麻原への死刑判決、控訴趣意書の提出遅延問題
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「オウム真理教の歴史」の記事における「麻原への死刑判決、控訴趣意書の提出遅延問題」の解説
2004年(平成16年)2月27日、東京地方裁判所は麻原彰晃に死刑判決を言い渡した。国選弁護団は即日控訴し、辞任した。高裁は2005年1月11日を控訴趣意書の提出期限とした。この日、麻原は拘置所で「なぜなんだ、ちくしょう」と叫んだり、夜間に布団の中で「うん、うん」とうなったり、笑うなどした。 2004年4月、新たに私選弁護人松井武と松下明夫の2人がついたが、麻原は長く面会拒否し、7月の初面会でも意思疎通ができなかった。2004年10月28日、弁護人は、精神鑑定申立および1回目の公判停止の申立(刑訴法314条)を行うが、 高裁は12月20日に斥ける。 2005年1月、控訴趣意書の提出期限が、2005年8月31日まで延長することが認められる。2005年7月、弁護人は医師の意見書を添付して第2回目の公判手続停止の申立を行うが、2005年8月19日に高裁は斥ける。しかし、高裁は、弁護側が提出した精神科医の意見書での「長期の拘禁による意志の障害で、心神喪失状態」との指摘を配慮し、精神鑑定の実施を伝えた。 ところが、提出期限の2005年8月31日、弁護側は控訴趣意書を持参したが、精神鑑定の立ち合いや鑑定人尋問に関する申し入れが拒否されたためとして提出しなかった。9月2日、東京高裁は控訴趣意書の即時提出を弁護団に要請した。 2005年9月、東京高裁は、精神科医西山詮医師に鑑定を依頼する。同年12月10日、東京高裁の裁判官が、麻原と面会する。他方、2006年(平成18年)1月-2月、弁護団は独自に鑑定を実施、野田正彰などの精神科医は麻原の訴訟能力を疑問視した。 2006年2月20日に東京高裁に提出された西山鑑定書によれば、麻原は1996年10月の井上嘉浩への尋問中止を試みたが失敗し、拘置所で泣き叫び、チーズを壁に投げつけ、朝まで独り言を言うなどしたが、これは「裁判上の危機に直面して現れた興奮状態」で、「精神病的要素はなく、強い幻滅や怒りによるもので、利害を熟慮している」、1997年3月ごろからの麻原の空想話や独り言、自殺願望や奇行については「自分の公判では不規則発言を繰り返すが、元弟子の公判での証言は多弁。立場によって使い分けて」おり、精神病の兆候ではなく、1997年7月以降は独房での独り言以外には言葉を発しなくなったが、2004年2月の死刑判決の後に錯乱したり、10月には野球の投球フォームをして「甲子園の優勝投手だ」と話したり、食事は介助を受けていないことから、「意思発動に偏りがあるのは不自然で、沈黙は裁判からの逃避願望で説明できる。黙秘で戦うのが96年以降の被告の決心」で、訴訟能力はあると結論づけた。高裁はこの鑑定書への意見書の提出を2006年3月15日までとした。 弁護側は反論書を2006年3月15日に提出、3月21日には高裁に3月28日に控訴趣意書を提出すると伝える。しかし高裁は、前日の3月27日に控訴棄却を決定。 弁護人は、翌日に控訴趣意書を提出し、3月30日には控訴棄却に対する異議申立を行うが、高裁は5月29日に異議申立を棄却する。 弁護側は、麻原の訴訟能力が無く、控訴趣意書の提出遅れは「やむを得ない事情」があったとして最高裁へ特別抗告を行ったが、2006年9月15日、最高裁は、西山鑑定書の信用性は十分で、原審の判断は正当で、弁護団は控訴趣意書を作成したと明言しながらも再三にわたる提出勧告に反し提出せず、弁護人と申立人(麻原)との意思疎通不能は遅延の正当な理由とはならない、と棄却した。これにより、控訴審が実施されないことが確定した。 法学者白取祐司は、2006年3月28日に提出された控訴趣意書は、松本被告の訴訟無能力公判手続を停止しなかった原審に手続違背があり、事実誤認があることのみを主張する4頁ほどの分量にすぎず、準備が不足していた。被告人との意思疎通が困難であっても、控訴審を開かせ、被告の訴訟無能力や受刑能力、1審で争われた論点について争うべきだったと批判した。 滝本太郎弁護士は、2005年8月の控訴趣意書未提出について、刑事訴訟法386条では「期間内に控訴趣意書を差し出さないときは、決定で棄却しなければならない」とあり、「ここで提出していれば、なんの問題もなく2審は始まっていた」、これはチキンゲームだったと述べる。 二審弁護人らは、日弁連から「控訴趣意書を長期間提出せず、死刑という重大判決を確定させ、被告の裁判を受ける権利を失わせた」と懲戒(戒告)処分を受けた。
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