米国企業のオフィサー
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/07/14 01:02 UTC 版)
米国の法人における officer は役員と訳されることが多い。日本では取締役は役員の一種であるが、米国の株式会社 (corporation)においては業務の監督を担う取締役(director)とは別に、代理人 (agent) として業務の執行を担う上級の被用者 (employee) を役員(officer)という。日本においてはこれに倣って、執行役員制度や、さらに委員会設置会社における執行役が導入された。 なお、英国法上の会社の役員 (officer)はこれとは異なり、取締役 (director) を含む。米国の株式会社の役員 (officer) は、英国法上の会社の役員 (officer) のうち、支配人 (manager)又は書記役 (secretary)にあたる。 アングロサクソン系の法人では、企業統治の観念が普及したことで、日本の会社経営とその運営の内容が異なる。アングロサクソン型の企業統治のもっとも重要な特徴は、株主の利権を代表するべき取締役会と会社の経営陣が、組織機能において明確に分離されていることである。さらに、上場会社であれば、取締役会の構成員である取締役の過半数は、会社の部外者(社外取締役)で構成されていることがほとんどで、会社を直接運営する経営陣が、株主の利権を代表する取締役会によって監視される構造が出来上がっている。英国では、これに沿わない場合はその事実の公表を公開することが義務付けられている。大株主が自ら経営する一部の会社を除いてこれに沿わないような上場会社はまれである。 業務執行側の最高責任者は米国ではCEO(chief executive officer:直訳すると統括執行役員)、英国ではMD(managing director:直訳すると業務執行取締役)と呼ばれる。監督と執行の分離という観点からは、業務執行の最高責任者であるCEO/MDとその監督側の最高責任者である取締役会長(chairman)の兼任は望ましくないとされる。現に、英国においては、過去に、業務執行取締役(managing director)が取締役会の会長(chairman of the board of directors)と同一である場合に、会社の私物化がおこり、会社(株主)の利益に反する経営が行われたことに対する反省から、この兼任は規制されている。一方、米国においては、CEOが会長を、COOが社長(president)を兼任するような例は少なくない。 取締役会の最も重要な役割とは、会社の経営方針を決定することにある。理論上は、CEO/MDの役割とは、取締役会で決定された経営方針を遂行することにある。他にも取締役会は、業績を出さないCEO/MDを首(解任)にし、さらに、CEO/MDおよび他の重役(executive)の報酬を決定する。 重役にあたるchiefが頭に着く役職はそれぞれ、chief executive officerが社長、chief operating officerが営業部長、chief financial officerが財務部長、chief administrative officerが総務部長、chief marketing officerが販売部長、chief communication officerが広報部長、director of human resourceが人事部長、chief technology officerが技術部長など、部の分類はあくまで世界共通の営利企業組織の内容に対応しており、日本の企業の内訳とそれほど違いがあるわけではない。しかし、日本のような会長・社長・専務・常務・部長・課長・係長・平社員といった階級制による職制でなく、業務別に責任範囲を明確にした組織運営が強調される。例えば、管理職のレベルで、財務部の従業員が営業や広報に移るということはほとんどない。また、会社の業務の中核にあたらない部門責任者(総務部長・広報部長など)が、CEOになるということはほとんどない。さらに、部長以上が取締役というように、株主の利益が会社の経営陣によって代表されると言う構造をとらない。 社内出世で社長/CEOを目指す場合は、営業部で業績をあげることが前提になる。この場合に、例えば財務部に勤務するものは、自分の部のCFOを目指し、CFOは、よりランク上の会社のCFOの職につくことでキャリアを追求することになる。ただし、製造業を営む会社なら製造部や技術部門、金融業を営む会社ならCFOがCEOに出世することもありうるが、これは、これらの役職が事実上COOにあたるからである。また、人事部長がchief officerでないのは、欧米ではそれぞれの部署の責任者(課長以上)が直属の部下の人事権(解雇を含む)を握っていることが多いため、日本に比べ人事部の重要性が低いためである。また、法的にみてchiefの役職を持つ者は、その責任部門に関して法的な拘束権利および義務があるということである。つまり、例えば財務部長が融資に関して何らかの約束を行った場合は、会社全体が、法的にその約束の執行責任を負う。CEOの言動は、会社のすべての業務に対して、法的責任を生じさせる。 日本においては、委員会設置会社がアメリカ型の企業統治とされるが、委員会設置会社でも CEO や COO などの名称を使用しない場合もあるし、委員会設置会社ではないが CEO や COO などの名称を使用する場合もある。そのため、日本では、上記のような取締役会とCEOの明確な分離が、必ずしも行われているわけではない。
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