ランダム行列とは? わかりやすく解説

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ランダム行列

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2024/11/29 16:33 UTC 版)

ランダム行列 (ランダムぎょうれつ、英語: Random Matrix) とは、行列要素 hj,k がなんらかの確率法則あるいは確率分布に従う確率変数 (乱数) として与えられると仮定する行列モデル。また、ランダム行列に関する理論をランダム行列理論 (英語: RMT) という。ランダム行列は、ユージン・ウィグナーにより固有値や固有値の間隔の分布の統計的性質、それらの普遍性 (Universality) やその要因などを研究する目的で導入された。現在では核物理学のほかに、量子カオス、固体物理学統計力学数論生態学遺伝子工学金融工学無線工学複雑ネットワークなどの研究で応用されている。

代表的なランダム行列

この節では代表的なランダム行列についての簡易な説明とそれらの特徴および違いについて述べる。

ウィシャート行列

英語: Wishart matrix

1928年に統計学者ジョン・ウィシャート (John Wishart) により多変量解析における共分散推定(英)の研究のため導入されたランダム行列。[1]

歴史上初めてのランダム行列とされる。多変量の共分散を求める行列である XXT (または XX*) により構成されるのが特徴。

ウィシャート行列の構成例
種別 ウィシャート行列 ガウス型ウィシャート行列
確率変数 実数、複素数
i.i.d. i.i.d.
ガウス分布
k次モーメントが存在し有限 Xj,k = N(0,1)
または、
Xj,k = N(0,1) + i N(0,1)
行列の構成 Xmn 列の行列

Mmm 列の行列
M = XXT または、M = XX*

特徴 行列M半正定値の対称行列 (またはエルミート行列)[注釈 1]
行列Mの固有値λ(M)は非負の実数 λ(M) ≥ 0

ラゲール・アンサンブル

英語: Laguerre ensembles

ウィシャート行列を用いてガウス型アンサンブルと同様の条件で構成したアンサンブル。β=1 はLOE、β=2 はLUE、β=4 はLSE と呼ばれる。ラゲールの名称は固有値の同時確率密度関数がラゲールの陪多項式を用いて表わされることに由来する。アンサンブル名称に「β-」が付くとβ=1,2,4だけではなく任意実数のβ>0にまで拡張されたアンサンブルとしての意味で用いられることがある。

ウィグナー行列

英語: Wigner matrix, Wigner ensemble

原子核のエネルギー準位の研究で1950年代にウィグナーが導入したN×N実対称行列 (あるいはエルミート行列)。確率変数の確率分布に関してはモーメント (確率論)が存在すること (平均や分散などが発散しないこと) を要求しているくらいで確率分布の指定はない。ガウス分布を指定した場合はガウス型ウィグナー行列 (Gaussian Wigner matrix) となる。

ウィグナー行列の構成
種別 実ウィグナー行列
real wigner matrix
複素ウィグナー行列
complex wigner matrix
確率変数 実数
自由度 β=1
複素数
自由度 β=2
i.i.d.
k次モーメントが存在し有限
対称性 実対称
hj,k = hk,j
エルミート対称
hj,k = hk,j
特徴 実対称行列 エルミート行列
固有値は実数

ベルヌーイ・アンサンブル

英語: Bernoulli ensemble, random sign matrix

各行列要素が等確率で 1 または -1 の値をとるランダム行列。行列要素が従う確率変数は「独立かつ同一分布」(i.i.d.) でその確率分布は、P(X=1)=1/2, P(X=-1)=1/2のベルヌーイ分布。対称性が加わるとウィグナー行列の特別なケースになる。

ガウス型アンサンブル

英語: Gaussian ensembles, β Hermite ensemble

1962年にフリーマン・ダイソンにより導入された行列モデルで行列要素の確率分布にガウス分布を使用しているのでガウス型と呼ばれる。GOE, GUE, GSE の3つのタイプがある。ウィグナー行列に対して確率分布としてガウス分布が指定されさらに不変性に関する要件 (U-1HU = H) が追加されたものと言える。

