諸文明の世界観
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2021/06/26 15:39 UTC 版)
ハンティントンはまず文化が国際政治においても重大な役割を果たしていることを指摘した。特に冷戦後において文化の多極化が進み、政治的な影響すら及ぼした。なぜなら文化とは人間が社会の中で自らのアイデンティティを定義する決定的な基盤であり、そのため利益だけでなく自らのアイデンティティのために政治を利用することがあるためである。伝統的な国民国家は健在であるが、しかし行動は従来のように権力や利益だけでなく文化によっても方向付けられうるものである。そこで現在の諸国家を七つまたは八つの主要文明によって区分することがハンティントンにより提案された。 ここで議論されている文明という概念については、文化的、歴史的な着眼から考察されている。そもそも文明とは何かという議論について、文明は複数は存在しないという見解がある。つまり文明とは未開状態の対置概念であり、そして西欧社会は唯一の文明であった。この文明の見解は社会の発展という観点からのみ定義されるものであるが、文明と文化の関連からも考察できる。文明は包括的な概念であり、広範な文化のまとまりであると考えられる。文明の輪郭は言語、歴史、宗教、生活習慣、社会制度、さらに主観的な自己認識から見出される。人間は重複し、また時には矛盾するアイデンティティを持っているために、それぞれの文明圏に明確な境界を定義することはできないが、文明は人間のアイデンティティとして最大限のものとして成立している。だからこそ文明は拡散しても消滅することはなく、ある一定のまとまりを持って存在している。 エマニュエル・トッドは家族構造と人口統計にもとづいて世界を認識している。このため『文明の衝突』をまったくの妄想と見なしている。 ただし世界政治における行為者として文明を位置づけているわけではない。文明は文化的なまとまりであって、政治的なまとまりではない。あくまで文明はさまざまな行為主体の政治行動を方向付けるものである。近代世界以後の日本を除く全ての主要文明が2か国以上の国家主体を含んでいる。文明の総数については歴史研究において学説が分裂している。16個、21個、8個、9個などと文明の数え方にはいくつかの基準がある。しかしハンティントンの分析は、歴史的には最低限でも主要文明は12個存在し、そのうち7つは現存せず、新たに2個または3個の文明が加わったと考えれば、現在の主要文明は7個または8個であるとした。 中華文明 紀元前15世紀頃に発生し、儒教に基づいた文明圏であり儒教文明とも呼ぶ。その中核を中国として、台湾、朝鮮、韓国、ベトナム、シンガポールから成る。経済成長と軍備の拡大、および国外在住の華人社会の影響力を含め、その勢力を拡大しつつある。 ヒンドゥー文明 紀元前20世紀以降にインド亜大陸において発生したヒンドゥー教を基盤とする文明圏である。 イスラム文明 7世紀から現れたイスラム教を基礎とする文明圏であり、その戦略的位置や人口増加の傾向、石油資源で影響力を拡大している。(トルコは文化や歴史的に西に近い。) 日本文明 2世紀から5世紀において中華文明から独立して成立した文明圏であり、日本一国のみで成立する孤立文明。 東方正教会文明 16世紀にビザンツ文明(東ローマ帝国)を母体として発生し、正教に立脚した文明圏である。 西欧文明 8世紀に発生し、西方教会に依拠した文明圏である。19世紀から20世紀は世界の中心だったが、今後、中華、イスラム圏に対して守勢に立たされるため団結する必要がある。 ラテンアメリカ文明 西欧文明と土着の文化が融合した文明、主にカトリックに根ざしている文明圏である。 アフリカ文明 アフリカ世界における多様な文化状況に配慮すれば、文明の存在は疑わしいものであるため、主要文明に分類できないかもしれない。 その他 エチオピアやハイチとイスラエルはどの主要文明にも属さない孤立国である。モンゴル、チベット、タイ、ミャンマーなどは仏教文化として括られているが積極的な行為主体とは考えていない。
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