確率行列
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2024/01/14 18:12 UTC 版)
数学における確率行列(かくりつぎょうれつ、英: stochastic matrix)とは、マルコフ連鎖の遷移確率を表す正方行列である。全ての成分が、確率を表す非負実数となっている[1][2]:9-11。文脈によって遷移行列(英: transition matrix)、置換行列(英: substitution matrix)、マルコフ行列(英: Markov matrix)と呼ばれることもある。また 英: probabilistic matrix と呼ばれることもある[2]:9-11。
確率行列は20世紀初頭にアンドレイ・マルコフによって初めて導入され、確率論、統計学、数理ファイナンス、線形代数学、計算機科学、集団遺伝学といった様々な分野で活用されてきた[2]:1-8。
確率行列には、いくつかの異なる定義・形式がある[2]:9-11 :
- 右確率行列(英: right stochastic matrix)とは、任意の行の和が1となる非負実数成分の正方行列である。
- 左確率行列(英: left stochastic matrix)とは、任意の列の和が1となる非負実数成分の正方行列である。
- 二重確率行列(英: doubly stochastic matrix)とは、任意の行、任意の列の和が1となる非負実数成分の正方行列である。
同様にして、確率ベクトル(英: stochastic vector, probability vector) を、全ての成分が非負の実数で和が1となるベクトルと定義できる。右確率行列の全ての行(左確率行列の全ての列)は確率ベクトルである[2]:9-11。
数学の文献での慣習に従い、本項では行ベクトルが確率ベクトルとなる右確率行列について述べる[2]:1-8。
歴史

確率行列は、ロシア人数学者でサンクトペテルブルク大学教授であったアンドレイ・マルコフによってマルコフ連鎖とともに考案された。出版物への初めての記載は1906年である[2]:1-8 [3]。マルコフは当初、これらを言語分析やカードシャッフル等の数学的題材に用いるつもりだったが、たちまち他の分野でも有用であることが分かってきた[2]:1-8 [3][4]。
確率行列はアンドレイ・コルモゴロフ等の学者によってさらなる研究がなされ、連続時間マルコフ過程にも適用できるよう拡張が行われた[5]。1950年代までに、計量経済学[6]や回路網解析[7]といった分野にも確率行列を用いた論文が現れた。1960年代には行動科学[8]から地質学[9][10]、居住地計画[11]まで、さらに広範な科学領域で確率行列が用いられるようになった。同時に、この期間には確率行列やマルコフ過程の応用範囲や有用性を押し広げるような数学的研究もより一般的に行われた。
1970年代から現在にかけて、確率行列は建築構造設計[12]から医療診断[13]、人事労務管理[14]まで、形式的な分析を必要とするほとんどあらゆる分野で用いられるようになってきた。土地利用変化モデリング(land change modeling、この分野では「マルコフ行列」と呼ばれることが多い)においても広範に応用されている[15]。
定義と性質
確率行列は、要素が有限個の状態空間 S (濃度 状態 5 は吸収状態であり、吸収までの時間は離散的相型分布に従う。系が状態 2 から始まったとする(ベクトルで表すと
確率行列
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「ペロン=フロベニウスの定理」の記事における「確率行列」の解説
行(あるいは、列)確率行列とは、各行(あるいは、列)の成分が非負の実数で、その行(あるいは、列)毎の和が 1 となるようなもののことを言う。このような行列は必ずしも既約ではないため、ペロン=フロベニウスの定理を直接的に適用することは出来ない。 A を行確率行列とすると、各成分が 1 であるような列ベクトルは、その行列の固有値 1 に対応する固有ベクトルであることが分かる。ここで固有値 1 は、上述の議論により ρ(A) である。しかし、それは単位円上の唯一つの固有値では無いこともあり、対応する固有空間が多次元となることもあり得る。A が既約な行確率行列であるなら、ペロン射影も同様に行確率的で、そのすべての行は等しい。
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