衆議院での審議と芦田修正
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「日本国憲法第9条」の記事における「衆議院での審議と芦田修正」の解説
憲法改正草案の案文は枢密院で可決され、1946年(昭和21年)6月25日に衆議院に上程された。そして、芦田均が委員長を務める衆議院帝国憲法改正案委員小委員会においていわゆる芦田修正が加えられた。 芦田修正は第90回帝国議会の衆議院帝国憲法改正小委員会での審議過程 において第9条に加えられた修正であり、第1項冒頭に「日本国民は、正義と秩序を基調とする国際平和を誠実に希求し」の文言を加えた。これは1946年2月3日にマッカーサーがホイットニー民政局長に示したマッカーサー・ノート における「日本はその防衛と保護を、今や世界を動かしつつある崇高な理想に委ねる」が復活したもので、憲法前文第2項の「平和を愛する諸国民の公正と信義に信頼して、われらの安全と生存を保持しようと決意した」と一連のものであると考えられる。 第2項冒頭に「前項の目的を達するため」の文言を入れた修正を指す。特に第2項冒頭の修正を指して用いられることもある。 第90回帝国議会の衆議院帝国憲法改正小委員会は1946年(昭和21年)7月25日から8月20日にかけて13回にわたって開催された。帝国議会に提出された際の憲法改正案の案文は次のようなものである。 憲法改正草案第二章 戦争の抛棄第九条 国の主権の発動たる戦争と、武力による威嚇又は武力の行使は、他国との間の紛争の解決の手段としては、永久にこれを抛棄する。 第二項 陸海空軍その他の戦力は、これを保持してはならない。国の交戦権は、これを認めない。 この案文については、積極的な印象がなく自主性が乏しいとの意見が出されたため、7月29日に芦田委員長は次のような試案を提示した。 芦田試案第二章 戦争の抛棄第九条 日本国民は、正義と秩序とを基調とする国際平和を誠実に希求し、陸海空軍その他の戦力を保持せず。国の交戦権を否認することを声明す。 第二項 前掲の目的を達するため、国権の発動たる戦争と、武力による威嚇又は武力の行使は、国際紛争を解決する手段としては、永久にこれを抛棄する。 このうち「声明す」の文言については文語体であり口語体の条文にはふさわしくないとして「宣言する」に改められた。7月30日の小委員会は金森国務大臣が出席して開かれたが、この段階での試案の案文は次のようなものとなっていた。 第九条 日本国民は、正義と秩序とを基調とする国際平和を誠実に希求し、陸海空軍その他の戦力は、これを保持せず。国の交戦権は、これを否認することを宣言する。 第二項 前掲の目的を達する為め、国権の発動たる戦争と、武力による威嚇又は武力の行使は、国際紛争を解決する手段としては、永久にこれを放棄する。 この試案では原案(政府案)における第1項と第2項の順序が入れ替えられていたが、犬養健議員から第1項と第2項の順序をもとの原案(政府案)のままに戻し、その冒頭に「日本国民は・・・」の文言を入れてはとの提案がなされた。このほか、語尾の「宣言する」について、言い放つことで自主性が出るとして、「放棄する」に修正された。また、「抛棄」の字句が漢字制限の関係で「放棄」に改められた。。その結果として次のような法文となった。 日本国憲法第二章 戦争の放棄第九条 日本国民は、正義と秩序を基調とする国際平和を誠実に希求し、国権の発動たる戦争と、武力による威嚇又は武力の行使は、国際紛争を解決する手段としては、永久にこれを放棄する。 第二項 前項の目的を達するため、陸海空軍その他の戦力は、これを保持しない。国の交戦権は、これを認めない。 1946年(昭和21年)8月24日、衆議院本会議での委員長報告において芦田均はいわゆる芦田修正について「戦争抛棄、 軍備撤退ヲ決意スルニ至ツタ動機ガ、 専ラ人類ノ和協、 世界平和ノ念願ニ出発スル趣旨ヲ明カニセントシタ」ものであると述べている。その後、この修正について芦田は、自衛戦力を放棄しないための修正であり、このことは小委員会の会議録にも書かれていると発言している。ところが、のちに公開された小委員会の速記録や『芦田均日記』からは修正の意図がこのような点にあったかは必ずしも実証的には確認できないといわれる。ただし、国際法の専門家である芦田が自衛のための戦力保持の可能性を生じることとなった点について気付いていなかったとは思われないとみる見方もある。このようなこともあって芦田の真意は未だに謎とされている。 芦田の真意の問題は別として、総司令部や極東委員会は芦田修正の結果として「defence force」を保持することが解釈上可能になったと考えられるようになったといわれる。 芦田修正について総司令部からの異議はなかったといわれる。これに対して極東委員会の反応は異なっていた。芦田修正については、自衛(self-defence)を口実とした軍事力(armed forces)保有の可能性があるとした極東委員会の見解 が有名であり、この見解の下、芦田修正を受け入れる代わりに、文民統制条項(civilian)を入れるよう、GHQを通して日本国政府に指示し、憲法第66条第2項が設けられることとなった。
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