岡山大学医学部病理学教室
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「綿ふき病」の記事における「岡山大学医学部病理学教室」の解説
田尻は岡山外科会での発表に先立ち、岡山大学組織病理学教室の病理学博士である赤木制二に研究協力を求めた。田尻からの報告を聞き、N農婦が産出したという綿束を手に取った赤木も、最初は患者によるトリックであろうと疑い、1959年(昭和34年)の6月に、岡山医科大学の病理学教室の同僚数名を引き連れて田尻医院を訪れた。 N農婦と対面した赤木は病理学教室の同僚らと数日間にわたり、患部の様子を昼夜を通して観察した。全身10数か所におよぶ各々の創口には水っぽい肉芽があり、その中央付近に膿にまみれた綿束の固まりが溜まっており、これらを除去して包帯を交換するものの、24時間後に包帯を外すと再び膿にまみれた綿束が溜まっている。そのようなことを何度も繰り返し確認し、これはトリックなどではなく、田尻医師の報告内容に間違いはない、と赤木は確信する。 病巣部を病理組織学的に表現すれば「異物肉芽腫」ということになる。信じられないことではあるが、人体から産出される以上、この綿束様のものが真のワタ属(Gossypium spp.英: cotton plant)であるなど理論的に成り立たないと赤木は考え、植物学者や繊維学者らに鑑定を願い出た。その結果(次節で詳述する)は、まぎれもなく自然界に存在するワタ属種皮毛であった。 そこで赤木は病理組織学的観点から詳細な検査を続け、排出された綿の中に正体不明の異物巨細胞 と、その細胞から延長したと思われる異様な繊維束が形成されていることを確認した。この異物巨細胞はヒトの皮膚や皮下組織(皮膚の創傷組織含む)には見られないものであった。また、創口切開時に膿瘍の壁面から採取した組織の中には上皮のような細胞が存在しており、この細胞の染色体数はヒトの細胞の染色体数と比較して非常に少ない数値であった。形成される繊維束の内腔には原形質を持つものがあってコハク酸脱水素酵素の活性化が確認された。これらの現象は未知の細菌や微生物による作用ではないかと考え、細菌学の観点から血液や創口の膿を採取し細胞培養試験を複数回行った。結果としては種々の雑菌を分離することこそできたものの、手掛かりとなる病原微生物は確認できなかった。 これらを踏まえ赤木は次のような仮説を立てた。N農婦の創口に確認された異物巨細胞は崩壊の傾向を示していて、これら細胞質の中央付近に幼若な綿毛のような物質が出現してくる。これは人体にとっては明白に異物である綿毛に分化する途上の綿の幼若な細胞を、人体側の貧食細胞がかろうじて捕らえている(細胞性免疫)ものの、それらを細胞内で消化できずに、むざむざと綿毛への分化を許してしまっているのではないか。N農婦の膿瘍内部では幼若な種皮細胞に相当する細胞が、ある種の培養状態が継続していると解釈でき、飛躍した考えであるが、これは顕花植物の組織寄生ではないのか、患者の側からみると綿の種皮細胞による全身感染症であり、綿の側からみれば綿の種皮細胞の人体寄生ということになる、との仮説を立てた。 細菌などの単細胞生物が人体に感染することは日常茶飯事である。それが顕花植物の、それも一部分の組織だけが昼夜絶え間なく人体で作り出されるということは前例がなく、仮に原因が綿の細胞の感染によるものだとすれば、その感染はどのようにして起こったのか、はたしてN農婦に聞いてみると1938年(昭和13年)から約5年間の期間、自家用の綿を得るため小規模な綿栽培を行っていた過去が確認された。因果関係は不明であるものの、仮にこのときの侵入が原因だとするなら発病までに10年以上を要したことになる。 .mw-parser-output .tmulti .thumbinner{display:flex;flex-direction:column}.mw-parser-output .tmulti .trow{display:flex;flex-direction:row;clear:left;flex-wrap:wrap;width:100%;box-sizing:border-box}.mw-parser-output .tmulti .tsingle{margin:1px;float:left}.mw-parser-output .tmulti .theader{clear:both;font-weight:bold;text-align:center;align-self:center;background-color:transparent;width:100%}.mw-parser-output .tmulti .thumbcaption{background-color:transparent}.mw-parser-output .tmulti .text-align-left{text-align:left}.mw-parser-output .tmulti .text-align-right{text-align:right}.mw-parser-output .tmulti .text-align-center{text-align:center}@media all and (max-width:720px){.mw-parser-output .tmulti .thumbinner{width:100%!important;box-sizing:border-box;max-width:none!important;align-items:center}.mw-parser-output .tmulti .trow{justify-content:center}.mw-parser-output .tmulti .tsingle{float:none!important;max-width:100%!important;box-sizing:border-box;align-items:center}.mw-parser-output .tmulti .trow>.thumbcaption{text-align:center}}N農婦から排出した綿毛と生検の顕微鏡画像 皮下膿瘍壁の生検顕微鏡画像。好酸性小胞体をもつ細胞群が見られる。 肉芽組織の多核巨細胞。手書きの黒矢印(○印で囲んだ内側)には幼若な綿毛のような物質が出現している。 ↑印は綿毛の先端部。○印は根本側の端。ほぼ同じ太さの平らな繊維で、長さは5センチほど。特有のねじれを持っており、腔(こう)が認められる。 創に生じる綿は完熟した綿毛だけでなく、このような500µmにも満たない綿毛も混在している。 綿毛の顕微鏡画像3枚。左の↑印は先端尖部。中央の↑印は根本側端部。右の↑印付近の内腔には原形質物質が残存し、苛性ソーダで処置するとセルロース陽性反応を示す。
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