ガウス型アンサンブルの構成例
種別 GOE GUE GSE
確率変数 実数 (β=1) 複素数 (β=2) 四元数 (β=4)
i.i.d. ガウス分布 i.i.d. ガウス分布 i.i.d. ガウス分布
Aj,k = N(0,1) Aj,k = N(0,1) + i N(0,1) Aj,k = N(0,1) + i1 N(0,1) + i2 N(0,1) + i3 N(0,1)
行列の構成 H = (A + AT)/2 H = (A + A*)/2 H = (A + AD)/2
対称性
(不変性)
OTHO = H U*HU = H SDHS = H
特徴 対称行列 エルミート行列 自己双対行列
対角要素 hj,j = N(0,1) 非対角要素 hj,k = N(0, 1/2) の行列が構成される[注釈 2]

円アンサンブル

英語: Circular ensemble, Fourier ensemble

1962年にフリーマン・ダイソンが導入したランダム行列モデル[2]。複素平面上の単位円周上のみを移動可能な N 個の単位荷電粒子 (Coulomb Gas) からなる系をモデル化したもの。ガウス型アンサンブルと同様に3つのタイプがありダイソン指数β=1,2,4 に対応して COE, CUE, CSE と呼ばれる。なお固有値の分布は逆温度βのギブス分布 (ボルツマン分布) に対応する。

Ginibreアンサンブル

各行列要素 zj,k は実数または複素数で構成される n×nの正方行列ですべての要素は独立同一分布。各要素は次式で表されるガウス分布に従う。

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ウィグナーの半円則

ウィグナーの半円則。ガウス分布での例 (N=3000) σ2=1, ∫ρdλ=2π となるように規格化。半径2の半円に近い分布となっているのがわかる。
英語: Wigner's Semicircle Law

ウィグナー行列 Hnの固有値分布ρ(λ)は、行列サイズ n を非常に大きく (n→∞) していった場合にウィグナー半円分布へと近づいていくとするもの。

Circular Law
固有値の分布は複素平面上の単位円内で等密度になる。
英語: Circular law

n×n 実正方行列 (または複素正方行列) において各行列要素を独立同一分布で平均ゼロ E(Xj,k)=0、分散

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固有値の間隔分布

英語: density distribution of spacing, gap distribution

異なる固有値の間隔に関する分布。 なかでも固有値を大きさ順に並べたときに連続する2つの固有値λの間隔 S = |λi+1 - λi| である最近接間隔分布 (: nearest neighbor spacing distribution) についての研究が有名。以下、固有値の分布にはどのようなものがあるのか、そしてランダム行列がどのように関係するのかについて記述する。

ポアソン分布

隣接する固有値が区間[λ+S,λ+S+dS]に見つかる確率P(S)dSが固有値の値λや間隔 S とは相関がなく独立している (つまり定数) と仮定すると、固有値の最近接間隔分布はポアソン過程において連続して起こる事象の生起間隔の分布と同じ指数分布になる[注釈 4][注釈 5]

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Brody分布

Berry-Robnik分布

応用例

脚注

注釈

  1. ^ 共分散行列は常に半正定値。分散共分散行列参照。
  2. ^ GOEについてだけ述べる。 確率変数の分散の性質から、対角成分はσ2[(X+X)/2] = σ2(X) = 1 。
    非対角成分は、σ2[(X+Y)/2] = {σ2(X) + σ2(Y)}/22 = 1/2 。
  3. ^ 書籍により U-1が右側にあったり左側にあったりするがどちらでも同じことである。左からU-1 右からU をかけてやれば同じ式になり等価となる。
  4. ^ この分野ではこれをポアソン分布と呼んでいる。
  5. ^ これは次のように示される。(Mandan Lal Mehta 2004, p. 11-12, H-J Stockmann 1999, p. 66-67)
    単位間隔に固有値が存在する確率をρとする。固有値λiから間隔 S だけ離れたところ (λ+ S) に次の固有値λi+1があるとする。区間 (λ,λ+S) においては固有値が見つからず、区間[λ+S, λ+S+dS]に固有値が見つかる確率を考える。 固有値間隔の分布関数をP(S)とすれば



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