罠にかかるフランス軍
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2017/07/13 16:46 UTC 版)
「バイレンの戦い」の記事における「罠にかかるフランス軍」の解説
ヴィーデルの間違った動きについての情報は7月18日の正午にデュポンまで届き、デュポンは自身もヴィーデルもバイレンまで戻って、フランス軍が散らばることを防ごうとした。彼は「私にはアンドゥハルの占領なんてどうでもいい。あそこは戦略的に無意味だ。」と主張したという。撤退の準備に時間がかかること(ここでもコルドバの略奪品が足を引っ張った)と川の対岸にいるカスターニョス軍の警戒を兼ねて、デュポンは夜に紛れて撤退しようとした。一方、クピニー軍をビリャ・ヌエバから引き上げらせたレディングは17日にメンギバルで渡河、無人のバイレンを占領してツェルトで野営した。彼は次の朝西に転じて「ヴィーデル軍」(実際はデュポン軍だったが、ヴィーデルの失策まではヴィーデル軍が西にいたため、フランス軍の動きを把握できていないスペイン軍が間違えた)を攻撃する予定だった。 ヴィーデル軍は18日朝5時にラ・カロリーナから離れ、すでに疲れきっていたフランス右翼を南西のバイレンへ急いで移動させた。知らぬ間にレディング軍を背後から迫る形となった。これで両軍ともグアダルキビール川北岸へ移動したが、その配置が「カスターニョス—デュポン—レディング—ヴィーデル」といういびつなものになってしまった。バイレンからわずか2リーグのグアロマンではヴィーデルが歩兵たちを数時間休ませた。フォワ将軍は後に「3日間休まず絶え間なく行進していた後では、彼が拒絶できるはずもなかった」と回想した。一方偵察隊は西のリナーレスへ急ぎ、彼の背後を守った。デュポンが向かってきていることも、ヴィーデルが背後にいることも気づかなかったレディングはまだ東に残っているかもしれないフランス軍を警戒して数個大隊をバイレン占領に駐留させ、7月18日に残りの2個師団を率いて西へ進軍、アンドゥハルを背後から包囲してカスターニョスとともにデュポン軍を潰そうとした。 デュポンはスペイン軍が気づかぬ間にアンドゥハルから脱出。そして7月19日の黎明、シャベール准将(フランス語版)率いるフランス軍の前衛部隊はバイレンのすぐ近くでレディングの前衛(ワロン人近衛兵(英語版))に遭遇した。油断したところを突かれたものの、レディングは「速度と技術」をもって応対、戦列を崩して谷間にあるオリーブの果樹園で銃兵20人による防御線を組んだ。このとき、彼はデュポン本軍からわずか2マイルしか離れていなかった。シャベールはスペイン軍の人数を過小評価して3千人だけでレディングの2個師団に突撃したが、レディング軍の縦射と遮蔽(英語版)で大損害を出して撃退された。2リーグ離れたデュポンは前衛の突撃を中止させて、後ろのカスターニョスを警戒してバルブー将軍(フランス語版)を後ろに配置、残りの全軍を前進させてレディングの戦列を崩そうとした。 ラペーニャ師団がすでにアンドゥハルを通過して迫ってくる中、デュポンはカスターニョスの戦列がすぐにでも後ろから攻撃を仕掛けてくることを覚悟して、自軍を少しずつ派遣して予備部隊を温存した。歴史家たちはデュポン軍が「疲れきって、(戦列が)長く伸びていて、それを少しずつ戦闘に出すのは愚かの極みである」とした。シャベール准将とドゥプレ准将が歩兵旅団と胸甲騎兵でスペイン軍左翼のワロン人近衛兵を攻撃したが効果が出ず、ドゥプレは自軍の前方で致命傷を負った。デュポン軍の散らばった銃兵は集まって攻撃を支援したが、スペイン砲兵が砲撃を始めると散った。右翼ではレディングの民兵隊と第3スイス連隊(英語版)が猛攻にあい、スペイン軍の戦列を曲がらせた。フランスの胸甲騎兵が敵の歩兵連隊を踏み潰し、砲兵たちにも攻撃したが、砲撃を続けるスペイン軍に敵わず、鹵獲した大砲を捨てて後退した。 フランス軍が10時に到着するとデュポンは2回目の攻撃を命令、パンティエ将軍(フランス語版)が前衛の旅団を率いた。さらにドジエ(英語版)率いる皇帝近衛隊(英語版)の海兵隊も増援に来た。この近衛隊は当時最良の兵隊とされ、フォワ将軍は「彼らはわずか300人だが、何にも怖がることのない300人だ。」と記した。腰を負傷したデュポンはバイレン脱出の最後の試みとしてボロボロの自軍を近衛隊の大隊の周りに配置した。この時点でも予備軍があればスペインの戦列を突破できたかもしれないが、デュポンには予備軍がなく、フランスの縦隊はスペイン砲兵の容赦ない砲撃で三たび撃退された。デュポンの(元はスペイン所属だった)スイス人連隊はここでスペインに寝返った。そして最後、カスターニョス軍がようやく到着してバルブー軍を撃退、ラペーニャ軍が残された銃砲を鹵獲してフランス後衛への攻撃に取り掛かろうとした。これで19日の戦闘が終わった。
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