固定式と引き込み式
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/07/23 00:01 UTC 版)
最初期航空機たる気球や飛行船では特に可動機構は無いゴンドラ下面が着陸時に接地しており、続くオットー・リリエンタールによるハンググライダーは後代のハンググライダーと同じく操縦士自身で離着陸を行っていた。更に後の登場初期の飛行機は、機体に固定された着陸装置が用いられていたが、飛行機の高速化、高性能化が進むにつれ、空気抵抗や機動性、空力特性を考慮し引き込み式(格納式)が増えてくるようになる。そのため、固定式は荒れ地での離着陸を考慮し低速で飛行する機体に限定された。 現在では大多数の飛行機が引き込み式(格納式)となっているが、格納するための機構は飛行中はデッドウェイトとなり、またメンテナンス作業も増える。さらに故障や出し忘れなどの操作ミスにより着陸装置が伸展できず不時着や胴体着陸となる航空事故がしばしば発生している。長距離を飛行する機種では空気抵抗を減少させるため格納時にはカバーで覆う設計が主流だが、ボーイング737のような短距離を想定した旅客機ではカバー削減による軽量化やタイヤの冷却を考慮し主脚を機体の「くぼみ」にはめ込みタイヤの側面は露出させるタイプも存在する。また、新明和工業が製造する飛行艇US-1やUS-2では、艇体の水密信頼性を上げるため主脚では水密部位を脚の回転基部に限っており、格納部全体を覆うカバー(および付帯する開閉機構の水密部位)は省かれた。そのため主脚のタイヤは格納後も機外に露出している。A-10 (航空機)では胴体着陸に備えて主脚引き込み時も、収容部から接地面=タイヤ外周が一部露出している。高高度を長時間飛行する国際線の旅客機では、航空機に付着した氷塊が降着装置の展開(ギアダウン)により空港付近に落下する事例があり、成田空港では落下物発生防止を目的として、到着機にギアダウンを太平洋上で行わせる措置(洋上脚下げ)を義務化しているが、年間約3件(凡そ10万便につき1回の割合)程度発生している。 固定式は格納式に比べ空気抵抗が増えるものの、複雑な機構を必要とせず軽量で頑丈であるため、機構の重量が機体の離陸重量に比して無視できない小型機では固定式が主流である。特に高速・長距離飛行を行わず操縦に不慣れな訓練生の荒い着陸が多い初等練習機や、重量にシビアで危険な飛行を行う曲技飛行機では固定式の利点が多い。固定式では空気抵抗を軽減するため、降着脚を空気抵抗が少なくなる形状としたり、タイヤをホイールカバー(スパッツ)で覆うなどの工夫が施される。特にエアレース用の機体はホイールカバーや降着脚の形状がタイムに影響するため特注品に交換されることもある。 水上機用のフロートは速度性能よりも降着時の大きな衝撃に耐える信頼性が優先され、機体に収納することも困難なため基本的に固定式である。飛行艇の降着装置は着水時に抵抗になるため格納式が多いが、リパブリック RC-3 シービーのように主脚を跳ね上げる形式もある。 グライダーでは空気抵抗を最小限にするため降着装置を搭載せず、胴体下部を擦って離着陸する設計が多いが、取り回しを優先し接地する部分だけを露出させた車輪を持つ機体や、引き込み式も登場している。基本的に草地で運用され低速なことから緩衝装置などは搭載せず胴体の前後に1輪だけのタンデム式である。モーターグライダーではプロペラが地面と接触しないように固定式の降着装置を有する機体もある。 荒れ地から離陸する急降下爆撃機(Ju 87) ボーイング737-700型機の主脚(格納状態) 車輪のスパッツを交換したエアレース機(ジブコ エッジ540 V3.5) 主脚を跳ね上げた飛行艇(リパブリック RC-3 シービー) 前輪が固定式のグライダー 主輪が引き込み式のモーターグライダー
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