1871年ドイツ統一をめぐる問題
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「国民国家」の記事における「1871年ドイツ統一をめぐる問題」の解説
詳細は「ドイツ統一」を参照 19世紀後半のドイツ統一は、一般的には、プロイセン王国の宰相オットー・フォン・ビスマルクによって進められ、1871年のプロイセンを中心とするドイツ帝国(ドイツ国)という国民国家の成立で達成されたと理解される。しかし、実際のドイツ帝国は、領域内の全住民をひとつのまとまった構成員として統合する国家という上述の定義からは程遠いものであった。 ドイツ統一へ向けた議論は、1848年のフランクフルト国民議会で本格化した。この時期のドイツは、オーストリア帝国とプロイセン王国の二大邦国をはじめ39の独立領邦がドイツ連邦という国家連合を構成し、各自の国家主権を保持したまま相互の安全保障を図っていた。議会では「ドイツ人とは何か」「どこまでをドイツとするか」という問題をめぐって紛糾した。前者においては、 地縁(ドイツに住む人) 言語(ドイツ語を話す人) 血縁(ドイツ人的血縁をもつ人) が考えられたが、実際にはこれらが重ならないことも多かった。プロイセンやオーストリアには言語・血縁において「非ドイツ人」も多かった一方、ドイツの領域外にも東方植民などによって多数の「ドイツ人」が居住していたからである。 後者においては、「小ドイツ主義」、「大ドイツ主義」、そして「中欧主義」という3種類の統一構想が用意された。小ドイツ主義はオーストリアを除外したプロイセン中心の案であり、大ドイツ主義ではオーストリアの「ドイツ的部分」のみを含めた統一、中欧主義では「非ドイツ人」も含めたオーストリア・プロイセン・ドイツ諸邦を包摂する統一を意味するものであった。フランクフルト議会では当初「大ドイツ主義」が優勢であったが、オーストリアは、その内部のドイツ的部分・非ドイツ的部分を問わないオーストリア帝国の単一・不可分を主張する「一体性宣言」を発したことで「大ドイツ主義」が動揺し、激しい議論の結果、「小ドイツ主義」方式が採用されることとなった。しかし、統一ドイツの世襲皇帝に選出されたプロイセン王フリードリヒ・ヴィルヘルム4世は、1849年、「議会の恩恵による」帝位に就くことを拒否して、ドイツ統一憲法(「パウロ教会憲法」)は宙に浮いて統一実現には至らなかった。 結局、ドイツ統一はビスマルクの誘発した普墺戦争(1866年)と普仏戦争(1870年-1871年)によって成し遂げられた。それは「小ドイツ主義」的ではあったが「大プロイセン」的な性格をもっていた。この過程で、ビスマルクはバイエルン王国のルートヴィヒ2世を買収している。このように強引な形で完成した「国民国家・ドイツ」は、オーストリアに1,000万人を越えるドイツ人を残す一方、普墺・普仏戦争によって獲得した南部シュレースヴィヒ(英語版) (旧シュレースヴィヒ公国領)やエルザス=ロートリンゲン(旧フランス領)などには「非ドイツ人」を多数かかえる国家となった。 歪な形で成立した「国民国家」における未解決の諸問題は、新たな問題の火種となった。エルザス=ロートリンゲンをめぐってはフランスとの対立が繰り返され、第一次世界大戦後に顕在化した旧オーストリア領のドイツ人問題はアドルフ・ヒトラーに独墺合邦及びズデーテン併合の野望を抱かせた。「非ドイツ人」問題は、周辺諸国との国境問題や国内での民族問題につながったが、その最たるものがナチス・ドイツ(ヒトラー政権)によるユダヤ人大量虐殺(ホロコースト)である。 一方、第一次大戦後もドイツ領にとどまったシレジア(シュレージエン)では、ドイツ系住民によるポーランド系住民の迫害が起こり、従来、ドイツ帝国への帰属意識の強かったポーランド系住民の間にも民族意識が高まって、シレジアのポーランド(ポーランド第二共和国)への併合を求めるシレジア蜂起が数回にわたって起こっている。 「国民国家」は、国民の同質性を前提として統合されたが、「国民」という均質で固定された純粋な存在を意識的につくりだしていく一方、他面では雑種的でしかありえない文化や言語、そこからはみ出てしまう社会的少数者に対して抑圧的、排他的な現実をつくり出した。この現象は、決してドイツに限った話ではない。「国民国家」の大義は、先住民族や少数民族の権利と衝突することが多いのである。20世紀前半は、世界各地において、国民国家に潜在化していた矛盾や隠蔽してきた諸問題が、特に際立って露呈した時代であった。
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