ショパン:2つのノクターン (第13・14番)
英語表記/番号 | 出版情報 | |
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ショパン:2つのノクターン (第13・14番) | 2 Nocturnes (c:/fis:) Op.48 CT120-121 | 作曲年: 1841年 出版年: 1841年 初版出版地/出版社: Paris 献呈先: Laure Duperté |
作品解説
Deux Nocturnes Op.48
この二曲のノクターンの作曲時期は研究者によって見解が異なるが、1840年か41年に作曲され、初版はパリ(M. Schlesinger, 1841)、ライプツィヒ(Breitkopf und Hartel, 1842)、ロンドン(Wessel & Stapleton, 1842)で出版された。弟子のロール・デュペレ嬢に献呈。自筆譜は見つかっていない。二作ともオペラの影響を色濃く反映した傑作である。
第13番 ハ短調
本作は、劇場のオーケストラを思わせるシンフォニックな書法を導入し、オペラ的効果を狙っている点で他のノクターンとは異なっている。
全体は複縦線仕切られた、性格を異にする3部分(以下A, B, A’)からなる。最初の主題は、大きく跳躍する左手の和音によって、バスと中声部の和音を豊かに響かせている。この伴奏音型は、後の作品55-1(15番)、作品62-2にも見られる後期ノクターンに特有の書法であり、ショパンは交響的な効果をピアノで追究している。これには、豊か低音が得られるようになった当時の楽器の特性とも関係があるだろう。A部の音域はほぼソプラノの音域と一致しており、A部の終わり(第21小節)で歌はクライマックスを迎えC音に達する。
ハ長調のBでは静かなコラールとダイナミックなオクターヴの連続が対照的である。A’では冒頭の「歌」が再び現れるが、今度は和音連打と左手の重音による分散和音で伴奏される。この種の和音連打はしばしばオーケストラのトレモロによる弦楽伴奏をピアノで表現するときによく用いられた書法である。ここでも、他のノクターンとは違って、右手の「歌」は決してc音を越えることはない。つまり、右手の旋律は、一貫してソプラノ歌手をイメージして書かれていると考えられるのだ。
Bで聴かれるコラールは、作品15-3(第6番)、作品37-1(第11番)でも用いられたが、Aの静かなソプラノ独唱、A’の情熱的なフィナーレの間では、宗教的・瞑想的な雰囲気が特に際立つ。書法、ドラマ性という点から見て、このノクターンは、3つの情景からなるピアノのためのオペラとみなすこともできよう。
第14番 嬰ヘ短調
第2番も第1番同様に3部分(以下A, B, A’)からなり、オペラ的特色が顕著である。嬰ヘ長調、嬰ヘ短調、嬰ハ長調ともつかぬ短い導入のあと、ギターの爪弾きを連想させる左手の音型にのってセレナード風の旋律が奏でられる。主題は例によって繰り返され、その際にオクターヴや装飾が加えられて変奏される。
セレナードが終わると「モルト・ピウ・レント」と記された変イ長調のBに入る。ここで5連符と6連符によって表現されるレチタティーヴォ風の音型が導入される。このような扱いは、ショパンのノクターンにおいて他に例を見ない。「レチタティーヴォ」担うのは、音域的にテノールであろう。ショパンは実際、彼のお気に入りの弟子で友人だったA.グートマンにレッスンをつけているとき、この中間部を「レチタティーヴォのように弾きなさい」と述べ、さらに「暴君が命令を下し(これが最初にある二つの和音の意味であった)、相手はお慈悲を乞うているのです」 と言ったという。これはグートマンの証言である。
さて、A’ では再び冒頭のセレナード風の旋律が戻ってくるが、コーダでは半音階進行の和声が旋律を下方へと追いやり、「セレナード」の最低音cisにまで追いやる。そうかと思うと、最後の2小節で最高音のaisまで一気に駆け上り、嬰へ長調で曲を閉じる。
¹ ジャン=ジャック・エーゲルディンゲル『弟子から見たショパン―その教育法と演奏美学』(Jean-Jacques Eigerdinger. Chopin vu par ses eleves, 3rd edition, Neuchatel, 1988)、米谷治郎、中島弘二訳、東京:音楽之友社、2005年。
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