多変量正規分布
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/12/07 06:29 UTC 版)
非退化の場合多変量正規分布が非退化であるとは、共分散行列 が正定値であることである。この場合、分布は次の形の確率密度関数を持つ[5]。
ここで は実 k 次元列ベクトルで、 は の行列式である。 が 行列(つまり単一の実数)である場合、この式は1変量正規分布の確率密度関数に帰着する。 複素正規分布の場合はこれとはわずかに違った形のものになる。 k+1 次元空間内の任意の「等高線」、つまり確率密度関数の値が等しくなるような点の集合は、楕円またはその高次元対応物となる。よって多変量正規分布は楕円分布の特別な場合である。 記述統計量 はマハラノビス距離として知られ、試験ベクトル と平均ベクトル との一種の距離を表す。 の場合、これは標準得点の絶対値に帰着する。 2変量の場合2次元で非退化の場合(k = rank(Σ) = 2)、ベクトル [X Y]′(右肩のダッシュは転置を表す)の確率密度関数は、 となる。ここで ρ は X と Y の相関係数であり、 かつ である。このとき、 2次元のときは、多変量正規分布であるための同値な条件として挙げた最初の方は、やや緩められる: 2変数の場合の等高線を x,y-平面にプロットすると楕円になる。相関係数 ρ が大きくなっていくとき、楕円は次の直線: の方向に向かって押しつぶされていく。この背景として、この式の sgn(ρ) ("sgn" は符号関数)を ρ に取り換えたものは、X の値が与えられたときの Y の最良線形不偏予測量(best linear unbiased prediction)になっているという性質がある[7]。 結合分布の正規性正規分布と独立性確率変数 と が正規分布に従い、独立であるならば、これらの結合分布は結合正規分布である。つまり、対 は2変量正規分布に従う。しかしながら、多変量正規分布に従う確率変数ベクトルの相異なる2成分は独立であるとは限らない。それらが独立であるのは無相関()の場合に限られる。 正規分布に従う確率変数の対は、必ずしも2変量正規分布には従わない2個の確率変数 と がいずれも正規分布に従っているとしても、それらの対 は必ずしも2変量正規分布には従わない。次のように簡単な例(反例)が構成できる。
3変数以上の場合も同様に反例が構成できる。一般に、こうした確率変数の和によって混合分布モデルが作られる。 相関と独立性一般に、2個の確率変数が無相関であっても独立であるとは限らない。しかし、確率変数ベクトルが多変量正規分布に従っている場合、その2個以上の成分が互いに無相関であれば、それらは独立である。特に、これらが組ごとに独立であれば、独立である。 しかしながら、すぐ上で指摘した例からわかるように、2個の確率変数が正規分布に従い、かつ無相関であるからといって、それらが独立であるとは限らない(X と Y の相関係数が 0 となるよう定数 c を選べばよい)。 周辺分布多変量正規分布に従う確率変数ベクトルから、その中のいくつかの成分を抜き出した確率変数の組が従う周辺分布を得るには、単に平均ベクトル、分散共分散行列から無関係な成分を除けばよい。これが成り立つことは、多変量正規分布の定義と線形代数によって証明できる[8]。 例X = [X1, X2, X3] が多変量正規分布に従うとし、平均ベクトルを μ = [μ1, μ2, μ3]、分散共分散行列を Σ とする。 このとき X′ = [X1, X3] の周辺分布は再び多変量正規分布であり、その平均ベクトルは μ′ = [μ1, μ3]、分散共分散行列は である。 アフィン変換で Y = c + BX がそのアフィン変換であるとき(c は 定ベクトル、B は 定行列)、Y も多変量正規分布に従い、平均ベクトルは c + Bμ、分散共分散行列は BΣBT である(つまり )。 特に、成分 Xi たちの任意の部分集合が従う周辺分布は再び多変量正規分布になる。例えば、部分集合 (X1, X2, X4)T を直接抜き出してくるには、行列 を使えばよい。 別の系として、多変量正規分布に従う X と定ベクトル b のドット積をとった Z = b · X は、1変量正規分布に従う()。 と考えればよい。Σ の正定値性(半正定値性)から、ドット積をとった確率変数の分散は正(非負)になる。 X のアフィン変換 2X は、X と同一の分布に従う2個の独立な確率変数の和とは別物である。 母数の推定確率密度関数が である多変量正規分布に従う大きさ n の標本から、共分散行列を推定することを考える。この場合の最尤推定量は であり、これは単純に標本共分散行列を計算したものである。ただし不偏推定量ではなく、期待値は となる。よって とすれば不偏推定量になる。多変量正規分布の母数の推定において、フィッシャー情報行列は閉じた式で書け、例えばクラメール・ラオの限界の算出に用いられる。詳細はフィッシャー情報量を参照。 多変量正規分布からのサンプリング平均ベクトル μ、分散共分散行列 Σ の N 次元正規分布に従う乱数ベクトルを生成する方法として、以下に述べるような手法が広く用いられている[9]。
