詩、歌、讃歌、来世のテクスト
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「古代エジプト文学」の記事における「詩、歌、讃歌、来世のテクスト」の解説
葬礼用の平板石碑(英語版)が最初に作られたのは古王国の初期であった。通常はマスタバから発見され、死者の名前、(あれば)公的な称号、祈りの言葉を含む銘とレリーフが組み合わされている。 葬礼の詩は死んだ王の魂を保護するものだと考えられていた。ピラミッド・テクストは詩的な韻文を含む宗教的文学の現存する最古のものである。こうしたテクストが墓やピラミッドに現れるようになったのはウナスの治世下(紀元前2375-2345年)になってからで、ウナスはウナス王のピラミッド(英語版)をサッカラに建造させた。ピラミッド・テクストは来世での王の魂を保護し育むことを主要な目的としていた。この目的には、来世において王だけでなくその家臣たちをも保護することが含まれるようになった。当初のピラミッド・テクストから進化して、さまざまなテクストの伝統が生まれた——中王国のコフィン・テクスト(英語版)や、新王国時代から古代エジプト文明の終わりまでパピルスに書かれ続けたいわゆる『死者の書』、『ラーの連祷(英語版)』、『アムドゥアト(英語版)』などである。 詩はまた王政を祝うためにも書かれた。カルナック神殿のアメン=ラーの地(英語版)に第18王朝のトトメス3世(治世:紀元前1479-1425年)が建立した自身の軍事的勝利を記念する石碑では、神々がトトメスを詩的韻文で祝福し、敵に対する勝利を保証している。石碑に加え、生徒が使った木の筆記板からも詩が発見されている。王の称賛の他、さまざまな神々や、ナイル川を称える詩「ナイル川讃歌」なども書かれた。 現存する古王国の讃歌や歌の中には、神の神殿でその神に朝の挨拶をする讃歌が含まれている。センウセレト3世(治世:紀元前1878-1839)に捧げられた中王国の一連の歌がエル・ラフン(英語版)で発見されている。こうした歌がメンフィスでファラオに挨拶するのに用いられたものであるとエルマンは考察している一方、シンプソンはこれらは宗教的な性質のものであるが、宗教的な歌と世俗的な歌の間にはさほどはっきりした区別はなかったのであろうとしている。中王国の墓石および新王国のパピルス・ハリス500(英語版)から発見された歌詞『ハープ弾きの歌(英語版)』は公式な宴会で晩餐の客のために演奏するためのものであった。 アメンホテプ4世(アクエンアテン、治世:紀元前1353-1336年)の時代には、その治世下で独占的な庇護(英語版)を与えられていた太陽円盤の神アテンに向けて書かれたアテン讃歌(英語版)が書かれた。この讃歌はアイの墓(英語版)を含むアマルナの墓群に残存していた。次に掲げるのは、アテン讃歌のなかの一節である。 もろもろの獣は、すみかに飽き足り草木はみどり輝く 巣を飛び立つ小鳥は 汝をたたえて翼をひろげ 獣は飛び跳ねるなり。 生きとし生けるものはことごとく 汝がいづるのをまつ。 汝が前の道くまなく開けたれば 船は北を指し、南に向かう。 水に棲める魚は汝が面前に乱舞す。 汝のみいづ青海原にあまねし。 尽くるを知らず汝の事跡(みわざ)よ! されど、人はみなそれあるを知らじ。 おお、並ぶなき唯一の神よ! シンプソンはこの作品の言い回しや一連の発想を旧約聖書の詩篇104(英語版)のものと比較している。 デモティックで書かれた詩的な讃歌はただ1篇しか現存していない。しかしながら、ヒエログリフで神殿の壁に書かれた新エジプト語の宗教的讃歌は多数が現存している。 新王国より前に書かれたエジプトの恋愛詩は現存しておらず、新王国のものは新エジプト語で書かれているが、それより前の時代にも存在はしていたであろうと推測されている。エルマンはエジプトの恋愛詩を旧約聖書の雅歌と比較し、恋人たちが互いを呼ぶのに「妹」「兄」という言葉を使っていることを引証している。また、古代エジプト文学における詩には、エジプトの神々はほとんど登場しないが、恋愛詩においてはしばしば、恋の相手が互いにかわす詩のなかで神の地位を得ることがある。チェスター・ビティー第1パピルスには、恋する男女がその恋情を互いに歌い上げた詩が記されているが、そのうちの男性が女性を詠んだ詩には次のような一節がある。 たったひとりの、比べようがない彼女。すべてのなかの美しきものよ。新年の初めに、夜明けとともに姿を見せる星のようだ。 ここで、彼女はおおいぬ座のシリウスに喩えられ、古代エジプト人はこの星をイシス神の現れとしてみていた。
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