黒ノート
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「マルティン・ハイデッガー」の記事における「黒ノート」の解説
詳細は「黒ノート(ドイツ語版)」を参照 2013年12月、ヴィットリオ・クロスターマン社全集94-96巻に掲載されたハイデッガーが1930年代から1970年代にかけて書き続けた手稿「黒ノート」に反ユダヤ主義についての箇所があることが問題となった。2013年12月5日、ジャーナリストのニコラ・ヴェイユがル・モンド・ブログで黒ノートについて論評を発表した。12月7日、アラン・フィンケルクロートもラジオ・フランスで論評。12月27日、全集94-96巻を編纂したベルク大学ヴッパータール教授でマルティン・ハイデッガー研究所所長ペーター・トラヴニ−がZeit誌に"Eine neue Dimension"を発表。2014年、手稿「黒ノート」が掲載された全集94-96巻が刊行された。2015年ペーター・トラヴニーは『ハイデッガーと世界ユダヤ組織の神話』において、黒ノートにおける「存在史的反ユダヤ主義」はもはやハイデッガーの政治的過誤といったことで片付けることはできないし、ハイデッガーの哲学に絡みついたものである、ただし、ナチスの反ユダヤ主義とは異なると述べている。 ハイデッガーの手稿には、「現在、ユダヤ教(ユダヤ主義)が権力のなかで増大していることは、西洋形而上学が、特に近代の展開において、空虚な合理性と計算能力が拡大していことをもたらしたからである」「帝国主義のフランチャイズ(営業権)の分配という点でイギリスとの合意も、イギリスが現在アメリカ主義とボルシェヴィズム、つまり世界ユダヤ教(Weltjudentum)の中で終わらせようとしている歴史的過程の本質に至るものではない。世界ユダヤ教の役割について問うことは人種的なものでなく、ある種の人間性についての形而上学的な問いである。それは、すべての存在者から存在を根こそぎにすることを世界史的な務めとしている」「世界ユダヤ教は、ドイツからの移民によって駆り立てられており、至る所でつかまえどころがない。世界ユダヤ主義の権力拡大においては、軍事行為で交戦する必要はないのに、ところが、われわれ人民の最良の人々の最良の血の犠牲が後に残っている」「工作の力においては、神の喪失さえも根絶やしにされ、人間は動物へとヒューマニゼーション(人間化)し、大地は搾取的に利用され、世界は割り当てられる。これはもはや最終段階に入っており、人々、国家、文化はファサード(外見)になっている。」「キリスト教西洋の時間空間、すなわち形而上学の時間空間においては、ユダヤ人は分解の原理である。すなわちそれは形而上学の完了を逆転させることにおいて分解的である。マルクスがヘーゲルの形而上学を逆転させたように。精神と文化は、‘生’、すなわち、経済、生物学上の人民の組織の上部構造となる。」という文がある。ペーター・トラヴニ−はハイデッガーが、第一次世界大戦後のドイツの反ユダヤ主義の形成に影響を及ぼしたシオン賢者の議定書を読んだかどうか、この文書に賛同したかどうかは曖昧だが、ヤスパースに対して「しかし、ユダヤ人による危険な国際連合がある」と述べていることから、ヒトラーとも共通する視座を持っていたと論じた。この「黒ノート」についてジャン=リュック・ナンシーはハイデッガーが反ユダヤ主義に加担したことは1950年代から知られていたし、ハイデッガーの限界とは我々の限界でもあると論じた。
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