遺志を継いだ子供たち
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2021/01/03 02:41 UTC 版)
「イクバル・マシー」の記事における「遺志を継いだ子供たち」の解説
イクバルが埋葬された際に、同様に児童労働を強いられていた少女が、イクバルの墓のそばで「イクバルが死んだ日、千人のイクバルが誕生したわ」と語ったという。その言葉の通り、イクバルの遺志は多くの同年代の子供たちに受け継がれている。 イクバルの葬儀の後、ラホールでは子供たちを中心とした3千人以上もの人々によるデモ活動が行われ、亡きイクバルのために、児童労働を終わらせることを訴えた。 イクバルが生前に訪れていたスウェーデンでは、パキスタンのベーナズィール・ブットー首相が同国の首都ストックホルムを訪問した際、パキスタン大使館の前に職員たちが驚くほどの小学生たちが集まり、児童労働に抗議し、輸出品が子供たちによって作られたものでないことを証明してほしいと訴えた。またイクバルが同国で交流したフレドリックスダールスコーラン学校では、彼の死後も生徒たちが「プロジェクト・パキスタン」という標題を掲げ、児童労働禁止のための運動を行っている。 アメリカのブロード・メドウズ中学校では、子供には労働よりも教育が大切とのイクバルの主張のもと、パキスタンに学校を新設するために運動が開始された。 涙がこぼれそうになるのに気がついて、こらえようとしたけれど、こらえきれませんでした。ぼくは学校で、手紙と絵でこの気持ちを表現してみました。イクバルの死に関する調査や、パキスタンの子どもたちの学校を建てるのに役に立てられればいいと思います。 — ディディエ・アルサー(ブロード・メドウズ校の生徒)、クークリン 2012, pp. 176-177より引用。 わたしたち、イクバルと約束したわ。最後まで戦って、子どもたちを自由にするって。助けてくれるイクバルはもういないけど…… 何かほんとうに大きなことに挑戦しなければいけないんじゃないかしら。イクバルが死んでしまった今だからこそ。 — カレン・マリン(ブロード・メドウズ校の生徒)、クークリン 2012, p. 179より引用。 この運動にはアメリカ中の多くの学校が賛同し、当時の上院議員であったエドワード・ケネディが運動を支持したこともあって、2年間の内にアメリカ全州と世界27か国、全3000の学校がこの運動に加わり、13万ドル以上の寄付金が集まった。その寄付者の中にはジェイミー・リー・カーティスやトゥルーディ・スタイラー(英語版)といった著名人の名もあり、マイケル・スタイプやエアロスミスといった有名芸能人たちも彼らを応援した。やがてイクバルの故郷パンジャーブ州で高評価を受けている人権保護団体スダールにより、同州のカスール県(英語版)に「イクバルの学校」が設立された。学校へ通う子供たちは今なお労働せざるを得ない生活を送っているが、工場から通学を許可されており、労働で汚れた服装のままで通学することのないよう仕事場にシャワーが取り付けられるなど、学校設立の運動は雇用側に対しても、少しずつではあるが影響を及ぼしている。この功績によりブロード・メドウズ中学校は1995年に、イクバルと同じリーボック人権賞(英語版)の「行動する若者賞」を受賞した。 その後、ブロード・メドウズ中学校は「イクバルの学校」の運営をスダールに引き継ぎ、1999年にはアメリカの他の各校と共に新たに「オペレーション・デイズ・ワークUSA(Operation Day's Work-USA)」という運動を立ち上げ、世界中の児童労働者を解放するため、世界各国のNGOに寄付活動を行なっている。その後もアメリカでは、14の学校の約千人の生徒たちが、イクバルのような児童労働の反対のために活動しており、その活動はパキスタンのみならずハイチ、エルサルバドル、ネパール、バングラデシュ、ベトナム、エチオピア、ルワンダにも広がっている。 カナダの活動家であるクレイグ・キールバーガー(英語版)は、イクバルの死の当時、奇しくも同じ12歳であり、自宅で偶然読んだ新聞で、同い年の少年の死とその境遇に衝撃を受け、やがて児童労働防止運動に身を投じることを決意した。パキスタンにわたって自らの目で児童労働の実態を確かめ、イクバルの墓前で、彼の遺志を引き継ぐことを誓った。後に彼に共感した学友たちと共に、子供の人権を守るグループとしてフリー・ザ・チルドレン(英語版)が結成され、やがてこれが世界最大級の子供主体の国際NGOへと成長することとなった。この組織は21世紀においても、世界中の子供を労働から解放するために活動し続けている。
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