殺害された被害者の数
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/06/21 03:13 UTC 版)
本判決以前から、死刑適用の可否が争われる刑事裁判では殺害された被害者の数が重要視されていた。これは刑法上、最も重要な法益は生命であり、これが現実に侵害された個数が多い=刑事責任が重いと考えられるためである。 村野薫 (1990) が死刑事件・無期刑事件の量刑比率(「死刑:無期刑」)について調査したところ、以下のような結果が算出されている(グラフの赤い部分■が死刑事件の割合を示す)。 1949年(昭和24年)1月 - 1950年(昭和25年)9月の間(1年9か月間)に判決が確定した死刑事件(84件)・無期刑事件(67件)の場合被害者1人の場合 42 / 100 被害者2人以上の場合 78 / 100 1975年(昭和50年)1月 - 1978年(昭和53年)3月の間(3年3か月間)に判決が確定した死刑事件(34件)・無期刑事件(134件)の場合被害者1人の場合 7 / 100 被害者2人以上の場合 69 / 100 戦後の混乱期には、単純な1人殺害に止まる者でも死刑とされた例があるが、裁判所はその後、死刑判決を抑制するようになり、極めて慎重に言い渡すようになった。特に、1965年(昭和40年)以降は死刑適用が相当抑制されるようになり、東京高検の上告後に本事件の調査を担当した稲田輝明(最高裁判所調査官)も、過去の重大事件における死刑と無期懲役の量刑の境界について調査し、「強盗殺人罪の場合、全体的に被害者が1人の場合は無期懲役以下、複数であれば死刑が適用される傾向にある」と結論付けている。また、永山の死刑が確定した第二次上告審判決(1990年)に関与した園部逸夫(最高裁判所裁判官)は、『読売新聞』社会部記者からの取材に対し、「永山基準は、裁判官が死刑選択に当たって自分を納得させるための『てこ』となる基準を求めていた中で生まれた。9項目のうち、『ことに』という表現が用いられた『殺害方法の執拗性・残虐性』『被害者の数』が重視されたが、その後は下級審の裁判官の間で『被害者が1人の場合、よほどの事情がなければ死刑にできない』という空気が生まれたことは否定できない」と述べている。 最高裁司法研修所は2012年(平成24年)7月23日、『裁判員裁判における量刑評議の在り方について』と題した研究報告書をまとめた(『司法研究報告書』第63輯第3号として刊行、同年10月に法曹会から発売)。同報告書によれば、1980年度(昭和55年度) - 2009年度(平成21年度)に死刑か無期懲役が確定した死刑求刑事件346件・被告人346人(死刑193件・無期懲役153件)について分析したところ、殺人の場合は174人中93人の、強盗殺人の場合は172人中100人の被告人について死刑が確定していた。また、死亡した被害者数と死刑適用の比率について分析したところ、以下のような結果が出た。 死亡した被害者の数と死刑が宣告される比率(1980 - 2009年度に判決が確定した死刑求刑事件)死亡した被害者数求刑合計死刑宣告数無期刑宣告数1人 100件殺人 - 48件 強盗殺人 - 52件 32人 32 / 100 (32%) 殺人 - 18人 (38%) 18 / 48 (38%) 強盗殺人 - 14人 14 / 52 (27%) 68人 68 / 100 (68%) 殺人 - 30人 30 / 48 (63%) 強盗殺人 - 38人 38 / 52 (73%) 2人 164件殺人 - 65件 強盗殺人 - 99件 96人 (59%) 96 / 164 (59%) 殺人 - 31人 (48%) 31 / 65 (48%) 強盗殺人 - 65人 (66%) 65 / 99 (66%) 68人 (41%) 68 / 164 (41%) 殺人 - 34人 (52%) 34 / 65 (52%) 強盗殺人 - 34人 (34%) 34 / 99 (34%) 3人以上 82件殺人 - 61件 強盗殺人 - 21件 65人 (79%) 65 / 82 (79%) 殺人 - 44人 (72%) 44 / 61 (72%) 強盗殺人 - 21件 (100%) 21 / 21 (100%) 17人 (21%) 17 / 82 (21%) 殺人 - 17人 (21%) 17 / 61 (28%) 強盗殺人 - 0人 (0%) 0 / 21 (0%) ※主文が2個以上の場合、死刑求刑の個数を人数として計上している。 ※死亡被害者2人以上の強盗殺人の被害者の中には殺人による被害者を含む場合がある。 ※人の死亡の結果を伴う放火や、強盗強姦致死で死刑が求刑された場合は、それぞれ殺人罪・強盗殺人罪として扱っている。 以上のように、被害者数と死刑判決との間には強い相関関係があり、死刑宣告に当たっての最も大きな要素は被害者数であると報告されている。概ね「被害者に落ち度がなく、複数の被害者を殺害した事件の場合は原則的に死刑である」とされるが、以下のような例外もある[以下(事件発生年 / 殺害人数)と表記]。
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