東京電力の全面撤退をめぐる報道
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/06/07 08:52 UTC 版)
「福島第一原子力発電所事故」の記事における「東京電力の全面撤退をめぐる報道」の解説
14日から15日にかけて2号機の圧力容器内、格納容器内の圧力をそれぞれ下げる試みは極めて難航し、格納容器どころか、圧力容器の圧力破壊という水素爆発とは桁違いの事態が想定される状況に至った。このような危機的状況において、当時の東京電力社長清水正孝が、福島第一原発からの全面撤退を菅総理大臣に要求し、菅総理が「撤退なんてあり得ない!」と怒鳴った、と報道された。その後、全原子炉施設の放棄によってコントロールが不能となる全面撤退の申し入れには、枝野幸男(当時の官房長官)と海江田万里(当時の経済産業大臣)を含めた国の官邸側で全員が全面撤退と受け取ったと発言した。これに対し、東京電力の顧問武藤栄は、全面撤退など考えたことがなかった、議論も出なかったと『電気新聞』が報道。意見の食い違いが生まれている。しかしながら、社長の清水正孝は、最悪の場合は10人の作業員だけを残留させる想定もあったことを、事故調査委員会で認めた。その後、委員長に記者からは「10人では、全面撤退と変わらないのでは?」との質問があったが、事故調査委員会の結論として 野村修也委員は「吉田所長が最悪の事態を想定した漠然とした人数が10人」だとし、「東京電力に全面撤退の形跡無し」と、東京電力側の主張を全面的に認める発表をした。 「撤退問題」については、14日午後8時頃から、政府要人数人に清水社長から電話で福島第一原発からの社員の撤退・退避の申し出がなされたと言う点で複数の証言は一致している。具体的には、海江田万里経済産業大臣、寺坂信昭原子力安全・保安院院長、枝野内閣官房長官に対して清水社長本人が電話で連絡を取り、撤退・退避の了承を取ろうとした(細野豪志内閣総理大臣補佐官は電話に出ることを拒否した)。清水社長の申し出に対し、三者とも退避・撤退については否定的な感想を述べたが、海江田経産大臣はことの重大性を鑑み、総理に報告する旨を約束したとされる。なお清水社長は、要人に対しては「全面撤退」と「一部撤退」といった人数に関する事柄については特定して述べておらず、状況の厳しさを訴えた上で退避・撤退の了承を求めている。 ほぼ同時期に、放射線量の高まりからオフサイトセンターの福島市内への移転についても議論されている時期であり、片山善博総務大臣、平岡英治保安院次長他政府関係者も、東電撤退の可能性を聞いて少なからぬ衝撃を受けたと証言している。 また、朝日新聞WEB RONZA(『朝日新聞』2012年2月6日付「プロメテウスの罠、官邸の5日間35」抜粋)では、元警視総監の伊藤哲朗が東電幹部と交わした会話にて、福島第一原発から全面撤退した場合は、福島第二原発にも影響が及び、福島第二からも撤退しなければならない事態に発展すると掲載された。また、菅元総理が、「プラントを放棄した際は、原子炉や使用済み燃料が崩壊して放射性物質が飛び散る。チェルノブイリの2倍3倍にもなる」「このままでは日本滅亡だ」と発言したと記載した。 国会事故調 (2012, p. 33) は報告書で、全面撤退は官邸の誤解であるが、官邸に誤解が生じた根本原因は、東電社長の清水正孝が、極めて重大な局面ですら、官邸の意向を探るかのような曖昧な連絡に終始した点に求められる、とした。
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