関連項目
脚注
参考文献
多変量正規分布出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/01/01 00:44 UTC 版) 「クラメール・ラオの限界」の記事における「多変量正規分布」の解説 平均値ベクトル μ ( θ ) {\displaystyle {\boldsymbol {\mu }}({\boldsymbol {\theta }})} 、分散共分散行列 C ( θ ) {\displaystyle {\boldsymbol {C}}({\boldsymbol {\theta }})} が未知母数ベクトル θ {\displaystyle {\boldsymbol {\theta }}} で定まるような、一般的な d 次元正規分布 N d ( μ ( θ ) , C ( θ ) ) {\displaystyle N_{d}\left({\boldsymbol {\mu }}({\boldsymbol {\theta }}),{\boldsymbol {C}}({\boldsymbol {\theta }})\right)} の場合、 フィッシャー情報行列の成分は、 I m , k = ∂ μ T ∂ θ m C − 1 ∂ μ ∂ θ k + 1 2 tr ( C − 1 ∂ C ∂ θ m C − 1 ∂ C ∂ θ k ) {\displaystyle I_{m,k}={\frac {\partial {\boldsymbol {\mu }}^{T}}{\partial \theta _{m}}}{\boldsymbol {C}}^{-1}{\frac {\partial {\boldsymbol {\mu }}}{\partial \theta _{k}}}+{\frac {1}{2}}\operatorname {tr} \left({\boldsymbol {C}}^{-1}{\frac {\partial {\boldsymbol {C}}}{\partial \theta _{m}}}{\boldsymbol {C}}^{-1}{\frac {\partial {\boldsymbol {C}}}{\partial \theta _{k}}}\right)} ここで "tr" は行列のトレースを表す。 より簡単な例として、平均 θ {\displaystyle \theta } が未知で分散 σ 2 {\displaystyle \sigma ^{2}} が既知の正規分布から、独立に d {\displaystyle d} 回抽出してえられる標本量ベクトルを W d {\displaystyle \mathbf {W} _{d}} とする。 W d ∼ N d ( θ 1 , σ 2 I ) {\displaystyle \mathbf {W} _{d}\sim N_{d}\left(\theta {\boldsymbol {1}},\sigma ^{2}{\boldsymbol {I}}\right)} ここで 1 {\displaystyle {\boldsymbol {1}}} は 1 を d 個並べたベクトル、 I {\displaystyle {\boldsymbol {I}}} は d 次単位行列である。未知母数が1つなのでフィッシャー情報量は I ( θ ) = ( ∂ μ ( θ ) ∂ θ ) T C − 1 ( ∂ μ ( θ ) ∂ θ ) = ∑ i = 1 d 1 σ 2 = d σ 2 {\displaystyle I(\theta )=\left({\frac {\partial {\boldsymbol {\mu }}(\theta )}{\partial \theta }}\right)^{T}{\boldsymbol {C}}^{-1}\left({\frac {\partial {\boldsymbol {\mu }}(\theta )}{\partial \theta }}\right)=\sum _{i=1}^{d}{\frac {1}{\sigma ^{2}}}={\frac {d}{\sigma ^{2}}}} とスカラーで与えられ、クラメール・ラオの下限は Var ( θ ^ ) ≥ σ 2 d {\displaystyle \operatorname {Var} ({\hat {\theta }})\geq {\frac {\sigma ^{2}}{d}}} ※この「多変量正規分布」の解説は、「クラメール・ラオの限界」の解説の一部です。
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