内部の文脈において情報共有を有効に行う文脈的技能が適しており、情報分散型には、特定の情報処理に特化し、企業を超えて通用可能な機能的技能が適している。[要出典]
1つの社会に、両方の方の産業が存在する場合、それぞれに適した両方の技能形成が行われることが効率的であるにもかかわらず、どの技能形成を行った個人がそれぞれの産業であって企業を形成するかが確実でない場合には、初めにたまたま多数をなしていた技能形成が、社会全体にあまねく普及するといったことが起こり得る。このことを青木は、進化ゲームの理論を使って説明した。[要出典]
情報共有型のコーディネーションと文脈的技能形成とは補完的で、必ずしもそれが適していない産業であっても、1つの社会全体でそれが支配的となると、他の終身雇用制とか年功序列賃金といった、それとやはり補完的な制度も定着し、相互に補完的な諸制度の束が経済システムを形作ることになる。補完的諸制度からなるがゆえに、経済システムの変革が困難であるという見方も、比較制度分析から出てくる。[要出典]
参考文献
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- 青木昌彦、奥野正寛編著、経済システムの比較制度分析、1996。
比較制度分析
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/06/10 17:01 UTC 版)
詳細は「比較制度分析」を参照 1980年代における日本人経済学者の特筆すべき貢献として、スタンフォード大学教授青木昌彦の研究が挙げられる。青木は1980年代に発表された一群の研究において非協力ゲームの枠組みを用いて制度の多様性を分析し、比較制度分析(英: comparative institutional analysis, CIA)と呼ばれる学問領域を創始した。1980年代以降に比較制度分析が急速に発展した背景として、当時の世界経済の制度関連的な大きな変動が挙げられる。1980年代までには一般的であった「アメリカ経済の凋落と日本経済の勃興」という図式が1990年代に逆転したことによってその背景にアメリカ経済と日本経済の制度的相違が存在することが意識されるようになり、同時にいかにして複雑な経済制度を変革するべきかという問題が生じたことが挙げられる。これら一群の研究は、Toward a Comparative Institutional Analysisとして2001年に出版されたが、1997年にその草稿が一部の経済学を中心にサーキィレートされており、1998年3月には国際シュンペーター学会よりシュンペーター賞を受賞している。1990年には青木、ポール・ミルグロム、アブナー・グライフ、チェン・インイー、ジョン・リトバックらによってスタンフォード大学経済学部に「比較制度分析」という講座が立ち上げられ、比較制度分析研究の拠点となった。また青木は、世界銀行経済開発研究所(現在の世界銀行研究所)のプロジェクトとして「開発経済および転換経済における銀行(メインバンク)の役割」、「移行経済におけるコーポレート・ガバナンス」、「東アジアの経済開発における政府に役割」、「経済開発における共同体と市場」といったプロジェクトが行われた。これらのプロジェクトには14カ国から62人の研究者が参加している。 他の制度研究と比較した際の比較制度分析の特徴として、『比較制度分析に向けて』の訳者である瀧澤弘和と谷口和弘は次の3点を挙げている。すなわち、第一に、制度を共有予想の自己維持的システムとして、あくまでゲームの均衡として捉える立場であり、第二に、経済組織をインセンティブ理論のみから見るではなく情報システムとしての性格付けをも重視する観点であり、第三に、制度配置の多様性とダイナミックスを把握する上で制度的補完性のみならずゲームの連結を強調する観点である。特に、第二の観点からは、物的資産に対する所有権配置を強調する不完備契約理論の立場も相対化されることになり、シリコンバレーなどに見られるタスク間の補完性を削減することによって経済活動のより効率的な配置が実現されているような今日的現象も理解可能となる。
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